第36ページ 48・49層
48層は灯りがあった。
蝋燭が…浮いていた。
さすがファンタジー。
やってくれる。
幾本の蝋燭が浮き、辺りを照らしている。
隅から隅まで明るいというわけではないが、十分に視野は確保できる。
そしてこの蝋燭。
近づくとスッと動き避けてくれる。
これ欲しいな。
「敵いないね」
「いないならいないでいいんだが、今までのパターンからすると…」
話しているうちに前方に扉が見えた。
おそらくというか、絶対あの向こうは魔物がたくさんいることだろう。
「行くしかないよね…はぁやだなぁ」
言葉とは裏腹に隠しきれていない笑みを浮かべてベンが進む。
こいつはなんだかんだこの状況を楽しんでいるような気がするのは俺だけなんだろうか?
いや、トマスとサラも呆れた顔をしている。
いつもこうなのか。
「開けるよー?」
いつの間にか扉に着いていたベンが声をかけてくる。
仕方なく俺たちは歩みを進める。
ベンがわくわくという擬音が聞こえてくるような顔をしながら扉を開ける。
扉の中はパーティー会場のようになっていた。
点在するテーブルにはクロスがかけられ、燭台が灯り多様な料理が置かれている。
「一応言っておくけど食べちゃダメだよ?」
「食べんわっ!」
まったく、人を何だと思っているんだ。
別にあそこのいい匂いを醸し出している肉の丸焼きなんて興味ないんだぞ?
「しかし、ここは本当に迷宮なのか?」
「迷宮にも色々あるからね。まぁこんなのは初めて見たし聞いたこともないけど」
40層を越えてからは迷宮というよりそのまま古いお城と言われたほうが納得できるのだが。
「ん?」
「敵?」
「そうみたいだな」
索敵に反応があった。
この索敵というスキルは便利は便利なんだが、擬態やらを使ってきてひっかからない魔物も多いため正直保険のようなものだ。
だが、今回の敵はどうやら正面からのタイプのようだな。
「さて、姿を見せてもらおうか」
光球を何個か生み出し、敵のいる方へと放つ。
攻撃力はないが、これは明かりを確保するためだけのものなので関係ない。
映し出されたその姿は
「カボチャ?」
「カボチャだね」
「カボチャですね」
『あ、あれは…』
「知っているのか?」
『ええ…あれはパンプキンヘッドよ』
―・―・―・―・―・―
[パンプキンヘッド]ランクB
カボチャが魔物化したもの。
異常な打たれ強さと怪しげな風貌が特徴。
あまり好戦的ではなく本来は人に悪戯をする程度なのだが、その実力は折り紙つき。
火属性魔法を使う。
―・―・―・―・―・―
「何その高性能なカボチャ」
「なんでカボチャが火を使うんだよ?」
『相手をしてられないわ!逃げるわよ!」
「え!?」
「おい!?」
止める間もなく、サラは風を展開し、俺たちを包み込んだ。
カボチャたちを吹き飛ばしながら猛然と飛ぶ。
ああ、目が回りそうだ。
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「一体どうしたの、サラ?」
『あいつらは悪魔よ…』
さっきからずっとこの調子だ。
聞かない方がいいのだろう。
俺たちはサラに聞くのを諦め、49層へと降り立つ。
サラが何故か全力で逃走した結果、カボチャを置き去りにして一気に48層を攻略してしまった。
いや、攻略と言っていいのかもわからないが、暴風に弾かれるカボチャたちは哀れだった。
原型が崩れていなかったことをほめるべきなのだろうか?
49層はホールといってもいいくらいの大きさだが、これは回廊というべき場所のようだ。
太い柱が左右にずらっと、その柱と柱の間に悪魔を模した石像がこれまたズラッと。
「あれ動くな」
「動くね」
『動くわね』
「動きますね」
正面には扉が見える。
だが、鉄柵がしてあり、通れないようになっていた。
引き返したい気持ちを押し殺しながら進む。
中ほどまで来たとき、予想通り石像が動き始めた。
もう何の驚きもない。
―・―・―・―・―・―
[ガーゴイル]ランクB
魔力を宿した核を元に造られた石像。
門番の役割を果たす。
身体のどこかにある核を破壊されない限り、命令を守り続ける。
―・―・―・―・―・―
「こいつらも本来なら相手をしてられないんだが…」
「あの扉がわざわざ塞がれているのが気になるね」
「ベン、ちょっと飛んであの柵斬れるか試してこい」
「オッケー」
ベンの姿が消える。
一瞬後に扉の前にベンの姿があった。
神剣を抜き、斬りつけている。
だが、斬れた様子はない。
次の瞬間には俺の隣にベンがいた。
「ダメだね。神剣でも斬れないってなんの素材なんだろ?」
「知るか。だがそうなると…」
「おそらくはこの場にいるガーゴイルを全て倒せとかそういう感じでしょうね」
『まためんどくさいわね』
「やるしかないんだ。諦めろ」
全面をガーゴイルに囲まれているため、トマスはサラと一緒に上空に退避。
おそらく飛ぶだろうから絶対安全だとは言えないが、まぁ大丈夫だと思う。
「ねぇシュウ」
「なんだ?」
「どっちが多く倒せるか勝負しない?」
「ほぉ?」
「負けた方は勝った方の言うことを一つ聞くってことで」
「いいぞ」
「サラ!トマス!数、数えててね!」
返ってきたのは苦笑だった。
さぁやる気でてきたぞ。
何をさせようかね?
「3!2!1!スタート!」
ベンの合図と同時に動き出す。
隣ではベンが俺とは逆方向に駆け出していた。
とりあえず、は
「舞え〈炎鳥〉」
中級程度の火の鳥を飛ばす。
それと同時に一体目を斬る。
というかこれ核を壊さないとダメってなると刀ではやりにくいな。
魔法主体にするか。
「地よ、人型を取りて我に手を貸せ〈クレイドール〉」
クレインが視せてくれた魔法だ。
自律して動いてくれるからこういった場面では役に立つな。
さて、これで前衛もできたしあれやってみるか。
魔力の制御が少し難しいんだよな。
俺は腰に拳を構え、魔力を集中させる。
無意識に流していた魔力も掻き集め、全てを右の拳に凝縮させる。
思い出すのはあの映像。
一軍を薙ぎ払ったあの拳。
「はっ!」
身体を捻って拳を突き出す。
それと同時に貯めていた魔力を放出した。
ドゴォォォォォォォン!!!
「…」
放たれた魔力の塊は、生み出していた土人形も巻き込み前方のガーゴイルを粉砕し、余波により左右から迫っていた個体をもこなごなに打ち砕いた。
後ろを振り返るのが怖いな。
と、思っていたらトンと肩に置かれる手。
恐る恐る振り返ってみると
「やりすぎ」
笑っているベン。
だがその背景に般若が見える。
はい、すいません。




