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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第十二章 遥かなる大自然「美しき森の神秘」編
357/358

第307ページ 解決

俺が魔物の襲撃に気づいたのは、集団が更に村へと近づいてからだった。


「シュウ!」


俺が気づき跳び起きるのと、ギースが借家に飛び込んでくるのは同時くらいだった。


「魔物か!?」

「ああ!群れだ!手を貸してくれ!」


就寝中の索敵はアステールに任せきりだったツケを感じながら、俺たちは魔物の方向へと走る。

俺たちが来た獣都の方角とは逆。

村の人から、反対には穀倉地帯が広がると言われていたその場所に、多数の魔物がいた。


「これは!?」


魔物、ビッグマウスたちはひと塊になっておらず、散開して今まさに作物を食い漁っていた。

そして一際大きいネズミ型の魔物が、少し遠巻きにこちらを見ている。


「ありゃ女王種か」

「女王種?」

「ああ、ネズミや虫系の魔物みたいに繁殖能力が高い魔物の中で極稀に生まれる、出産や生存能力に特化した種だ」


なるほど、昨日からの異常な数もあいつがいたからか。


「ギース、あのでかいのを頼めるか?」

「そりゃもちろん大丈夫だが、他はシュウがやるつもりか?だが、魔法が使えないのにこの数一人ではきついだろ?」

「魔法が使えない?」

「ばっ!?お前、魔法使う気だったのかよ!?こんなところでこいつら全員倒せるだけの魔法使ってみろ!畑も一緒にダメになるぞ!」


ああ、そういうことか。

確かに自然系の魔法は使えないだろう。

風や炎は作物に物理的なダメージを与えてしまうし、土や水は土壌に影響を及ぼす可能性がある。

広範囲を殲滅するなどもっての他だ。


「問題ない。うまくやるよ」

「…信じるぞ」


ギースの言葉にうなずくと、彼はニヤリと笑いビッグマウスの女王種へと駆けて行った。

ではこちらも、一掃しようか。


「<識図展開|オートマッピング>」


脳内にあたりの地図が表示され、すべてのビッグマウスが赤く光る。

これで、倒すべき魔物の位置は把握した。


「ゲート」


唱えるのは先日覚えたばかりの魔法。

すべての魔物の頭上と、俺の前にそれぞれを繋ぐゲートが開かれる。


「アイスショット!」


作り出した氷の礫が発射され、門を通りすべてのビッグマウスの頭を射抜く。

しかし礫は魔物を貫通することなく、体内へと残り、一撃で魔物の命を奪った脅威は田畑に被害を出すことなく消える。


「アポート」


ゲートを通し把握していた魔物の死骸を目の前へと転移させる。

一瞬にして山積みとなった死骸に向け手を翳す。


「アブソリュートゼロ」


急激に魔力が消費され、同時に快復するのを感じる。

魔物の死骸は一瞬にして芯まで凍りついた。

俺がその氷塊を指で弾くと、亀裂が広がりサラサラと音を立てながら粉々に砕け散る。


「向こうも終わったようだな」


視線を向けると、ちょうどギースがビッグマウスの女王種を斬り終えたところだった。

特に苦労もなく終わったようだ。


念のため俺は村周辺をマップで確認し、ビッグマウスがいないかを確認する。

ビッグマウス以外の魔物はいたがビッグマウスはいないようだ。

ついでに表示された魔物を先ほど同様に射殺し、死骸を引き寄せる。


「おいおい、何してるんだ…」

「近くにいたからな、ついでだ」


引き寄せた魔物を確認していると、ギースが女王種の死骸をかついでこちらに来ていた。

それに答えながら魔物を見ると、特に高ランクの素材になりそうな魔物はいなかったため先ほどと同じように処理する。


「んなっ!?」

「どうした?」

「どうしたじゃねぇよ!!アブソリュートゼロって禁術指定の魔法だろ!?」

「そうなのか?」

「そうなのかって!?どこで覚えたんだよ!」

「王国の魔導士長に教えてもらったんだ」


魔物の処理が楽だからと使っているのを見せてくれた魔法が、まさか禁術だったとは…

便利なのでこれからも使うが。


「あの人も相当だな…」


どこか疲れたようにため息をつきながら、気を取り直したように女王種と向き合うギース。

普通のビッグマウスと違い、女王種は珍しいため魔石はもちろん皮や歯など貴重な素材らしい。

手慣れた様子で解体し、必要なものは自身のマジックバックへと入れていく。

SSランクともなるとやはりマジックバックは必需品のようだ。


「うし、これでいいな。肉はあんまり人気じゃねぇから、村人に聞いてみていらなければ悪いがシュウ、処分してくれるか?」

「ああ、大丈夫だ」


しかし聞いてみると処分することにはならず、村の食糧及び田畑の肥料として利用されることになった。

周辺にはもう魔物がいないことを報告すると、村は歓喜に包まれ改めて感謝された。


本来であれば既に獣都へ向かって出発しているところだが、是非と言われ村でお昼をご馳走になる。

振る舞われたのは今年になってから村で収穫した作物らしい。

新鮮な野菜は、とても美味しく、それだけで俺は満足であった。


気を良くした俺は、転移を使い一瞬で帰れるのをいいことに村での小さな依頼などを処理し気づけば夕方になっていた。

夕食もと誘ってくれるのをさすがに辞退し、ようやく俺たちは獣都へと帰ることにする。

付き合わせて雑用を処理させてしまったギースには申し訳ないことをしたな。


「兄ちゃんたち帰っちゃうのかよ…」

「ああ、もうすることもないからな」


そう言って見送りに来てくれたカイルの頭をわしゃわしゃと撫でると、わずらわしくなったのか手を払われる。

それに笑うと、泣きそうだったカイルも笑顔になった。


「こっち来て!」


そう言って、手を引っ張るカイル。

見送りに来てくれていた、カイルの父親や村長と一緒にそのまま付いていくと早朝にネズミ達を殲滅した田んぼへと連れてこられる。


「これは…」


しかしそこは、朝とは全く別の景色が広がっていた。

夕日によって照らされた稲は、黄金色に輝き、一面が金色に包まれている。


「これが貴方がたが守ってくれたものですじゃ」


隣で嬉しそうに話す村長に言葉も出ず、誇らしそうに頭の後ろで手を組み笑顔を浮かべるカイルの頭を撫でる。


「ありがとう」


最後に見事なものを見せてもらったと礼を言えば、少年はより一層嬉しそうに笑みを深くした。


「この米は一月後に収穫できる。あんたたちには食べて欲しいんだ。また来てくれるか?」

「ああ」

「もちろんだ」


カイルの父親の言葉に俺たちが答えると、一緒にいた村の者が全員嬉しそうに微笑んだ。

俺たちは改めて礼を言い、転移を発動し獣都へと帰還した。

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