第38ページ 会談
「で、お前なんでここにいるんだ?」
「ん?なんでって…今の僕はこの迷宮の核を守るラストガーディアンだよ」
「今はな。昔は外にいたんだろ?」
「ちょっとドジっちゃってね、今はあの核と契約中さ」
そう言って黒白の王は後ろを指し示す。
そこには翡翠色の玉が浮かんでいた。
「あれが核か…ならあれを壊せば」
「無理だよ。迷宮の核はラストガーディアンを倒さないと壊せないからね」
チッ、やっぱり楽にはできてないようだな。
「…ここから出たいと思わないんですか?」
何を思ったのか、ベンが聞く。
そう言われればそうか。
今のこいつは迷宮に囚われているようなものなのだ。
「そんな方法があるなら、出たいけどね。ここはお客さんもあまり来ないし退屈だよ。君たちみたいな話ができるお客さんは久しぶりさ」
それはそうだろうな。
深淵の森の真っ只中にある迷宮なんて確認されているのかどうかもわからない。
仮に知られていたとしても来るのは大変だし、来てからもこの迷宮のレベルは決して低くはない。
ラストガーディアンがこんな化物なんだから危険度で言えば世界有数になるだろうな。
「…一人、当てがあります。あの人と連絡が取れればもしかしたら何かわかるかもしれません」
「本当かい!?」
さすが公爵子息。
人脈が半端ないな。
「ええ、僕の知る限り最高の錬金術師です。彼は謎とかそう言うのが好きなので、どうにかしてくれるかもしれませんよ」
「へーそんな人がいるのかい。そう言えば僕にも錬金術師の友達がいるんだよ!」
友達?
こんな化物の友達ってそれはどんな化物だよ。
「…えっと…その友達のお名前は?」
「ニコラスって言うんだ!」
黒白の王がそう答えた瞬間、ベンは手を頭に当て天井を仰いだ。
知り合いだろうか?
「すみません。僕の知り合いと同じ人でした」
「え!そうなのかい!?君はニコラスの友達だったのかい!」
「いえ友達ではないです。やめてください」
本気で嫌そうな顔をしている。
あのベンがこんな顔をするなんてどんな奴なんだろうか。
「そう言えば君たちはどことなく彼と同じ雰囲気を感じるねー」
そう言って俺とベンを見る。
ん?どういうことだ?
「ほら言ったでしょ?俺が会った異世界人の錬金術師の話。彼だよ」
「ああ、なるほど。しかし、ニコラスって外国人だったのか?」
「いや、こっちの世界ではニコラス・フラメルって名乗ってるんだ。錬金術師だし、この名前で同郷の人が寄ってくるかもしれないからちょうどいいんだってさ。実際僕も名前で興味を惹かれて会いに行ったからね」
その後会ったことを後悔したけど。とベンは未だに苦い顔をしている。
少し興味が出てきたが、会いたいかどうかは微妙だな。
だが、おそらく会うことになるような気がするな・・・
「いやー懐かしいね!彼は元気かい?」
「ええ、元気にやってると思いますよ。あの人がどうにかなるのはちょっと考えられないですね」
「そうかいそうかい!相変わらずだなぁ。何年前かな、彼がここに来たのは…もう、かれこれ200年は前になるかなぁ?」
「200!?おいベン!そいつ人間じゃないのか!?」
「一応人間だよ。もうほとんど化物の部類だと俺は思うけどね。なんでも賢者の石作って不老になったらしいよ」
開いた口が塞がらないとはこのことだろう。
俺が言うのもなんだが、なんという規格外。
「でも、そうですか。一度ここに来た時にあなたがそのままということは…」
「んー?どうだろうね?ニコラスは何を考えているのかよくわからなかったからなぁ。あの頃は僕もそんなに外に出たかったわけでもないから知ってて言わなかった可能性もあるねー」
この化物に何を考えているかわからないと言わしめる人間なんていていいのだろうか?
それを聞いてベンはもうお手上げという感じだ。
「まぁとりあえず連絡をとってみますよ」
「お願いするよ!もう一度ニコラスにも会いたいしね!友達が欲しいって言ったら死霊術でゾンビやスケルトンを生み出してくれたりしたんだけどやっぱり生身の友達が恋しいよ!何日か調べ物をしたあと帰るっていうニコラスを引きとめようとしたんだけど返り討ちにされちゃったしね」
それは断じて人間ではない。
いや、もう絶対に会いたくない。
この化物を返り討ちとかなんなんだ!?
ていうか最初らへんにいたスケルトンやらゾンビはそいつの仕業なのか!?
迷宮が生み出したとかではないのか!?
流石にこれにはベンも驚いたようだが、すぐに落ち着きを取り戻した。
あの人ならさもありなん。と顔が語っている。
「あの、聞いてもよろしいですか?」
「ん?なんだい?」
「迷宮の魔物というのは迷宮核が生み出しているのではないのでしょうか?」
「んー迷宮にもよるんだと思うけど、ここの場合は周りの魔物を取り込んだり、僕の下僕たちだったりだね」
「下僕?」
「そうそう、会わなかった?カボチャ頭の子たち」
あれこいつの下僕なのか。
カボチャ頭と聞いた時にサラが一瞬ピクっとなったが気にしないことにしよう。
トラウマを刺激するのはよくないよな。
「迷宮に取り込まれた魔物は自我を奪われて迷宮核を守るために侵入者を排除するだけの存在になるんだ。だから、ゴーストやパンプキンヘッドも言葉を使わなかったでしょう?」
道理でゴーストが大人しいと思った。
となると、こいつは?
「僕は迷宮核ごときに抑制される存在じゃないからね」
なるほど規格外でした。
「この迷宮にアンデッド系の魔物が多いのは…」
「それは僕の性質に引き寄せられてるんじゃないかな?迷宮に取り込んでからアンデッド化してたりもするみたいだよ」
ラストガーディアン、というかこいつは迷宮とその付近のことだったらある程度把握できるらしい。
俺たちが迷宮に入ってきたのもわかっており、来るのを今か今かと待っていたそうだ。
「ほんとは迎えに行きたかったんだけど、この部屋から出れないからね」
いや、迎えに来なくてありがたい。
いきなりこんなのに出てこられたらどうなっていたかわからない。
玉砕覚悟で突撃くらいしていただろうな。
『ならこの迷宮にあった魔族の魔力のことも知っているのかしら?』
「魔族の魔力?ああ、こないだ来たやつかな?なんかいきなり魔法を撃ってきたりしたから仕方なく焼いちゃったよ」
おお…さすが魔神とも呼ばれる存在。
魔族程度はなんとも思っていないんだな。
「何か言っていたりしませんでしたか?」
「うーん…魔王がどうちゃらとか言ってたかなー」
魔王か。
特に関わろうとは思わないが、俺の前に立ちはだかるなら倒さなければならないだろうな。
どれほど強いのかわからないが、今のままではダメだろう。
もっと強くならなければ。
「あ、でも今、上に魔族が来ているねー」
「なっ!?」
「え!?」
なんだと!?
それは一体どういうことだ!?
「迷宮には入ってきてないけど、迷宮の前で何かしてるみたい」
「何かとはなんなのですか!?」
「そこまではわからないけど…」
「ベン!飛べるか!?」
「魔族のすぐ目の前に飛ぶことになりそうだからあんまりやりたくはないけど行けるよ!」
「よし!すまんが黒白の王。話は終わりだ。俺たちは失礼する」
「え、もうー?うーん、でも何やら急ぎみたいだし仕方ないね。ニコラスの件よろしくねー」
「はい、わかりました!」
「その代わり上まで送ってあげるよ」
「え?」
「何?」
「君たちを迷宮の前に飛ばせばいいんでしょう?」
「そうだが…そんなことできるのか?」
「僕を誰だと思っているのさ。じゃ行くよー」
待て、という暇もなく、黒白の王は指をパチンと鳴らした。
骨だけでよくそんな綺麗に鳴るものだと思いながら、俺は二度目となる転移を体験したのだった。
この世界全体で人、魔物、魔王などを含み、神を含まない場合、現時点で主人公の強さは20位以内に入るかどうかというところ。
これを強いと取るか弱いと取るかはあなた次第です。
さて!
賛否両論というか否しかなかったような迷宮はとりあえずこれで終わりです。
次主人公が迷宮に潜るのは随分先へとなりますが、その時は今回の経験や指摘を活かして書きたいなと思います。
付き合っていただいてありがとうございました。
次回からはやっと物語が動き始めると同時に二章の終わりが近づきます。




