閑話 精霊の悩み(サラ視点)
『お久しぶりです精霊王様』
《久しいな、サラ》
王都へと帰還したのちの夜。
私は精霊王へと連絡を取っていた。
水に浮かぶ月を介して行う中位精霊以上にだけ許された「謁見の水面月」という魔法だ。
しかし、この魔法は極力使ってはならないことになっている。
理由は精霊王の一言だ。
「仕事を増やすな!」
《して、要件はなんだ?》
『はい。新しい異世界人でございます』
《またか…どんな奴だ?》
『わかりやすい男です。自分の興味があることにしか食指を動かさないような』
《あの錬金術師のようなか?》
『いえ、あそこまで極端ではないのですが…何より自由であることを求めるようでした』
精霊固有のスキル「真実の瞳」。
このスキルは人のステータスを見ることもできるが、その本質となるのは人の深層意識を見るというものだ。
人に対して根はいいやつ、や根が腐っているなどと言われることがあるが、精霊はこの根を直接、より詳細に視るのだ。
《自由か…》
『はい。それゆえに悪に堕ちることはないでしょう。悪事をしないとは言えませんが…』
悪に堕ちる。
それは闇に魂が捕らわれてしまうことを指す。
だが、あの者は自らの決めた何かに従い行動していた。
己に介した戒律を破ることはしないだろう。
『彼はあるスキルを所持しております。あのスキルがあれば、彼はいずれ神にも届きうるでしょう』
《…何?》
『しかし、彼はそのスキルを使うことを制限しているようでした』
《制限とな?》
『便利すぎる能力を逆に疎んでいたようです』
《ほう?》
彼は何よりも自由を求めながら、それでいて自分を縛っていた。
興味が湧いた。
何が彼をそうさせるのだろう、と。
彼の心の奥底にあったのは自らの能力に対する嫌悪。
その感情の源まではわからなかった。
何故彼があれほどまで便利な能力を使わないのか理解することも難しい。
しかしながら、だからこそ、あのスキルを有していても大丈夫だと思えたのだ。
『力に溺れず、力に流されず、力を抑え、力を振るわない。彼ならばもしかしたらあの方たちも…』
《どうにかできると?この私が何千年とかけて無理だったことを成し遂げることが人の子にできると?》
『その可能性がある稀有な子です』
《……》
これは精霊王への侮辱に当たるかもしれない。
自分はただの中位精霊。
方や相手は四大精霊や二極精霊をも超える力の持ち主。
精霊すべての王たる存在。
自分など一瞬にして消されるだろう。
だが、自分たちの王はそんなことを気にしないとしている。
《ハハ、ハハハ、ハーハハハハッ!!》
『…』
《面白いっ!面白いぞサラよっ!精霊にそこまで言わせる人の子!なるほど、稀有な存在よ。一度会ってみたいものよな》
『彼は能力により精霊を見ることも可能でした。いずれは精霊界にも辿り着くでしょう』
《そうか、それは上々。その時を楽しみにしておくとしよう》
そこで通信は切れた。
『ふぅー』
緊張の息を吐き出す。
いくら精霊王が気さくな方だと言えど、自らの種族の頂点に君臨する圧倒的存在との対話に緊張しない訳が無かったのだ。
愛しい子が眠る屋敷を見る。
あの子と契約してから15年が経とうとしている。
今のあの子なら上位精霊や四大精霊とも契約することが可能だろう。
にも関わらず、変わらずに自分を傍においてくれている。
そんな心優しい愛しい子。
おそらく契約解除など考えてもいないだろうあの子。
あの子の為なら私はなんだってする。
だが、これから起きるかもしれないことは果たして私の力でどうにかなることだろうか。
私の胸には不安が満ちていた。
そろそろ決断の時かもしれない。
一度あの子の傍を離れ、力を付けた後、またあの子の元に。
それが一番いい。
私は決意を固める。
頬を流れる水滴が、私の心を表していた。
それを振り払うように首を振る。
明日、トマスに話そう。
あの子から引き止められたりしたら、せっかくした決心が鈍ってしまいそうなのだから。
サラ視点でした。
これからサラは修行に行きますが、触れません。
希望があれば再登場したときにちょろっと書くかな?




