第42ページ 帰還
地上は魔人巨兵もどきの体液なのか皮膚なのかよくわからない物質によって埋め尽くされていた。
ベンたちの姿は見えない。
「おーい、ベーン」
「ここだよ」
「お、ちゃんと避けてたな」
呼んでみるとサラの風の中で浮いているベンたちのがこちらへと近づいてきた。
「また派手にやったね」
「仕方ないだろう。核壊したらこうなったんだよ」
《んーでも迷宮前がそんな状態は困るなぁ》
「まだ見てたのかクロ」
《そりゃそうさ!友達がどうなったかちゃんと見ないとね》
「いや友達って…」
《仕方ない。片付けるかな》
「できるのか?」
《まぁ見てなよ。闇よ、全てを飲み込み喰らう深き深き闇の世界よ、我ここに扉を開かん。〈ダークネスホール〉》
詠唱が終わると同時に、謎物質がある地上部分を覆うように闇が広がった。
闇が広がり終えると、今度は謎物質がまるで地面に沈んでいくように闇の中へと消えていく。
しばらくすると辺りには闇の黒しか見えなくなり、だんだんと闇自体も小さくなっていきそれも消えた。
「特級闇魔法ダークネスホール…全てを飲み込む闇の吸収…それをこんなにも簡単にこの規模で…」
トマスが信じられないというように呟く。
上級より更に上、特級魔法。
使える者は須らく歴史に名を残すと言われるほどの魔法。
魔法師が数人がかりで行使しても足りぬ魔力と1km先から針穴に糸を通すかのように精密な魔力制御の能力が必要なもの。
「化物だね」
「何を今更」
《ふーキレイになったね》
言うように、そこにはもう謎の物質は残っていなかった。
初めて来たときと変わらない何の変哲もない地面が見えていた。
「…なぁ、調査に来たならあの物質持って帰った方がよかったんじゃないのか?」
「「あ」」
気まずい沈黙が降りる。
《そういうの早く言ってくれないとー》
空気を読めよ!!
「ま、まぁあの襲撃が魔族によるものだってわかっただけでもね!」
「そ、そうだな!今回の目的としては十分だよな!」
どうにか空気を取り繕う変な雰囲気が流れている。
これは早々に話題を変えるべきだろう。
「そ、そういえばそのヒッポグリフは?なんか見たことない色してるけど」
「あ、ああ。こいつはブラック・ヒッポグリフっていうヒッポグリフの上位種みたいだな。お前もありがとな」
「クゥル」
ポンと頭に手を載せると撫でろと言わんばかりに額をこすりつけてくる。
よーしよしと大型犬にするようにしてやれば気持ちいいのか機嫌よさそうに鳴いている。
「随分懐いてるね」
「ん?ああ、そうだな…」
『ところでもう帰るの?』
「うん。成果としてはもう十分じゃないかな?」
「そうですね。私もよろしいかと思われます」
「だな。帰りはベンの魔法でひとっ飛びか?」
「そうするつもりだよ。早くベッドで休みたいし、報告も急いだ方がよさそうだしね」
《えー…また来るかい?》
「さぁな」
《そんなぁ…》
「まっお前が外に出てくるかもしれねぇだろ?」
聞いた限りその錬金術師だとどうにでもしてしましいそうな気がする。
やっぱり会いたくはないんだが…
どうにも会うことになりそうな予感が…
「お前ともお別れだな」
「クル…」
そう言うと少し寂しそうに額をこすりつけてきた。
おそらくさっきの魔族に仲間は殺されてしまったと見るべきだろう。
こいつ自身Aランク程の実力はあるようだからこの森でも生きていくことはできるだろうが、やっぱり寂しいんだろうな。
「ねぇシュウ。その子連れてったら?」
「ん?」
「魔物を従魔として連れてる子も珍しくないよ?」
従魔ね…
ペットみたいなものだろうか?
俺としては構わないんだが…
「お前俺と来るか?」
ブラック・ヒッポグリフは少しだけ悩む素振りを見せたが、すぐに頷いた。
「そうか」
俺も少し嬉しくなってしまい、撫でまくる。
だが、今回は撫で方が気に入らなかったのか身を引かれてしまった。
残念。
「名前はどうするのですか?」
「名前か…」
ネーミングセンスにはまったく自信がないのだが…
そうだな…
「アステール。お前の名前はアステールだ」
ブラック・ヒッポグリフと…アステールと瞳を合わせながら言う。
ギリシャ語で星を意味する言葉。
初めて見たときから思っていたこと。
漆黒の身体で二対に輝く瞳。
それはまるで夜に瞬く星のよう。
「これからよろしくな、アステール」
「クルル」
気に入ってくれたのかコクリと頷く。
「さて、それじゃ帰ろうか!」
「そうだな」
『帰りましょう。さすがに疲れたわ』
「そもそもこの人数で迷宮に挑むっていうのがおかしいですからね」
この中で唯一一般人であるトマスが言ってくる。
過ぎた話だ。
仕方ないだろう仕事だったんだ。
ベンが魔法の詠唱に入る。
マーキングしているとは言えかなり距離が離れているため、数分かかるということだ。
その間は雑談をして過ごす。
「行けるよ」
「そうか。じゃあな、クロ。またな」
《うん、またね》
その後、俺の視界は暗転した。
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「着いたよ」
目を開くと、見覚えのある門だった。
現在時刻は夕方。
日が沈んで来ている。
なんとか閉門時刻には間に合ったというところか。
「よぉお疲れさん」
門番をしているのは顔なじみの衛兵だった。
というかだいたいこの北門の門番こいつな気がするんだが?
その衛兵は何やら目を見開いてこちらを見ている。
「なんだお前か。いきなり現れるからビックリしたぞ。変な魔法使いやがって」
「いや変なって…それにこれは俺の魔法ではないんだが…」
「帰ってきたのか?」
「ああ、まぁな」
「ん?お前そいつは…」
現れたのが俺だとわかり警戒を緩めると、今度はアステールに目を止めた。
「俺の従魔になったんだ」
「ほう?街に入れるなら従魔登録が必要になるがいいか?」
「ああ、頼む」
「じゃあシュウ、僕らは先に入ってるね。辺境伯とグラハムさんに報告しないといけないから…」
「ギルドの方には俺が行くよ。そのあと辺境伯城に行けばいいんだろ?」
「そうだね。今日はそこで休むと思うし」
「ああ、わかった」
俺は衛兵に連れられ、門番の詰所のようなところへ。
ベンたちは身分証を提示し、何の問題もなく中へ。
いや、馬車をお呼びしますという衛兵を固辞するのに少し揉めてたが。
「従魔登録はステータスカードへの登録と従魔である証をそいつに着けてもらうことだけだ。じゃカードを」
「ほい」
俺がカードを渡すと手のひら大の水晶を取り出した。
「名前は?」
「シュウ」
「お前のじゃなくて!」
「ああ、アステールだ」
「アステールな。なんでもいいからアステールのものもらえるか?」
「もの?」
「なんて言ったかなー?でーえぬえー?とか言うのを登録するんだと」
それはDNAのことか?
なんでこっちの世界のやつがそんなことを知っているんだ?
そういえばステータスカードって便利すぎるよな。
誰が作ったんだ?
「なぁステータスカードって誰が作ったんだ?」
アステールの羽を一枚抜きながら尋ねる。
それを受け取り衛兵が水晶に近づけると羽が吸い込まれるように消えた。
「えーっと…誰だっけ?」
詰所で休憩をしていた別の衛兵に聞いてくれる。
「確かニコラスなんちゃらじゃなかったか?」
「あーもういい。わかったから」
またか。
いったいいくつの偉業を成し遂げてらっしゃるというのだ。
「ああ、それと従魔の証な。首輪か首飾りか、足輪なんかもあるぞ?どれがいい?」
「そうだな…どれがいい?」
衛兵がそれらが入っている箱を見せながら聞いてくる。
だが着けるのはアステールだから本人に聞くのが一番だろう。
するとアステールは少し眺めたあと一つの足輪を咥えた。
「それがいいのか?」
「クル」
「だそうだ。頼む」
「おう、了解。しかし、自分で選ぶとは賢いんだな」
「まぁな」
「じゃ銀貨3枚だ」
「金取るのか」
「当たり前だろう」
衛兵は人が悪そうな笑みを浮かべる。
まぁ当たり前と言われれば当たり前か。
俺はアステールが選んだ紅色の足輪を着けてやり、衛兵に金を渡す。
これで手続き終了ということでやっと街へと入った。
はぁ帰ってきたな。
疑問が寄せられておりましたので主人公が精霊魔法を使えるようにならないことについて説明いたします。
精霊魔法は精霊との信頼関係があって初めて成立する魔法です。
基本精霊魔法のスキルを持つエルフやベンは幼少の頃より下位精霊などと接することによりこれを獲得します。
称号「精霊の友」がその証です。
主人公が精霊を認識したのはつい先日であり、まだ獲得には至っていません。
しかし、この時から精霊眼を常時開放状態にしておりますのでだんだんと信頼関係は生まれていきます。
いずれは使えるようになるでしょう。
春日のここ空いてますよ?ならぬ主人公のここ空いてますよ?状態です。
下位精霊は基本、意思を持たない存在なのですが、その分本能的な好き嫌いがあります。
精霊魔法が使えるからといって全ての属性の精霊魔法を自在に使えるわけでもありません。
火の精霊から好かれている人は水の精霊からは嫌がられているということもあります。
意外と難しい魔法です。
中位以上の精霊を使うには個別に契約が必要となってきますので更に難しいですね。
これで答えになったでしょうか?
またわからないことなどありましたら、遠慮なく感想フォームにお書きください。
既出していないものであれば答えられる範囲でお答えさせていただきます。




