第37ページ 50層ラストガーディアン「深淵の盟主」
活動報告に今後の予定など書いておりますのでよろしければ是非。
黒き衣を纏い、黄金の飾りを身に付け、深淵に君臨する王。
其は人に非ず、獣に非ず、魔物に非ず。
魔導を極め、神の域に達したもの。
その白き指が掲げられたとき、私は死を受け入れた。
何を理由に見逃されたのか未だにわからない。
私は何もできなかったのだ。
抗うことも、許しを請うことさえも許さぬ圧倒的な力。
この世には然も理不尽な存在がいる。
彼の王は今もどこかにいるだろう。
―『英雄クリフ・プロデッツァの手記』より抜粋
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「さぁさぁこっち座って!」
「はぁ」
「何か食べるかい?」
「いえ、お気になさらず!」
「そうかい?なら何か飲み物でも出そうか!」
「いえいえ、ほんとお気になさらず!!」
どうしてこうなった…?
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時は少し前に遡る。
50層へと続く階段を降りていた俺たちは、下から漂ってくる濃密な魔力を前に本能が危険と叫んでいた。
初めてスキル危険察知が反応したのだが、これはスキルがなくてもわかるほどの危険だ。
現に隣のベンも真剣な顔をしている。
意識していないと踵を返しそうになる足をどうにか前に出す。
いや、前に出されたという方が正しいのかもしれない。
自分よりも強い圧倒的強者がいるところへとわざわざ向かおうとしているのだから正気の沙汰ではない。
しかし、元の世界で退屈に飽いていたからこそ好奇心が上回った。
どうやっても勝てないだろう相手を見てみたくしょうがないのだ。
50層の床面が見えてきた。
真っ暗ということはないようだ。
前にばかり気を取られていたが、どうやら全員付いてきているようだ。
何も言わずに進んでしまったのは悪く思うが、まったく物好きな奴らだ。
50層へと降り立つ。
濃厚な魔力はまるで重りのように俺たちの身体にのしかかり、海の中であるかのよう身体の動きを制限する。
顔を上げたくないという本能に逆らい、前を見据える。
そこには玉座があった。
だが、そこにいるべきはずの存在はいない。
「いない?そんなはずは…」
「やあ!」
「「『「うわっ!?」』」」
まったく気づかなかった。
背後に出現した人物は、驚く俺たちを面白そうに見ている。
「ごめんごめん、驚かせちゃったかな?」
「あっ…く…」
『…っ!』
敵意は感じられない。
だが、醸し出されている圧倒的な魔力がトマスとサラにはきつかったようで、その顔が苦痛に歪む。
「くっ!」
「おっと!待った待った」
「なっ!?」
ベンが神剣を抜くも、いつの間にかベンの隣へと移動したそいつに刀身を押さえられていた。
勝てない。
初めからわかっていたことだが、あまりに差がありすぎる。
こいつはいったい何者だ…
[???]ランクX
突然変異種。詳細不明。
その正体は謎に包まれている。
「っ!?」
どういうことだ。
全知眼がわからないことなどあるのか?!
「お前…お前は一体なんだ…?」
唖然として聞く。
するとそれはこちらを向いた。
黒いフードが取られる。
現れたのは頭蓋骨。
よく見れば手も肉がなく、骨だけとなっている。
その骨の手首には金色で紅い石のついた腕輪。
首からは金のネックレスがかけられ、こちらには緑の石がついている。
「僕かい?僕に名前はないよ。好きに呼ぶといい」
骸骨が笑う。
いや、正確に言えば笑った気がしただけだが、間違ってはいないだろう。
「お前…お前は敵なのか?」
「んーたぶんそうなんだろうけど…まぁ今はいいじゃないか!ん?おっと、ごめん!普段一人だから魔力を出しっぱなしだったよ。これでいいかな?」
そう言うと今まで溢れていた魔力がそいつに吸い込まれるように消えていった。
トマスとサラも楽になったようで呼吸を落ち着かせようとしている。
ベンはまだ警戒しているようで神剣は鞘に納めていたがいつでも抜けるように手をかけている。
「さぁ!君たちはお客さんだからね!おもてなしするよ!」
「「『「…は?」』」」
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というわけでこうなった。
いやほんと意味がわからない。
「とりあえず聞きたいのですが、あなたはここのガーディアンですか?」
「そうだよ。僕がこの深淵の迷宮ラストガーディアンさ。戦ってみるかい?」
「いや…」
「はっはっは。そうだろうね!自慢じゃないけど僕は強いからね!君たちくらいには負けないよ!」
「ははは…そうでしょうね…」
何か違う!
思っていたのと何かが違う!
なんだこれ!
なんでラストガーディアンと椅子に座っておしゃべり中だよ!!??
「あの、あなたは先ほど名前がないと仰られていましたが…」
「固いなぁ君!もっと馴れ馴れしくしてくれていいんだよ?僕と君との仲じゃないか!」
どんな仲だ。
トマスの困った顔は初めて見たぞ。
「そうそう名前だったね。うん、そうだよ。僕はどうにも異常みたいでね、固体名もなければ種族名もないのさ」
そういうことか。
こいつは、この世でただ一人だけの存在。
その存在を全知眼も把握できていなかった。
…だがそんなことがあるのか?
全知だぞ?すべてわかるのではなかったのか?
「あ、でも人間たちが勝手に言ってる名前ならあるよ?えっとなんだったかな…黒白の王だったかな?」
「え…」
「なっ」
『そんなっ!?』
これは後から調べたものだ。
黒白の王と呼ばれる存在。
その存在が発見されたのは遥か太古の昔。
英雄と呼ばれる一人の男が遭遇したのが始まりとされる。
実際はわからない。
何故なら英雄と呼ばれる男さえも敵わないと断言する存在だったからだ。
出会った相手が全員死んでいてもおかしくない。
黒白の王の目撃情報はその後も続くが、400年ほど前を境にピタリとなくなった。
ある者は死んだのだというが、大多数のものはそんな与太話は信じないと言った。
それほどにその存在は異常だった。
討伐に出向いた王国騎士団は壊滅。
その数日後には国が一つ消えた。
派遣された勇者は我が身の不幸を呪いながら帰還し、見る影もなくなり憔悴しきった顔で闇を怖がり、絶望の中で衰弱死した。
神の声を聴くと言われた老婆は、あの者と関わってはならぬと遺言を残し、大魔導師と呼ばれた老人は、己の未熟さを嘆いて死んだ。
全てが全て恐怖を彩る。
黒白の王の名は広がり、更に名が増えた。
不死の王、唯一人の王、災厄の象徴、死神、数えればきりがないが、そのすべてが彼の王を畏怖したものだった。
そのうち、彼の王は魔神であると言うものが現れた。
それはすんなりと人々に受け入れられ、彼の王を奉るものまで現れた。
黒白の王の目撃情報がなくなってから400年経った今でも、その恐怖は人々の間に存在する。
まるでおとぎ話のようでありながら、確実に存在する恐怖の代名詞。
世界中の畏れの象徴。
それが黒白の王である。
…決してこんな軽いやつではないはずなのである。
主人公は死にたがりなわけではありませんが、特に生に執着しているわけでもないので自分の身を危険に晒したりは割とあっさりします。
退屈を嫌いスリルを求めているのです。笑
巻き込まれる方はたまったものじゃないですね!
2015/4/11:7,18,21,25ページにて鑑定したアイテムの表記を一部変更し、作者名を追記しました。
2015/4/11:第一章登場人物紹介にジズマンとミトスを追記しました。




