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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第二章 友との出会い「深淵の森」編
44/358

第39ページ 地上

ご指摘があり完全なる完結(パーフェクト・オブ・ジ・エンド)完全なる完結(ジ・エンド・オブ・パーフェクト)に修正しました。

ご迷惑おかけします。

「ああん?なんだお前ら」


黒白の王により飛ばされた俺たちは、見覚えのある迷宮入口へと転移していた。

そして目の前には魔族と思われる男ともう一匹。


「お前はあの時見た…」


それは湖畔で見たあの魔物だった。

だが、俺が美しいと思った体には無数の傷ができ、血があふれている。


―・―・―・―・―・―


[ブラック・ヒッポグリフ]ランクA~

ヒッポグリフの上位種。

ヒッポグリフ種の頂点に君臨する王の血統。

神々の乗る車を引くとも言われており、パワー、スピード共にトップクラス。

成体はドラゴンとも対等に渡り合う。


―・―・―・―・―・―


ブラック・ヒッポグリフは重傷を負いながらも、その瞳には諦めというものがまったくなく、闘気を漲らし、突然現れた俺たちと目の前の魔族両方に警戒している。


「お前が…やったのか?」

「ああ?この鳥か?いや、馬か?どっちでもいいか。ああそうだ。いきなり襲いかかってきたんだ。正当防衛だよ」


魔族は嗤う。

その笑みは人が思わず嫌悪を抱いてしまうような醜悪なものだった。


魔族の周りには魔物のものと思える遺骸が転がっている。

それらは原型を留めているものの方が少なく。

元が何の魔物だったのかもわからないほどだ。


だが、その中にヒッポグリフたちの死体があるのが見えた。

比較的原型を保ったそれは無残にも引き裂かれた者や、脚を切断された者、嘴が折れた者が見て取れた。

原型を保っていない個体もいると思われる。


「ここまでやる必要があったのか…?」


これだけの凄惨な現場の中心にいながら、魔族には傷一つついていない。

実力差はかなりのものだろう。

こんな嬲るようなことをせず一瞬で命を奪うこともできたはずだ。


「必要?何言ってんだ。こうした方が面白いからに決まってんだろうが!ていうかてめぇらなんなんだよ?」

「…そうか」


次の瞬間、俺は地を蹴った。

魔族へと接近し、思いっきり拳を振るう。


「ぶっ!?」


俺の拳は魔族の顔面を張り飛ばす。

魔族は一瞬のことに驚きながらも空中で体勢を整え着地する。


「てめぇ覚悟はできてんだろうな?」

「黙れ。お前は美しくない。目障りだ、俺の視界に入るな。俺にお前を記憶させるな」


「…あれ?なにこの置き去り感…」


後ろでベンが何やら呟いている。

そう言えばいたな。


「ベン!こいつの相手しといてくれ!止めは俺がやる!」

「え!?何それ!?別に俺がそのままやってもいいじゃん!」

「言うことを聞け!勝負に負けただろ!」

「えぇ!?あれ有効だったの!?」


何か叫んでいるが気にしてられない。

俺は魔族に背を向け、ブラック・ヒッポグリフに向かっていく。


魔族が何か叫んでいたがベンが引き受けてくれるだろう。

ゆっくりと昂ぶった感情を落ち着かせるように俺は魔物に近づく。


「グルルル」


初めのころは状況がよくわからないようだったが、近づいてくる俺に気付いたそいつは威嚇するように喉を鳴らした。


俺は敵意がないことを知らせるように両手を挙げ近づく。

一瞬戸惑ったような反応を見せたが、警戒は解かない。


「お前を治療したい。頼む」


再度、ブラック・ヒッポグリフは戸惑ったようだ。

その間に俺は更に近づく。


一歩一歩。

もう一歩近づいたところでブラックヒッポグリフの前足が掲げられ地を叩いた。

おそらくそれ以上近づくなということだろう。


「落ち着け。敵意はない。本当に治療したいだけなんだ」


ブラック・ヒッポグリフはそれでも警戒を緩めなかった。

俺は斬鬼を腰から鞘ごと抜き、地面に置く。


「武器はない。頼む」


それでブラック・ヒッポグリフは戸惑いながらも近づくことは許してくれたようだ。

目と鼻の先まで近づき、手を翳す。


「聖なる光よ、彼の者を癒し、浄化せよ〈ライトヒール〉」


魔物の進行の後、ララが使っているのを見て覚えた光属性中級回復魔法。

出血は止まり、傷は浅くなったようだが、完治にはならなかった。

だが、何度か行うことでどうにか完治させる。


回復系の魔法は魔力の消費が激しく、更にイメージすることが難しいために俺の自由にはまだ使えない。

ララにきちんと教わるべきだろうか。

頼んだら教えてくれるだろうか。


「グル」


体が治ったことがわかったのか、ブラック・ヒッポグリフが少し身動きし、真っ直ぐに俺を見てきた。

その目にはもう警戒心はない。

どこか気品を感じるその瞳に俺は引き込まれそうになった。


手をあげ、相手が動かないのを確認してから伸ばす。

ヒッポグリフの柔らかな羽毛の感触が伝わってきた。

ああ、幸せだ。


「ちょっと!シュウ!終わったならこっち来てよ!いい加減殺しちゃうよ!?」


ああ、幸福感が台無しだ。

ベンの方を向くと魔族の攻撃を軽く流しながらこちらを見ていた。


「ハァ…今行くよ」


それもこれもあの魔族のせいだ、と憤慨する。

さっさと殺すことにしよう。


「て、てめぇら!俺様を誰だと思ってやがる!魔王軍六魔将が一人エスパーダ様の一の部下!ガイゼン・ヒドラー様だぞ!!」


魔族が何か騒いでやがる。

というかその肩書きは強いのかどうかよくわからんな。


「お前がどこの誰だろうと関係ない。言っただろう?目障りだ」


斬鬼を拾い、抜く。


「そ、その刀…お前がスパティウム様がおっしゃっていた…そうか、お前がそうか!これはいい!お前を殺せばいい土産にっ!」

「うるさい」


一気に距離を詰め、袈裟懸けに振り下ろす。

何の抵抗もなくその刃は魔族の体を上下に分けた。


「な…に…!?」

「まだ生きてるのか。しぶといな。だがちょうどいい。なぜここにいた?」


地に伏した魔族の頭を足で押さえつけ高圧的に聞いてみる。

覇気で威圧することも忘れない。


「い、言うわけがないだろうっ!」

「そうか、なら死ね」


斬鬼を両手に握り、振り下ろそうとする。


「ま、待て!わかった、言う!」


その変わり身の早さに呆れながらも続きを促す。

いつの間にかみんな俺たちの周りに集まっていた。

あのブラック・ヒッポグリフもいる。


「なら早くしろ」

「くっ…こ、ここに来たのは、戦力を集めるためだっ」

「戦力?」

「ああ、魔王様のために優秀な魔物がいるのだ」

「…殺し回ってたようだが?」

「ぐぐっ!こ、これから探すところだったのだ!それとここで消息を絶った我が友も探している!」


それは多分黒白の王が焼き払ったと言ってたやつだな。


「この前起きたガイアに向けての魔物の進軍はお前らの差し金か?」

「そ、そうだ。お、お前さえいなければっ」

「知るか。だいたい俺がいなくても無理だったと思うぞ?あの街も大概化け物揃いだ」


グラハムを筆頭に騎士隊長たちや辺境伯自身もかなりの腕だ。

辺境ということもあり騎士も冒険者も粒ぞろい。

いくら地竜がいても攻略は難しかっただろう。


そうなるとそもそもあの進軍の意味がわからなくなってきたな。

だが、こいつは詳しく知らないようだ。

結局は下っ端だったのだろうか。

実力的に言ってもここまで来れたのが奇跡だな。

Sランクいくかどうかというとこじゃないのか?


「お前よくここまで来れたな」

「くっ、魔法さえ使えたら貴様らなんぞに!」

「ん?魔法使えないのか?」

「貴様たちが現れてからなぜか発動せんっ一体何をした!」


こいつ何でも話してくれるな。


何をと言われても記憶にないのだが…あいつか?

思い出すのは黒のローブを着たあの存在。

確かにあいつならできそうな気もするが、迷宮外でできるのだろうか?


《できるよ》

「うわっ!?」


急に声を出した俺をベンたちがどうしたのかと見てくる。

それになんでもないと手を振って、心の中だけで会話する。


(急に話しかけてくるなよ!というかお前なんでもありか!?)

《迷宮の前であることが前提だけどまぁなんでもできるね》

(お前…それだけできて外には出れないのか)

《出れないんだねーこれが!》

(まぁいい。その魔法封じてるの解除してやれよ)

《え、いいのかい?君一人だと勝てるかわからないよ?》

(ほう?いい、やれ。どうせもう瀕死だ)

《…後悔しても知らないよ?》


「むっ!?魔力が湧き上がる!ははっ!ここまでだ貴様ら!どうやら力が切れたようだなっ!ひれ伏せぇ!闇よ!すべてを飲み込み隔離せよ!〈ダークネスルーム〉!」


世界が黒く塗りつぶされた。

実際では神々の車を引くと言われているのは黒いグリフォンです。

この設定は作者の創作になります。

ヒッポグリフはグリフォンと馬の間に産まれたとされる生き物ですしありかなと思っただけです。

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