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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第十二章 遥かなる大自然「美しき森の神秘」編
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第299ページ 連行

「なぁ、あとどれくらいで着くんだ?」


魔大陸を抜け、獣大陸へとたどり着いた俺は、その場で警備を担当していた者に拘束され、現在連行され中だ。


目的地はこの大陸の中心である獣都ライオウッド。

どちらにしろ獣大陸の道もわからず、騒ぎを起こすのも得策ではないと考えた俺は手錠と足枷をされ大人しく従っている。

アステールも同じく、首輪をされ、嘴を封じられているようだが、大人しくしている。


だが、出発から1週間経った頃には飽きてきた。

広大な森で、とてもいい空気だが見渡す限り森ばかりとなると…途中、いくつか村を通過し動けないことを除いてはそれほど不便をしていないとはいえ、それとこれとは別だ。


「うるさいぞ。もうすぐだ」


返答をくれたのはこの部隊の責任者を名乗った獣族の女性。

鼬人(ゆうじん)という種族らしい彼女は、イラ・クリカザ。

生真面目な性格らしく、連行されている俺をまるで護衛しているかのように立ち振る舞ってくれる。

なんでも俺は、魔大陸から来た怪しいやつではあるが、魔族と本当に関係ないのであればあの大陸の情報を知る貴重な者になる。

その情報を獣大陸にとって重要であるから、連行中に万が一死にでもされたら堪らないとのことだった。


「もうすぐねぇ…」


クリカザはそう言うが、俺が連行されてからまだ1週間。

退屈には感じる時間だが、それでも魔大陸から1週間の距離に獣大陸の中心があるとは思えない。

だが、この女性が嘘をつく必要も感じないため、どういうことかと考えていると、俺の感覚が近寄ってくる魔物の気配を捉えた。

それも1匹や2匹ではなく、かなり大量だ。


「おい、魔物が近づいてきているぞ」

「ほう?いい感覚をしている。案ずるな、味方だ」

「なに?」


一応と思い、報告すればクリカザからはそのような反応が返ってくる。

マップを展開して見てみれば、確かに魔物の光点は緑色をしている。

確かに敵ではないようだが…

光点はかなり高速で移動しており、もうすぐここに到着しそうだ。


「喜べ。滅多にできない体験をさせてやる」


その言葉と同時に、森の奥より数十匹の魔物が飛来した。


「キュェェ!」

「これは…ワイバーンか…!」

「その通り。我らがライオウッドが誇る飛竜部隊。ここよりは彼らによって君を運ぼう」


両手を広げ、誇らしげにワイバーンたちをアピールするクリカザ。

確かに彼女の言う通り、森の上を悠々と飛ぶ無数のワイバーンは、美しく壮大であった。


---


「まさかワイバーンで連行される日が来るとは…」

「はっは!驚いたろう。私も驚いているよ。それだけ獣都にとっての君の価値が高いということだ」


飛竜部隊が罪人の連行に利用されることは異例中の異例らしい。

本来であれば貴族の送迎であったり、それこそ空戦の際に使わされるもの。

今回はなんと獣王自らの採決により、速度優先で俺たちを獣都に連れてこいと言われたようだ。


「すごいな、アステール」

「クル」


現在、俺たちは飛竜4頭に繋がれた舟に乗せられた状態で空を飛んでいる。

アステールで飛ぶのとはまた違った感覚であり、ちょうど陽が暮れ行く時だったこともあり沈んでいく陽と下に広がる大森林がとても美しい。

すでに何枚か写真を撮り、満足だ。


そう、すでに俺は檻から解放され、手枷等もついていない。

アステールも解放され、現在は舟の上で好きに過ごしている。

少し大きめの帆船程度の大きさがあるこの舟は、俺たちが過ごすには十分な広さだった。


俺たちが解放されたのは、こちらも獣王からの命令らしい。

どうやら拘束されてすぐに俺が話した情報を魔道具を用いて獣都には伝達していたそうだ。

そこで俺の名前を知った獣王は、人大陸から伝わっていた話しもあり、魔族のスパイではないと判断。

会ってみたいということで飛竜部隊を送ることを決定したらしい。

その伝達が届いたのが一昨日。

その時点で拘束を解いてもよかったらしいのだが、万に一つも逃げられ、獣王の元に送り届けられなくなっては困ると、飛竜部隊が来るまでそのままにしておいたらしい。

言いたいこともあるが、この景色が見れたんだ。許そう。


そんなこんなで解放された俺たちは、優雅に空飛ぶ舟で獣都へと向かっている。

この舟に乗っているのは、俺とアステール。それとクリカザともう二人の兵だけだ。


「む?ほう、どうやらお前たちは運がいいようだ。見てみるがいい」

「なんだ?」


クリカザに言われるままにそちらを見ると、大森林を貫くようにそびえ立つ巨大な樹が見えた。

樹まではかなり距離があるというのに、その下の森林の樹と比べ遥かに大きいことがわかる。


「うおぉ」

「クルゥ」

「ふふ、普段は霧に包まれ見えないことの方が多いのだがな。あれは獣大陸を守る神へと至る道。世界樹ユグドラシルだ」


まさに偉大としか言いようのない。

あの樹そのものが大陸を守護していると言われても納得できるその姿は、思わずシャッターを切ることも忘れるほどであり、クリカザの言う通り、世界樹の周りを霧が覆い隠してからそのことに気付いた俺は激しく後悔するのであった。

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