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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第十二章 遥かなる大自然「美しき森の神秘」編
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第301ページ 獣王との晩餐

「すべての織物には獣大陸の秘境、輝きの丘でのみ生息するミラージュバタフライの蚕から作成したミラージュシルクを!染めるのに使いますは、発見難度だけでSランクに認定されておりますアルカ・カメレオンが極まれに体外へと分泌する擬態液を用いております」


カーテンやラグは、柔らかく滑らかであり窓から入る風で揺れる度に模様が変わっているような気さえする。少なくとも色は変わっているだろう。


「シーツも勿論ミラージュシルク!羽根布団に使っておりますのは風の力だけで大陸を渡るという渡り鳥フラウンフェザーの羽を!マットレスにはこの世で最も高く跳ぶと言われているトランフロッグの筋肉を使用し、すばらしい弾力を生み出しています」


思わず倒れこみたい衝動に駆られ、ルフェを見ると「心得ています」という感じに満面の笑みで頷かれた。

衝動を抑えきれず、跳び込み気味でベッドへとダイブする。


「おおっ!」


跳び込んだ勢いそのまま、俺は上へと跳ねられた。

二度、三度とそれが続き、収まった際には逆にマットレスへと沈む。

このまま寝てしまいそうになる感覚だ。


「クルゥ!」

「うおっ!?」


我慢できなくなったのか、アステールが飛び込んでくる。

2m超えのアステールが飛び込んでもなお余りあるスペース。

アステールの体重さえも包み込む弾力だ。


「気に入って頂けましたかな?」

「ああ、気に入った。だが、少し広すぎないか?」

「そうですかな?人族の英雄をおもてなしするのですから、そこらの部屋に泊めでもしたら私どもが白い目で見られてしまいます。どうかここはご寛恕を」

「そういうものか」


あまりに豪華すぎて気後れしてしまうが、そういものならば仕方ない。

人をだめにしてしまいそうな部屋だな。


「クルゥ」


訂正、人以外もだめにする部屋だ。


---


宿代の清算を終え、部屋でくつろいでいた俺たちは、時間になり王樹へと向かうことにした。

ベッドから離れようとしないアステールをなんとか引き離し、宿を出る。


王樹へと着いた俺たちは、そのまま食堂へと案内された。

豪奢なテーブルが一つあり、周りを囲むように椅子が並べられている。


「どうぞお座りになってお待ちください」


猫人のメイドさんに促され、着席する。

今回はなんとアステールも俺のそばにいる許可を与えられていた為、二人で待つことしばし。

こちらへと近づいてくる4つの気配を感じた。


「待たせてすまない。妻のレーナと、息子のレックスだ。それからレーナの側仕えをしているティファナだ」

「よろしくお願いします」

「…よろしく」


家族は全員、獅子人。

王妃レーナは愉快そうな表情でこちらを見ているが、それとは対照的に王子のレックス君は父親の足にすがりつき、恐る恐るこちらを見ている。

こう言ってはなんだが、とてもかわいい。


「さぁ食事にしよう」


王の言葉と共に全員が席に着く、レックス君は背が足りず、一人では席に座れないと思ったがトンと音を立てて跳び、着席した。

さすがはネコ科というべきか。


「一品目はグラシアサラダです。獣都近郊の村々より届く野菜を用いたものです」


瑞々しい野菜を使ったそのサラダは、シャキシャキとした歯ごたえをしており、噛む度に甘みが溢れてくる。

最初の一皿というのにこれだけでも満足できそうな皿だ。


「とても美味しいですね」

「よかった。君の評判に食事が好きというものがあったからね。今日の晩餐は我が国の物を使用した料理となっている。楽しんでくれたまえ」


2品目のスープは、透き通るようなコンソメスープ。

眠っている時も走り続けるというヴァイオレットホーン、毎日決まった時間に起床し鳴くというライトクックなどを用いて出汁を取ったものだそうだ。


「なんと!冒険者としての初仕事で竜の討伐とは!」

「まぁ、あの伝説の災厄がダンジョンにいただなんて!生きて帰れたのは奇跡ね」


3品目の魚料理は、ムーンホワイトという月夜に現れる全身すべて真っ白な魚。

その身も卵もすべて白。白身魚でありながら、味はあっさりとしておらず濃くを感じる。


「ふむ、パレステン教国か」

「あの国は獣族を人と思っていないの。だからこの大陸とはほとんど取引はないのよ」

「先日珍しく連絡があったかと思えば、勇者の召喚に成功したという知らせだった。ちょうど君と入れ違いにその勇者は魔大陸へと入ったはずだ」

「ほう、勇者ね…」


4品目はメインとなる肉料理だった。

獣大陸固有の種であるヒュドラキメラという魔物だそうだ。

部位によって肉の種類が変わるというそれを丸ごと焼き、皿に盛られたそれはシェフでさえどんな味がするのかがわからなくなっているそうだ。

噛むごとに味が変わるように思えるその肉は、とても楽しめる。


「あら、妖精郷なんて珍しいところに行かれたのね」

「獣大陸には精霊王の住む森もある。機会があれば訪れてみるといい。君は既に様々な加護を受けているようだがね」


5品目はデザート。文字通り輝いている実がアイスの上に盛られている。

アイスは放牧されているワイルドカウから採れた乳を用いたミルクアイス。

そして乗っているのは、「木に生る宝石」と異名を持つアレクサフラウトゥという名前の果実。

口に入れると果実特有の酸味が生じ、それに負けないくらいの甘味が口いっぱいに広がる。

そこに濃厚なアイスの風味が生じ、調整の取れたまろやかな味わいとなる。


「そして、君の魔族との闘いが始まるわけか」

「いえ、魔族と戦っているわけではありません。私は私の敵となったものと戦っているだけです」

「ほう?」


最後に、ドリンクとして運ばれてきたのはただの水だった。

しかしその水を含むとまるで身体から力が漲るような感覚がある。

「命の水」と呼ばれるらしいその水は、生命力を永続的に増やす効果があるらしい。


「とても美味しく頂きました」

「そうか、それはなによりだ」


お互いに笑顔で晩餐を終える。

ご飯を食べ終えたレックス君は、眠くなったようで王妃に連れられ先に寝所へと戻った。


「さて、最後にこれだけは聞いておかねばならない」

「なんでしょう?」

「君は、この大陸で何をするつもりだ?」


質問と同時に、獣王から威圧感が漏れ出す。

常人であれば身が固まるであろうその覇気を受けながら、俺は口を開いた。


「特になにも」

「え?」

「人大陸や魔大陸と変わりません。私はここで何かをするつもりはない。ただ、見て回りたいだけです」

「…なるほど、君はそういう者か。なるほどなるほど、よかろう。この大陸でも君は好きに生きるといい。この大陸は決して君の期待を裏切らないと誓おう」

「ありがとうございます」


礼を取り、その日の食事は終了となった。

あれは獣王の審査だったのであろう。

俺を獣大陸に置くことに不安はないかどうかの見極め。

どうにか俺はそれに合格したようだ。


「さて、これからどうしようかねアステール」


獣大陸は三大陸のうち最も広いらしい。

すべてを回ることは無理だろう。であらば、目星を付けて行きたいところを決めるのがいいか。

だが、それでも行きたいところが多すぎるな。あの世界樹にも行ってみたいのだが、行っていいのだろうか?


「どう思う、アステール?」

「ク…ル…」


俺の問いかけと同時に、アステールの身体が傾く。


「アステール!?」


そのまま倒れ、アステールは荒い息をしながら意識を失った。

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