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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第三章 休暇中の大騒動「燃ゆる温泉街」編
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第47ページ 他人の事情・独白

季節が季節だけあり、魔物はほとんど出てこなかった。

偶にゴブリンが出てくるだけで、そのゴブリンも問題なくアステールが片付けた。

苦労したのはアステールがゴブリンを食事としか思っていないことだ。

弱肉強食では仕方ないことかもしれないが、さすがにゴブリンを食べさせたくはない。


それ以外には何の問題もなく順調に進んでいる。

馬車二台にしては護衛が足りないのではないかと思ってもいたのだが、グード商会専属護衛の人が何人かおり、余裕であった。


「へー、じゃあセゾンさんはもう20年以上もグード商会の護衛をやっているのか」

「ああ。グードさんには若い頃世話になってな。俺は腕っぷしくらいしか取り柄がないから護衛をやらせてもらっているのさ。と言ってもそれ程強いわけでもないがな」


セゾンさんは商会というよりもグードさんの護衛として働いているらしい。

グードさんは、一代でグード商会を築き上げ、その規模をどんどん拡大しているやり手商人。

現在は息子さんに商会の取り仕切りを任せ、自分は会長として好きに行動しているらしい。

必ず儲けを出しているから、息子さんも何も言えないそうだ。

苦労しているな息子さん。


グード商会の本店は王都にあり、現在はマジェスタ王国一となっているほどの商会。

既に他国へも手を伸ばしており、ゆくゆくは大陸一の商会を目指しているそうだ。

あの人ならやってしまいそうだ。


―・―・―・―・―・―


グード・ヘンドラー 58歳 男

HP:275

MP:55

魔法属性:土

<スキル>

幸運、友好、算術、値切り、交渉、魔道具作成、目利き、指揮、礼儀作法、鑑定

<ユニークスキル>

神の見えざる手(マネーワーカー)

<称号>

根っからの商売人、流れを読む者、努力家、千客万来、大商人、億万長者

<加護>

文化と商業の神の加護


―・―・―・―・―・―


なんといってもステータスがこれなのだ。

商人以外に生きる道はないと言っても過言ではないだろう。


「シュウさんは、ガイアを拠点に活動なさるのですかな?」


噂をしたら影だ。

グードさんが俺の所へと歩いてきた。


「そうだな…帰る場所としてはそうなるかもしれないが、旅に出るつもりだよ」

「ほう、旅」

「ああ。色んな所を見てみたいからな」

「でしたらシュウさんも我々の商隊の護衛として雇われませんか?」


なるほど、それを言いたかったわけか。


「すまないが俺は自由に動きたいんだ」

「そうですか。ですが、依頼はさせてもらいますよ」

「予定がなかったら受けさせてもらうよ」


まったく食えない人だ。

あんなに目をぎらつかせていたくせに、俺が断るとすぐに反感を買うようなことはせず引き下がった。

腹芸では絶対に勝てそうにないな。

年季が違う。


「シュウさんは、感情が顔に出やすい人ですね。そういうところは年相応だ」


笑われた。

いや、海千山千のあなたと一緒にしないでいただきたい。

セゾンさんも苦笑している。


---


「エントたちは、いつから組んでいるんだ?」

「僕らは出身が一緒なのですよ。ガイアから少し東へ行ったところにある村なんですがね」


ふーん。

歳も全員同じくらいだし、幼馴染でパーティーを組んだってことだろうか。

そういうのもいいな。


「僕らの村は、働き手が十分いましてね。仕事にあぶれたんで冒険者になったんですが、幸いといっていいのかそれでやっていくことができたので、細々とやっていたらCランクまでこれました」


冒険者がランクアップするには依頼の数をこなすことも大事だが、依頼失敗を極力しないということも大事になってくる。

彼らは自分たちの能力を把握し、できると思った依頼しか受けないらしい。

堅実で実にいいと思う。

自分がやるかと言われたら微妙だが。


「シュウさんはお強いのですね。どなたか有名な方に師事していたりするのですか?」


どう答えるかな。

まぁ適当だ。


「いや、特定の誰かに師事したことはないな。幼いころから色々と習って育っただけだ」


本当は見て育っただけなのだが、そんなことは言えない。

自分の能力がこの世界においても異常だというのはわかっている。

それ自体は別に構わないのだが、やはりきちんと努力をしている人に対して申し訳ないと思うことはあるのだ。


一度見てしまえば使える。

俺に努力は必要ない。

それを知れば、ずるい、卑怯だ、と言ってくる人は必ずいる。

向こうの世界でもそうだったのだから。


俺の能力は努力する人を嘲笑う能力だ。

便利な能力ではあるのだが、この能力を失くせると言われたら俺はどうするだろうか?

そんな夢物語を考えても仕方ないけどな。


努力することをできない人間の気持ちはわからないだろう。

当然だ。

そんな人間のほうが少ないのだから。


だから、俺はこの能力についてはなるべく秘匿したいし、全知眼の能力もあまり使いたくない。

便利すぎる能力というのは時に自分の足枷となるものだ。

全知眼なんてチートな能力を使えば、この場にいながら世界を見れる。

だが、それは違うだろう。

実際に足を運んでこそ、見るということではないのか。


他人のステータスや物の詳細を見れるのはありがたい。

夜目や遠視も助かっている。

だが、こちらの能力は…できれば習得したくはなかったな。


それが自分の我儘だというのはわかっている。

全知眼の未来視を使えば、敵に勝つのも簡単だ。

相手がどう動くかがわかっているのだから。


過去視を使えば、わざわざ魔力を追って魔族と確認する必要もなかったのかもしれない。

こちらは証拠が必要になってくるから結局調べなければいけなかったかもしれないが。


千里の先を見通すことも、魔力の流れを解析することも、この眼をもってすれば簡単なことなのだ。

ただでさえおかしな性能の能力を持っているのに、更に破格の性能の力を授かってしまった。


だからこそ、俺は自分が楽しむために、なるべく使わないという縛りプレイをするだろう。

ここはゲームの世界ではないと怒られるかもしれない。

なぜ早く使わなかったのだと責められることがあるかもしれない。


だが、それでも、俺はすべての努力を否定してしまうような自分の力を、全力で振るいたいとは思わない。

神の如き力を持とうとも、俺は神ではないのだから。



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