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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第十二章 遥かなる大自然「美しき森の神秘」編
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第306ページ 困窮する村

「そうですか、カイルがそんなことを…」


俺とギースが案内されたのは、この村の村長の家。

カイルの父親は俺たちがただカイルを送りに来たわけではないと察してここに連れてきてくれた。


ここにいるのは俺たちとカイルにその父親、村長とその奥さんだ。

挨拶を終え、ギースがこれまでの経緯を説明する。


話を聞き終えた大人たちの反応は様々だった。

村長はカイルが一人で獣都まで行き、冒険者を連れてきたことに驚いているし、奥さんはそんなカイルを微笑ましく見ている。

カイルの父親は、子どもが村のためを思って行動したと聞き嬉しそうだが、褒めてはだめだと思っているようで我慢しているよう。


「まずはお二方ともお越し頂きありがとうございます。わし等の方でも知らせは送っておりましたが、迅速な対応に感謝致します」


村長が丁寧に頭を下げてくれる。

聞けばカイルが行商の馬車に密航した後、村長の息子が獣都へと知らせに馬を走らせたそうだ。

現在は既に獣都について、しかるべき場所に話しを通しているだろうとのこと。


「本来であれば息子の帰りを待ち、お二方への依頼は一旦取り消しとなるんですがそうも言ってられんくなりました。正直、このタイミングで高ランクの冒険者の方々がいらしてくれたのは行幸と言うしかありません」


村長はそう言って、ため息をつく。

事態は俺たちが思っていたよりも深刻らしい。


「このままだとこの村はおしまいですじゃ、どうか助けてくだされ」


深々と頭を下げる大人に、他の者も続いて頭を下げた。


―――


「魔物はビッグマウスで間違いなし」

「だがその数は想定よりも多いか…」


村長から聞く村の現状は、思っていたよりもひどいものだった。

魔物の種類は想定通りだが、その数は想定よりも遥かに多い。

何しろ村人が倒しても倒しても減らず、それどころか増えているようで焼石に水状態。


俺たちは予定を変更し夜通しの狩りに出た。


「とは言ってもあいつらはネズミのくせに夜は動かないからな。巣穴に戻ってるはずだ」

「巣穴を見つけて一網打尽にしてやればいいってことだな」


ビッグマウスにとっては残念なことに、俺の視界に展開されるマップには固まって動かない敵の赤点がよく見える。

しかし、改めて見ると数が桁違いだ。

巣穴だけでも近くに7つはある。その一つ一つに、20は固まっているだろう。


「堅実に一つずつ進めていくしかないな」

「ああ、だが悪い。こうなっちまうと俺はあんま役に立てねぇ」


ギースは対多数戦闘もこなすことが可能だが、一気に殲滅する能力はない。

今回の場合は一匹でも逃がすとまた繁殖してしまう危険性があるため俺の魔法で殲滅するのがよい。


「気にするな。適材適所でいこう」


言いながらギースの背中を叩いて、俺たちは巣穴へと向かう。

気を付けないといけないのが、中にいるネズミを逃がさないこと。

起さないように慎重に魔法を行使する必要がある。


「あいつらは敏感だからな。魔法の予兆なんかも気づく可能性はある」

「大魔法は使えないってことだな」


できるだけ少ない魔力で殲滅。

魔法の使い方も考えないといけないな。

幸いなことに巣穴への出入り口は一か所のみ。

他から逃げられることはないのが救いだ。


「ネズミであってモグラじゃないからな。そんなに穴を掘る能力があるわけではないんだろう」

「なるほど」


となれば抜け道を作って魔法から逃れる心配もあまりしなくていいのか。

巣穴は地面に掘られており、塞ぐことは簡単そうだ。


「ネズミが掘れないように巣穴回りを固めて、出入り口をふさぐのが楽じゃないか?」

「えぐいな、シュウ。一思いにやってやれよ…」


いい考えだと思ったのだがそれは人情的にということだけではなく、魔物の特殊進化の可能性を含めてだ。

生きたまま密集した場所に閉じ込めればいくら草食といえども共食いが起こる可能性はある。

そうすると日本の呪いのように力を高め、なおかつ呪われた存在が生み出される可能性があるらしい。


「それはまずいな」

「ああ。こんな村でそんな存在が暴れたら一日とかからずに全員死ぬだろうよ」


純粋な戦闘力だけではなくそういった存在は瘴気をまとっており、それは人体はおろか自然環境にも悪影響を及ぼすそうだ。

被害によっては穀倉地帯としての再起も難しくなるとのこと。


「わかった。根絶やしだな」

「ああ、そうしてくれ」

「素材は必要か?」

「うーん、村にとっては財源になるかもしれないがそれを気にして、もしがあったら困るしなぁ。考えなくていいんじゃないか?」

「わかった」


選んだのは水魔法だ。

ひとまず空中に浮かべた水球をゆっくりと巣穴に流し込む。

だがその量は、巣穴全てが埋まるくらいの量だ。

ネズミが気づき、慌てた時にはもう遅い。


「溺死は少しかわいそうだものな」


一瞬だけ、満たした水に魔力を通す。

水圧を上昇させ、すべてのネズミが圧死したことを確認して俺たちは次の巣穴へと移った。


「…圧死もえぐいと思うぜ?」


ギースが呟いた言葉は聞かなかったことにした。


―――


全ての巣穴で同様の処理をした俺たちは、漏れがないかを確認し村へと帰還。

村長に終わったことを伝えると、涙ながらに感謝された。


さすがに疲れていた俺は、また明日話すことを約束し村の空き家を借りて就寝する。

ギースはまた別の空き家を貸してもらっていた。


事件が起きたのは、陽が昇り始め、村の農民たちが働きに出始める頃。


「なんだあれは!?」


気づいたのはひとりの農民だった。

山の方角から砂煙が舞って見えた。


「あれは!?村に知らせろー!魔物だー!!」


一際大きなネズミ型の魔物と共に、夥しい数のビッグマウスが村へと走ってきていた。

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