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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第二章 友との出会い「深淵の森」編
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第43ページ 一時の別れ

街に入ってからそのまま冒険者ギルドへと向かう。

ギルドには従魔のための厩も設置されていたしアステールを連れて行っても問題はないだろう。


問題は宿だな。

「牡牛の角亭」に厩はあっただろうか?

気にしていなかったからわからない。

聞いてみるしかないだろう。

あそこは料理もうまいし、亭主も女将も人がいいから気に入っているのだが、最悪移らねばいけないだろうか。

そう考えると少し気落ちしてくる。

だからといってアステールを連れてきたことに後悔はないが。


「じゃアステール、俺は報告をしないといけないからここで待っていてくれるか?」


ギルドに隣接された厩までアステールを連れてくると、素直に頷き中へと入っていく。

初めて見るはずなのにほんとに賢いな、あの子は。

だが、アステールが入った瞬間に中にいた他の動物がビクついてオドオドし始めたのは少しかわいそうだが許して欲しい。


俺はアステールが一番奥の囲いに入り、まるでその場の王であるかのように泰然としているのを苦笑しながら確認し、ギルドへと向かった。


---


中に入ると、夕方ということもあり既に晩酌を始めているやつもちらほらいる。

受付は少し並んでいたが、待つこと少々で俺の番になった。

特に狙ったわけではないのに、受付の担当はまたしてもレイラだった。


「あら、シュウさん。戻られたのですね。おかえりなさい」

「ああ、ただいま。ギルド長に取り次いでくれるか?」

「お待くださ…っ!?どうしたんですか!その格好!?」


忘れていた。

今の俺は怪我は治っているが自分の血やら相手の返り血やらが付着したままだ。

怪我にしても完治させたわけではないのでよく見たらわかるだろう。

すっかり、忘れていた。


「あーなんだ。大したことじゃない。それよりギルド長を頼む」


レイラはまったく信用してないみたいでジーっとこちらを見てきたが、俺が説明する気がないのがわかるとため息をついて奥へと消えた。


しばらくしてレイラが戻ってくる。

ギルド長が会うからどうぞ入ってくれということなので勝手に入っていく。


ギルド長の執務室に一応ノックをしてみると、入れと声がかかったのでお邪魔する。


「よぉ早かったな。坊ちゃんの魔法使ったか?」

「ああ、まあな。便利な魔法だったよ」

「はっ、何を何を。ってことはお前ももう使えるようになっているだろうによ」


よくおわかりで。

俺も門のところにマーキングをしておこう。

あまり使う気はないのだが、緊急時にあるにこしたことはないからな。

もっとも俺ならマーキングなんか不要な気もするが。


「坊ちゃんはどうした?辺境伯のとこか?」

「ああ」

「…それじゃ報告を聞こうか」


俺は深淵の森であったことをできるだけ詳しく話した。

転移魔法陣、迷宮、黒白の王、魔族、魔人巨兵もどき。

そして、アステールのこと。


「……それだけのことがありながら一番重要なことだと言わんばかりに従魔の話を最後に持ってくる辺りお前の胆力には呆れるよ」


何故か苦笑いだった。

ただ時系列に沿って話ただけなのに。


「とりあえずは俺たちも辺境伯のとこに行くか。これは話をしなくてはならん案件だろう」


ということでグラハムと一緒に辺境伯城へと向かう。

なんだかんだ言ってた割りにアステールを見て感心したように笑っていた。


---


「ご苦労だったな、シュウ」


辺境伯城にて。

現在ここには辺境伯、マインス、ギルバート、ベン達、そして俺とグラハムしかいない。


アステールはどうしようかと思っていたら辺境伯城にも厩があるそうでそこに預けている。

ここにいるのは優秀な馬たちばかりでそれほどの動揺はなかったようだがギルドの時と同じように泰然としていた。

さすがである。


「ああ、疲れたよ」

「とにかく無事で何よりだ」


俺たちがここに来るまでにベン達が同じように報告をしていたようで、辺境伯は事情を既に把握していた。

ここからは全員で情報を精査する作業になる。

しかしながら俺はこの世界のことなどほとんど知らないために大抵聞き役だ。

たまに魔族や魔人巨兵と戦ってみてどうだったか聞かれる。

あの魔族はおそらく幹部であろう六魔将の一の部下とか言っていたから強い部類に入るのではないだろうか。


どうやら六魔将のことは知られているようで、魔王直下の六人の上位魔族のことらしい。

その力は過去一人で国を滅ぼしたことが実際にあるとか。

そんな奴らが動き出しているなら注意しなければいけないだろうな。


---


報告を終えた俺は、辺境伯城をあとにする。

その際、どこから聞きつけたのかララが治療させろと来て少し大変だった。

さすがに泣きそうな顔で言われたら断れないのでさせた。

彼女はまだ中級までしか使えないらしく謝られたが気にするなと言っておいた。


この街で上級の光属性回復魔法を使えるのは教会にいる司教様だけらしい。

そういえばベンにも行ってみるといいと言われてたし今度教会に行くか。


ベン達は明日の朝、魔法で発つらしい。

そのときにはまた見送りに行くとして今日はもうゆっくり休もう。


牡牛の角亭ではありがたいことに厩があるらしい。

聞いてみると舐めるんじゃないよっと女将さんに笑われた。

相変わらず快活の人だ。


「ああ、シュウ。おかえり」

「…ただいま」


まるで我が家のように俺を迎えてくれた女将さんに俺は思わず照れくさくなって笑ってしまった。

すると今度はドンッと背中を叩かれた。

地竜並の衝撃が来たとか言ったらぶっ飛ばされそうなので言わない。


その日は久しぶりのベッドでぐっすりと眠った。

なんやかんやと疲れが溜まっていたようで今までにないほどの快眠だった。


---


翌朝。

ベン達を見送りに辺境伯城へと来た。

既に準備はできており、どうやら俺を待っていたようだ。


「悪い。遅くなったか?」

「いや、いいよ」


ここにいるのはいつものメンツ。

俺とアステール、ベン達、辺境伯とララ、マインスとエルーシャ、そしてグラハム。

グラハムは暇じゃないはずなんだが大丈夫なんだろうか?


「じゃあね、シュウ」

「ああ」

「またすぐ会うことになるかもしれないけど」

「かもな」


魔族の動向にもよるが、もし全面戦争とかになったらベンも俺も戦場に駆り出されるだろう。

まったくこいつと会うとどうにも面倒ごとが起きる気がする。


「…何か失礼なこと考えてない?」

「気のせいだろう」

「まったくもう。まぁ、いつか王都にもおいでよ。歓迎するよ」

「いつかな。お前の家に行くかはわからんが」


そう言うとはぶてたように頬を膨らませる。

仕方ないだろう。

公爵家なんて俺には合わんよ。


「シュウ様、お世話になりました」

「いや、お世話になったのは俺の方だと思うんだが…また、お前の作った飯が食いたいな」

「いつでも王都にいらっしゃってください」


トマスまでそんなことを言ってくる。

言われなくてもいつかは行くっての。

時計も買いたいし王都なら他にも色々ありそうだ。


サラはヒラヒラと手を振ってくるだけだ。

ここにいる大半には見えてないのだから仕方ないのかもしれないが。

それには笑って頷くだけで返す。


「ところで迷宮で魔物から採った素材なんかはどうすればいいんだ?」

「あ、忘れてた…」


迷宮現れた魔物の素材は可能な限り採取している。

ガーディアンのものは倒すと消滅してしまったからないのだが。

採取したものは全て俺のキーの中だ。

ベンの魔法でもよかったのだが、あれは開いたり閉じたりするときに一々魔力を消費するらしく、なら俺のキーにまとめていれておけばいいか、ということになった。


「んーシュウに全部あげるよ。俺たち別にお金に困ってないし」

「俺も困ってないんだが…いいのか?」

「いいよ。シュウの魔法で倒したのが大半だし」

「そうか。ありがとう」


忘れそうだから早めに売ることにしよう。

スケルトンが持ってた武器類もギルドで買い取ってくれるのだろうか?


「それじゃ、シュウ。楽しかったよ!」

「ああ、俺もだ」


ベンが詠唱を始める。

慣れた場所に慣れた人だけの転移なのであまり時間はかからなかったようだ。


「バイバイ」

「じゃあな」


1分もしないうちにベン達の姿が消えた。


「さて、シュウ。今回の調査はお前のランクアップ試験も兼ねていた訳だが…」


グラハムが言ってくる。

そう言えばそうだったな。

色々あって忘れていた。


「そうだったな。それで、どうなんだ?」

「ふっ。聞くまでもなかろう。坊ちゃんとトマスから評価は貰っている。合格だよ。お前は今日からBランク冒険者だ」

「…そうか」

「ただ…」

「…ただ?」

「周りが見えなくなることが玉に瑕。だそうだ」


言ってくれる。

だが、それはあいつらが一緒に冒険する中で感じたこと。

無下にはできないな。

気をつけるとしよう。

…気をつけたところでできるかは知らんが。


こうして俺のランクアップ試験は終了した。

日本の思い出を共有でき、俺と肩を並べて戦闘できる無二の友達と、これから相棒となる美しい魔物を報酬に。

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