第300ページ 獣都ライオウッド
「ようこそ獣都へ。歓迎するぞ、人族の英雄よ」
クリカザに案内されまっすぐに獣都の中心へと向かった俺たちは、そこに聳え立つ巨木の中へと入った。
そこが、獣王の居城。王樹レイ・ロンディアというそうだ。
その巨木内部は、まさしく王城のような機能を持ち、客室や謁見室も設けられていた。
その謁見室にある玉座は、不自然なほどに大きく、そこに座る男が小さく見えた。
しかしながら、その男から溢れる覇気はまさしく百獣の王と呼ぶにふさわしい。
獣王レオンハルト・バリファーデ。
獅子族である彼は、野性味溢れる外見とは裏腹に理知的な双眸をこちらに向けていた。
「お会いできて光栄です、陛下」
「畏まる必要はない。其方は余の臣下ではないのだから」
「尊き王には敬意を表す。当たり前のことです、陛下」
「はは、伝え聞く話しとは違い世渡り上手であるな」
「滅相もありません」
…自分の評価が気になってきた。
少し態度を見直すべきか。
「できればこのまま話しを聞きたいが、長旅で疲れているであろう。晩餐を一緒にどうだ?」
「喜んでお供させて頂きます」
「ありがとう、ではまた夜に」
退出を促された俺は、謁見室を後にする。
廊下には俺をここまで連れてきてくれたクリカザが待機していた。
獣王の希望により謁見室には俺と獣王の二人しかおらず、クリカザは入らなかったためだ。
安全面でそれでいいのかと思ったが、獣王に会い納得した。
あの王は早々どうにかなるものではないだろう。
「アステールも泊まれるいい宿はあるか?」
「王からはここに泊めるようにと言われているが?」
「さすがにそんな度胸はないよ」
なんというかこの城はあちこちから戦気とでもいうものが漂っている。
獣族特有のものかもしれないが、あまり関わりたくないな。
「わかった。それならいい宿に案内しよう」
「ありがとう」
王樹の前でアステールと合流した俺たちは、獣都の説明を受けながら宿へと向かった。
獣都は王都と違い区画では分かれていないようだ。
王樹を囲むように、住民の家があり、商売人は家の一階スペースを店舗としているところが多い。
獣都の家は王樹と同じように大木の内部をくり抜いてできており、都でありながらまるで森の中にいるような感覚になる。
そこに住まう者は正に様々。
獣族だけでもかなりの種が存在し、人族やエルフ、ドワーフなどの亜人も住んでいる。
皆が楽しそうに賑わいを見せており、活気に溢れていた。
案内された宿は、獣都で王樹に次いで巨大だという大樹。
「やすらぎの箱舟」という宿だった。
「いらっしゃいませ!」
扉を開くと、そこはまるで高級ホテルのロビーのようであり、華々しく輝いていた。
スーツを着込んだ山羊人の男が歩み寄り親しげにクリカザへ手を伸ばす。
「これはこれはクリカザ様。獣都に戻られたのですね」
「一時的にだ。またすぐに戻るよ」
「そうですか、我々が安心して暮らせるのもあなた方のお陰です」
「仕事だ。感謝の必要はない」
クリカザは男の手を握り返しながら誇らしげにそう返す。
魔大陸への橋を監視する職務は、危険極まりないがクリカザの態度からその職に対して後ろ向きに考えていないことがわかった。
「それではこちらの方がお客様ですかな?」
「そうだ、シュウ・クロバ。Sランク冒険者にして」
「人族大陸の英雄!すばらしい!そのような方をお招きできるとは誠に光栄です」
そう言って男はこちらに手を伸ばしてくる。
それを握り返しながらも、俺は驚きを隠せなかった。
「よく知っているな」
「もちろんですとも!この世界では情報は力ですからね!失礼、挨拶が遅れました。私、当宿の支配人をしております、ルフェ・カッサンディアと申します。どうぞ、ルフェとお呼びください」
「ありがとう、ルフェ。数日世話になりたい。獣魔もいるのだが」
「もちろん大丈夫ですとも!特別な部屋をご用意致しましょう。こちらへ」
ルフェに案内され着いていく行くと受付をしているカウンターの横。
大樹を貫く幹であろうものにたどり着いた。
その幹を囲むように螺旋状の階段が取り付けられており、幹には扉が付いていた。
「どうぞ」
ルフェが開けた扉をアステールとくぐる。
中にはベルが取り付けられており、ルフェがそれを鳴らすとゆっくりと床が上昇し始めた。
「これは…」
「昇降機は初めてですかな?しばらくお待ちを」
乗って待つことしばし。目的の階へとたどり着いたようで、扉が開く。
「おお…!」
「ふふ、絶景でしょう」
たどり着いたのは、王樹に次ぐ巨木であるこの木の更に上部。
木の枝を含めた大樹の頂上部であった。
その見晴らしは正に絶景であったが、本当に驚くべきはそこからだった。
「こちらが、クロバ様にお泊り頂く部屋となっております」
ルフェの声に振り返る。
そこにはこの場には似つかわしくない。
大きなゴンドラが存在していた。
「これこそが我が箱舟!最上級のお部屋となっております!」




