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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第三章 休暇中の大騒動「燃ゆる温泉街」編
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第46ページ 護衛依頼

「うーん…あんまりいい依頼がないなぁ」


季節は秋。

せっかくBランクの冒険者になったというのに、討伐依頼が見当たらない。

それは、冬が近く、魔物たちも越冬のために食糧確保とか寝床の充実とかやることがたくさんだからだと聞いた。

人を襲っている暇なんてないんだ、と。


誰に聞いたかと言われれば熊だ。

数日前に俺が採取依頼に出ていたときだった。


俺が異世界へと来たときにいたあの森。

ガイデン森林と言うらしい森でのキノコ採取以来のとき。

その森の主らしい熊にあった。

人語を話せるその熊にいろいろと教えてもらったりしたものだ。


人は食糧ではないのか、と聞いたら、人よりも楽に狩れる食材があるのだからそちらを狩ると言っていた。

普段は縄張りに入ってくるから仕方なく相手してやっているのだ、と。


そんなわけで今は魔物の活動もおとなしい。

これで完全に冬となればまた別で、なんでも寒い地域にしかいないような魔物が南下してきたりするらしい。

迷惑なもんだ。


「うん?」


その中で一件、他のものとは毛色の違うものがあった。


至急〔護衛依頼〕グード商団の護衛依頼

内容:グード商談馬車2台、人8名の護衛。

期間:ガイアからアキホまでの道程2週間程。

報酬:金貨2枚。

備考:食事支給。複数人募集。


「ふーん…護衛依頼か」

「珍しいですよね、この時期に」


後ろから声がかかる。

人が近づいてきているのはわかっていたから、驚いたりはしない。

振り返ると、荷物を抱えたレイラだった。


「珍しいのか?」

「ええ、珍しいです。この時期は魔物の活動が穏やかになる代わりに盗賊の活動が活発になりますからね」


なるほど。

盗賊にとって魔物を警戒する必要があまりないこの時期が稼ぎ時ってことか。

そういえば盗賊討伐の依頼は出ていたな。

パーティー推奨だったから俺には関係ないが。


「ならなんでこの時期に?」

「さぁ?でもお急ぎみたいですよ。お受けしますか?」

「複数募集となっているが?」

「一組4人パーティーが既に受けています。シュウさんとアステール君が加わるなら十分だと思いますよ?」

「そうか…」


聞き流したが、レイラは依頼すべての受注状況を覚えていたりするのだろうか。

さらっと言ったな。


「このアキホというのは?」

「ガイアから北西の方角に二週間程の場所にある繁華街ですね。温泉街としても有名ですよ」

「温泉!!」


あるのか!この世界に!

というかレイラなんでも知ってるな。


「この季節でしたら葉も色づいておりまして、綺麗ですよ。最近、シュウさんは何かと忙しかったですし、休暇だと思って行ってきたらいかがですか?」

「そうだな…それもいいかもな…」


温泉と聞いたら行ってみたくはなる。

辺境伯城に浴場はあるのだが、一度しか入ったことはない。

一度入ったことがあるだけでもいい方だろう。

風呂に入るという習慣はこの世界の人間では貴族くらしかないそうだ。


「よし!行くか!」

「でしたら手続きいたしますね」


さすがだ。

いつの間にか受付へと入っていたレイラが依頼書を受け取ってくれる。

問題なく手続きをし、明日のこの時間にギルドへ来るよう言われる。


さて、今日はどうしようかな?


---


「おはようございます」

「ああ、おはよう」


翌日、ギルドに来た俺は、レイラのいる受付へと来ていた。

この子はきちんと休みを取っているのだろうか?


「グードさんがお待ちです。上の会議室へどうぞ」

「ありがとう」


言われるままにギルドの二階へと上がる。

そういえば二階に上がるのは初めてだな。


ギルド二階は会議室や資料室などがある。

護衛依頼など依頼者と会う必要がある場合はこの会議室を使うらしい。


ノックして部屋に入る。


「おや、あなたは」

「ん?あ、あんた雑貨屋の…」


そこにいたのはいつぞやカメラを買った雑貨屋の店員だった。


「え、あんたがグード?商会の会長だったのか?」

「ええ、偶にああやって店番をしたりしているのですよ。そうですか、あなたが最近話題の竜殺しさんでしたか…」

「そんな大層な名前が付くようなことはしてないんだがな」

「いえいえ、下位とはいえ竜種を単独撃破は本来なら有り得ませんよ」


グードは苦笑気味だ。


「しかし、あなたが引き受けてくれるなら安心できます。よろしくお願いできますか?」

「ああ、構わない。だが、なんだってこんな時期に?」

「実は近々アキホで祭りがあるようで」

「ほう?」

「稼ぐにはもってこいなのでございます」

「さすが商人だな」

「ありがとうございます」


今度はこっちが苦笑する番だ。

確かに人が集まれば稼ぎ時なんだろうが、命あっての物種ではないのだろうか?

まぁいいか。


「では、明日の朝出発ということで構いませんか?」

「こちらはいつでも構わないぞ。ああ、そうだ、従魔がいるのだが大丈夫か?」

「ブラック・ヒッポグリフでございますね。無論でございます」


何故知っている…?

その疑問が顔に出ていたのかグードが笑顔で答える。


「商人には情報が命でございますので」


商魂たくましいな。

頭が下がる。


---


翌日早朝。

南門に集合だということで俺はアステールを連れて南門へと向かっていた。


この時間帯に出歩くことはあまりないのだが、早いところはすでに商売を始めていたりする。

真似できないな。

それほど朝に弱いわけではないのだが、ゆっくりできるならしておきたいのだ。

全国の高校生はほとんど同じ思いを抱いていると思う。

もっとも、もう高校生として生きることはないだろうが。


出ていた露店で買い食いをしながら南門へと向かう。

ちなみにアステールは雑食だ。

何を食べるのだろうと思っていたら何でも食べた。

野菜よりは肉の方が好みのようだが。

調べてみたらヒッポグリフは人肉も食べるらしい。

絶対に食べさせたくないがな。


そうこうしているうちに南門が見えてくる。

商団はもう着いているようで、二台の馬車とその周りに人影が見える。


「すまない。遅れたか?」

「いえ、大丈夫ですよ。紹介します、今回シュウさんたちとは別に依頼を受けてくれた方たちです」


グードが指す方にはぽかんと口を開けてアステールを見ている俺よりも少し年上くらいの冒険者4人がいた。



「綺麗だろ?」

「え!?あ…うん、そうだね。魔物に対して警戒よりも見惚れたことは初めてだよ」

「ほんと…話には聞いていたけど実物はそれ以上ね」

「まったくだ。美術品とかはわからねぇがこいつが綺麗ってのは俺にもわかるぞ」

「ですね。あの、触ってもいいですか?」


口々に感想を言ってくる。

どうやらアステールのことは街の噂になっているようだ。

ギルドの厩にいるときに人が覗いているのを見たりする。

そうだろう、そうだろう。

美しいものな。

今は朝日が当たり、その黒い羽毛が煌めいて更に美しさが増している。

うん、我が相棒ながら素晴らしい。


「アステールに聞いてくれ」


そう言うと、アステールの方に目を向ける。

アステールは黙ったまま目を閉じることで意を示した。

恐る恐るといった感じで撫でる。


「うわぁ!」

「つ、次私もいいかな!」

「こらこら、それよりも自己紹介が先だよ」

「あ、そうだった。私はランよ」

「俺はドダイだ」

「私はテーネです」

「そして、僕がこのパーティーのリーダーをしているエントです。今回はよろしく」

「シュウだ。よろしくな」


Cランクパーティー「草原の光」

それが彼らのパーティー名だそうだ。

エントが剣士、ドダイが盾、ランが魔法師、テーネが回復魔法師というバランスの取れたパーティーで、護衛依頼は慣れているそうだ。

頼もしいな。


「それで、シュウさんのランクは…」

「こないだBになったな」


そう言うと、みんなが驚いたように口を開ける。


「どうかしたか?」

「い、いえ。申し訳ありません。シュウさんの名前をあまりお聞きしたことがなかったものですから」


俺がギルドに登録してからまだ二ヶ月ほどだからそれは仕方ないだろうな。

そう言うと、またしても驚かれた。

Bランクまで上がるのが早すぎるそうだ。

そう言われてもな。


「ふふ、シュウさんは竜殺しですよ」

「え!?あの話題の!?」


どういう話題になっているのか一度調べた方がいいだろうか?

というかそれは俺の二つ名的なあれで固定になってしまったのだろうか?

まぁもっと厨二な感じのを付けられるよりはましか?


自己紹介が終わった俺たちは、道程を確認して出発した。

もっとも、道程なんて俺はわからないからお任せだが。


二台の馬車を真ん中にし、先頭に俺、左にエント、右にドダイ、後方がランとテーネというフォーメーションだ。

馬車二台を囲んでいるから結構空きが出てしまうが、俺とエント、テーネが

索敵スキルを持っているから大丈夫だろう。

アステールもいるしな。


さて、道中何もなければいいんだが。

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