第3ページ 情報収集とラッセン辺境伯
ガイアへの道すがら俺はララからの情報収集に努めた。
不思議そうにはしていたが、彼女は人を疑わない性格のようで普通に答えてくれる。
その信じきった態度に逆に粗相をする気がなくなるから不思議だ。まぁ粗相する気などないのだが。
わかったことはこの世界のこと。
まずは地理。
この世界には3つの大陸が存在する。
人族が統べるアルクラフト大陸。
獣族が統べるバリファルファ大陸。
魔族が統べるベスペリア大陸がある。
他にも竜が住む国や、妖精女王が統べる妖精の国、精霊王が統べる精霊の国などもあるらしいが、どこにあるかはわかっていないらしく、海の底にあるや、天の上にあるなど様々な噂がある。
真偽はわからずそもそも妖精や精霊、竜の目撃情報が少なく判断ができぬというものらしい。
というかやはりいるのか竜。
見てみたい気もするが、戦いたくない相手ナンバー1だろう。
さすがに勝てないと思う。
ここは人族が統べるアルクラフト大陸で、その中で最も大きな国であるマジェスタ王国の辺境に位置するらしい。
ガイアの街から南へと下ると「深淵の森」と呼ばれる場所があり、そこは高ランクの魔物たちの巣であり未だそこを抜けられたものはいない。
魔物たちも森から出てきたりはしないため、たまに冒険者がそこでしか採れない薬草や魔物の素材を取りに行くくらいであるらしい。
確かにそんな危険な場所行きたいとは思わないな。
人族と獣族は和平協定を結んでおり、差別などの争いもない。
獣族というのはいわゆる獣人であり人の姿と変わらず耳や尻尾がある者であり、総じて体に優れ人よりも筋力などは何倍にもなるらしい。
首から上が獣だったりという獣人はいないようだ。
そういった者は魔物に分類されている。
人族はその点、知に優れていてあらゆる発明をし、それを使うことで対等となっているようだ。
だが、戦争がないわけではなく、魔族は色々と人族や獣族にちょっかいをかけてきている。
ここ最近ではあまり大規模なものはないらしいが、逆にそれが戦争の始まる前触れだという者もいるらしい。
魔族の王はやはり魔王らしいし、あまり近寄らない方がいいだろう。魔族の魔力は人族の何十倍にもなるらしく、一人の魔族に人族の街一つが蹂躙されたという記録も残っている。
よく征服されないなとも思ったが、どうやら魔族は数が少ないらしい。いくら能力が高くても数の暴力には敵わないということなのだろう。
こんな世界の常識を知らない俺に対してさすがのララも思うところがないわけではなかったようだが、深くは詮索してこなかった。
助かるが、やはり心配になってしまう。
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「よく来たな坊主。私がこの街を統べる、アイゼン・フォン・ラッセンだ」
ララに連れられてララの家というよりも屋敷、屋敷というよりも城と言った方が合っている所に連れてこられ応接室にて待たされていた俺のところに来てそう名乗ったのはナイスミドルな男性だった。
渋いといった方がいいかもしれぬが、金色の髪をなびかせ、立派な顎鬚を蓄えたこの40代くらいの男性がララの父親であり、辺境伯と呼ばれる人のようだ。その身体は逞しく、辺境伯というには質素だと思える服装からしてもどこかの将軍と言われたほうが納得できそうだ。
もっとも、質素だといってもところどころの装飾からして安物というわけではなさそうだが。
「まずは、ララを救ってくれて礼をいう」
辺境伯はそう言い軽くではあったが頭を下げる。
それに俺は少し驚いた。
貴族というものは軽々しく頭など下げないと思っていたからだ。
「いえ当然のことをしたまでです。申し遅れました、シュウ・クロバです」
俺はそんな辺境伯に好感をもち、敬意をもって接することにする。
それを見て辺境伯はにやりと笑い。
値踏みするように俺を見た。
「どう思う、マインス?」
「はっ」
そう言って、自分の後ろに控えていた男に顔を向ける。
この部屋にいるのは俺を除くと、辺境伯、ララ、エルーシャ、そして今マインスと呼ばれた男性。
辺境伯より少し年下程度であるが、只者ならぬ雰囲気を漂わせている。
強さという観点でいえば辺境伯の方が上ではあろうが、どうにも油断ならないといった雰囲気だ。
マインスはソファに座っている辺境伯の後ろに立っており、同じようにララの後ろに立っているエルーシャと直立不動で、目を閉じていた。
そして俺の方に顔を向け、瞳をこちらに向ける。
「っ!?」
気づいたら俺は今まで辺境伯と向かい合っていたソファから飛び退き、部屋の隅にまで退避していた。
視線を向けられた瞬間、なんとも言えぬ悪寒が身体を貫き、本能に任せて飛び退いたのだ。
そんな俺の反応をララとエルーシャは驚いて、辺境伯は面白そうに、マインスは興味深そうに見ていた。
「驚かせて申し訳ありません」
マインスが顔を伏せると俺が感じていた悪寒もなくなった。俺は少し緊張を解き、だが警戒はしたまま説明を欲して辺境伯に視線を向ける。
「いや、すまんな。説明をしてからにするべきであったか、だがここまでの反応をするとは思っておらなんだ。このマインスはあるユニークスキルを持っていてな、見た者のステータスを見ることができるんだ」
そういうことか。
辺境伯という高貴な身分の相手が簡単に俺に会うことを了承した時点で気づくべきだったか。
別に俺を信用したわけではなく、どういったものか判断する術があったわけだ。
にしても今ステータスと言ったな…それにユニークスキルか。
ますますゲームみたいだ。
「お館様。彼は、どうやら異世界人のようですな」
「…なに?」
俺が色々考えていると、
マインスが一人冷静に、だがどこか面白そうに爆弾を落とした。