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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第十二章 遥かなる大自然「美しき森の神秘」編
348/358

第298ページ プロローグ

「はっ…はっ…」


鬱蒼とした森の中、後ろを振り返りながら、俺たちは走る。

確実追われていることはわかるが、この先がどのくらい続くのかわからない。


「なんなんだ一体…⁉」


仲間とも離れてしまった。

すでに何人犠牲になっているかもわからない。


「なんで俺たちがこんな目に…!」


心臓の音がうるさい。

いつもは平和な故郷の森が、こんなにも恐怖に満ちるとは。


「どこにいるんだっ!?」


相手の場所もわからない。

ガサガサと風で揺れる木の音に、いちいち反応をしてしまう。

気を落ち着かせなければ。


「おい」

「ひっ!?」


突如後ろから聞こえた声に、俺は振り向きざま持っていた鉈を振るい…


---


「一体何だったんだ…人を化け物みたいに扱いやがって」


魔王城から獣大陸へと向かう道。

俺はとある森を通過していた。

その森は、食人族が住むと言われた森。

本来なら避けるべきなんだろうが、避けるとなると時間が大幅にかかるようだったため、通過することを選んだ。


森を半ばほど進んだ辺りで、原住民だという男が接触してきた。

素直についていくと、それはもううさんくさそうな村長が登場し、やけに豪勢な持て成しを受けた。

振る舞われた料理は、鑑定してみたが普通に魔物の肉ばかりだったようだ。

そういう料理がきたらどうしようかと思っていたが、考えてみれば人肉などこの環境では魔物の肉以上に希少な物なのだろう。


だが、料理の中にはやはり薬が含まれていた。

俺はスキルの影響もあり薬を無効化できるからいいものの、何も知らずに食べていれば翌日には自分が食べられることになっただろう。


料理ごと鑑定した結果、薬は遅延性の睡眠薬だったので、そのまま頂き提供された家屋で休んでいると案の定、薬が回るであろう頃合いを見計らって村の者がやってきた。

手には縄を持ち、武器は腰につるしてるだけ。

こちらがまさか起きてるとは考えもせず、真剣に縄で縛ろうとしてくるのに笑いをこらえず吹き出したら化け物を見る目を向けられ仲間を呼ぶ叫びを上げられた。


とりあえずその男の意識を奪い、村を脱出してきたわけだが、執拗に追われさすがというべきか森から出さない為の包囲網を敷かれていた。

めんどうになった俺が反撃を始め、村人の多くをなぎ倒してから立場が完全に逆転。

俺が鬼となった鬼ごっこは呆気なく俺の勝利で幕を閉じた。


「人を襲うなら、反撃されるのも覚悟しておくことだな」


所詮この世は弱肉強食。

強者のみが生き残る魔大陸で食人族を生かす意味はあるのかと考えたが、これも生存競争なのだと考えれば割り切れないものはあるものの殺すという行為にまで至れない自分がいた。


「行こうか、アステール」

「クル」


俺の斬った男を踏みつけて、何やら考え事をしていたようなアステールに声をかけ森を抜ける。

相変わらずの曇天模様は、俺の心を写しているようで苦笑しながら前に進む。


「人肉ってうまいのかねー?」

「クル?」

「いや、なんでもないよ」


アステールの嘴に血がついていないことを確認し、俺たちは食人族のテリトリーを抜けた。


---


「止まれ!!怪しい者め!何者だ?!」


魔大陸を抜け、獣大陸への巨大な橋を歩いていると突如として複数の気配が現れた。

警戒心は感じたが、それが殺意を含まないものであったため、俺は両手を挙げてその刃を向けられる。


「俺は、シュウ・クロバ。冒険者だ」


俺を取り囲み、槍を向けているのはおそらく獣大陸の者たち。

獣のような気配と、人の知性を感じさせるその佇まいに不思議な気分になりながら名を名乗る。


「魔族ではないのか?」

「俺は人だ。魔大陸を抜けてきた」

「なんと…」

「あの大陸を生きて抜けたというのか」

「狼狽えるな!」


俺の言葉を信じ、刃をどかせようとした兵たちの後ろから一喝する女の声が響いた。


「貴様の証言をそのまま鵜呑みにすることはできない。厳正なる調査の上、その身が魔族ではないことが証明されるまで、拘束させてもらうぞ」


兵たちが道を開け、現れたその女獣人は、美しい白との毛並みをしたイタチのような顔の獣人だった。


「私はこの橋で監視及び警備を担当している部隊の責任者。イラ・クリカザだ。ひとまずようこそ、怪しい者よ」

「歓迎どうも。潔白が早く証明されることを祈るよ」


そう言って俺は、膝を折り拘束を受け入れた。

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