第305ページ 村
「なんでギルド長が受付をしてるんだ…」
「あの人は現場主義だからな、冒険者とより近くで関わっていたいんだとさ」
ギルドで衝撃を受けた後、俺たちはギルドが用意した馬で少年の村へと向かっていた。
少年は名前をカイルと言い、獣都へは親に黙って行商の馬車に忍び込んでやってきたらしい。
それを知ったアギーラさんにめちゃくちゃ叱られて今は落ち込んでいる。
「さて、今回の依頼は実地調査という名目での討伐だ。カイルの話から判断するに、魔物はおそらくビッグマウスというネズミの魔物。猫ほどの大きさだが、戦闘能力はほぼ皆無。危険性は少ないが名前の通り大食いだから急いだ方がいいのは確かだ」
カイルの話ではそのビッグマウスが何匹か田畑に巣くっているらしい。
本来であれば村人たちだけで対処も可能な魔物であるが、対処が追い付かないとのこと。
「ビッグマウスの生殖スピードは異常だからな。だが、あいつらは人里に来ることは稀だ。自分たちが弱いことを自覚しているから山で暮らしているもんなんだが…」
今年はこれといった災害等もなく、ビッグマウスが山から出てくる理由がわからないとギースがぼやいている。
高ランク冒険者になると魔物の情報からそういったことまで考えるのか。
俺は全知があるため、意識をすればわかるのだが、まず意識しようという思いが出ない。
これからはそういうわけにもいかないな。
「意外だ。ギースから学ぶことがこんなにあるとは」
「どういう意味だ!」
「言われたくなかったら依頼にまで酒を持ってくるな!」
「こ、これはその…」
抱いていた尊敬の念がすぐに消えてしまった。
この軽薄さもキャラ作りなのかもしれないが。
しかし魔物が通常とは違った動きをしているというのは気になるな。
たまたま人里に出てきたというのもまぁなくはないのだろうが、外的要因により山にいられなくなったと考えておく方がいい。
そうなると何かしらの原因により山に食糧がなくなった、もしくは食物連鎖の上位に位置する魔物が新たに棲みつき、山にいられなくなったなどが考えられる。
他にも思いつくことはあるが、答えは出ないだろう。
「調査っていうのはどこまでを指すんだ?」
「ん?ああ、山の調査はしなくていいのかってことだな?」
山に原因があるのであれば、俺たちが村にいる魔物を一層したとしてもまた同じことが起きてしまうのではないだろうか。
「それこそ政府を通して改めて依頼があるだろうよ。俺たちはあくまで依頼の下地のために調査に来ている。余計なことをしたらまた姐さんに怒られるぞ?」
「そうか…」
組織に属している以上、勝手なことはできない。
少し窮屈に感じもするが、その分、ギルド側からの恩恵も受けているのだから文句は言えないな。
「まっ心配しなくても姐さんが既に動いてると思うぜ?ギルド経由で国にも話がいってるだろうしな」
ギルド長ともなると国の上層部とも独自のパイプがあるらしい。
俺たちの出発の準備をしながらそちらを使って連絡もしているはずとのこと。
仕事ができるって感じだな。
「あ、見えてきた!俺の村だ!」
カイルの言葉に、前方を見る。
思ってたよりも大きそうな村があり、こちらに向かってくる馬に気づいた村人がカイルに気づいたようで走って村の中へと消えた。
おそらく親を呼んでくるのだろう。
「怒られる覚悟しとけよ」
「う…うん…」
顔を青くして素直にうなずくカイルの頭を撫でてやり、俺たちは村の前で馬車を降りた。
―――
「この馬鹿野郎!!」
「「いてぇーーー!!」」
現れたカイルの親父さんは、息子の顔を見るなり拳を握り、思いっきり頭へと振り下ろした。
そして頭を抱えてうずくまるカイルと、殴った手を持ってうずくまる親父さんとがいた。
「なんちゅう石頭だ!」
「いきなり拳骨はないだろう!?」
「うるせー!どんだけ心配したと思ってやがる!!」
獣都から馬車で一日かからないとはいえ、それは休みをいれなかったらだ。
カイルが獣都へ来る時に用いたというか便乗した行商は、野営を前提として昨日に出発。
今日の昼前に到着して、カイルはその足でギルドへと来たそうだ。
その間、もちろん内緒で荷台に忍び込んでいたため何も食べておらず、空腹のカイルに飯を食わせてから出発。
あまり休憩せず、カイルとギースを乗せた馬と、俺を乗せた馬の二頭だけで急ぎ到着したため夜中には到着できたが、丸一日以上、カイルは村にいなかったということだ。
それは心配するだろう。
「ご、ごめんなさい」
自分のしたことがどれほど心配かけたか、怒りに顔を歪ませながらも泣きそうに見える父親を見て改めて理解したのだろう。
カイル本人も泣きそうになり謝罪をする。
「もうするなよ」
コクンと頷くカイルに父親は膝を折り目線を合わせる。
「それでなんだってこんなことをしたんだ?この人たちは?迷惑かけたのか?」
「それは俺から説明しましょう」
ギースが珍しくまじめな顔で声を出す。
それに何か感じることがあったのか、親父さんはひとまず俺たちを村の中へと案内した。




