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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第十一章 最も危険なピクニック「目的地は魔王城」編
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第297ページ エピローグ

「改めて礼を言う。ありがとう、シュウ・クロバ」

「ああ、いいよ…もぐ…そんなことは…もぐもぐ」


場所は魔王城食堂。

赤を基調とした装飾でまとめられ、壁沿いには絵画や金の花瓶に入った豪華な花が飾られている。

そんな食堂で、貴族の家によくある長い机につき、魔王と向き合って俺は座っていた。

その眼の前には、皿が並び、美味しそうな匂いをさせている。


「…まぁ報酬などの話はまたにしよう」

「ほぉだな」


俺的にはこの飯だけでもいいくらいなんだがな。

高ランクの魔物をふんだんに使った晩餐は、とても美味だ。


ワームの腸詰は、独特な歯ごたえと癖になりそうな臭み。

魔大陸の特産だという魔草のサラダは、舌がしびれるような辛さがある。

マガ・ピラニアという魚のムニエルは、あっさりとした味付けとは裏腹に力が漲ってくるし、

メインのドラゴンステーキは言葉にできない極上の味だった。

デザートとして出されたのは、飛竜の卵を使用して作られたというプティング。


「はぁ…うまかった」

「満足してくれたならよかった…よく食べるな…」


気づけばコース料理を何巡かしてしまったようだ。

その他にもサイド料理を多くだして頂き、どれも大変美味しく頂いた。


「さて、それで報酬なんだが」

「別にこの食事だけで俺はいいぞ?」

「そういうわけにはいかない。この晩餐はあくまで客人を歓迎するためのもので、報酬と呼べるものではない」


俺にとってはそれで充分なんだが…


「報酬だが、人族の貨幣で十分な量額を支払おう」

「いらない」

「な!?」


何をそんなに驚いているのか。

貯まっていく一方であまり金には興味ないんだよな。


「魔大陸のレア食材か、冒険に役立ちそうな魔道具をくれ」

「…そんなものでいいのか?」

「それがいいんだ」


魔王は納得できなさそうに首をひねっていたが、最後には頷いてくれた。

その後俺は、食材と魔道具のどちらも報酬として受け取ることができた。

食材に至っては、魔王城の料理長が手書きしたレシピもセットで頂いた。

いいのか聞いたが、あれだけ美味しそうに食べてくれたからだそうだ。

当然だと思うのだがありがたく頂いておこう。


魔道具については戦闘系ではなく、「魔除けの鈴」というアイテムだ。

人族大陸にも似た効果のものはあるが、こちらは高ランクの魔物でも嫌がる波長の音を出すそうだ。

アステールと旅をしている以上、使いどころは難しいが、あって困るものでもない。


そのアステールだが、魔大陸に戻って来次第、回復魔法を使った為、今は隣で、ドラゴンステーキを食べている。

ジャックや、エリュトロスも一緒だ。

全員既に回復を終え、元気にしている。

エリュトロスは共食いとなるが、自分と同じ竜種でなければ別に構わないそうだ。

好んで食べるというわけではないようだが。


「…いつ立つのだ?」

「明日の朝だな」


エシルを魔王城へと送り届ける仕事も終え、ここでやることはもうない。

俺たちが魔王城へと戻った時、既にエシルは存在しなかった。

成仏してくれたのならいい。

ちなみにエシルを届けた分の報酬は受け取っていない。

魔王と約束をしていたわけではないからな。


「そうか。もう少しゆっくりしていけばよいものを」

「悪いな」


何より、俺の気持ちは既に次の旅、獣大陸へと向いている。


「まぁ一晩は世話になる」

「ああ、付き合ってもらおう」


そう言って魔王は、酒瓶を取り出した。

ニヤリと笑って言うその姿に、俺はやれやれと首を振りながら笑みを返す。

ジャックがとてもうれしそうに笑った。


---


「世話になったな」

「それはこちらのセリフだ」


明けて翌日。

俺たちは言っていた通り、魔王城をあとにする。


ジャックとエリュトロスは既に元の場所に戻っており、ここにいるのはアステールだけだ。

見送りは魔王と、魔王の側近だというリンレという女魔族と、ポワゾンという六魔将第二位の男。

城での戦いにいたメンツだな。


「タナトスはいないのか?」

「あいつは城を出たよ。お前にあしらわれたのがショックだったようだ。少し旅に出るとさ」

「へー?」


タナトスの強さには、秘密がありそうだった。

次に戦えばどうなるかはわからないな。


「それじゃ、行くよ」

「ああ、気をつけてな。ここから獣大陸へと向かう途中の森には食人族が住んでいる」

「ふーん、人って美味いのかねー?」

「お前まさか…」

「冗談さ」


何やら疑わしそうに見られている。

さっさと行くことにしよう。


「じゃあな」

「ああ、またな」

「…またな」


まさか魔王からそう言われるとはな。

魔王城にも転移陣を刻ませてもらった。

いつでも来ることはできるようになっている。

当分予定はないが、いつかはまた来ることもあるだろう。


俺は魔王たちへと背を向け、手を振りながら進んでいく。

獣大陸までは徒歩で一か月。アステールに乗れば更に短縮できるだろうということだ。

急ぐ旅でもないし、のんびり進むさ。


魔都を出て、獣大陸へと目指す。

途中、フードを被った一行とすれ違った。

何やら憔悴した様子で血の匂いを漂わせていたが、大丈夫だろうか?

魔族とは違った気配がして気にはなったが、悪い気配はしなかったので大丈夫だろう。


---


「行ってしまったな」

「ええ、そうですね」


シュウが旅立った後、ポワゾンは仕事へと戻った。

仇敵として判明した神聖国への対策や、王国と結んだ停戦協定などやることはたくさんある。


「…魔王様、どうぞ寝室へお戻りを」

「やれやれ、お前の目は誤魔化せないか」

「当たり前です。今はお休みなってください」


リンレの言葉に肩をすくめながら、言われた通り部屋へと戻る。

魔神の力を使った反響か、体調が思わしくない。

どうやら騙されてはくれなかったようだ。


「ん?どうした?」

「どうやら、客のようです」

「なに?」


珍しい。

魔王城に客など滅多にこないんだがな。


「誰だ?」

「わかりかねますが…魔族ではなさそうです」

「ほう?」


余計に珍しいな。

だが、俺は今こんな状態、タナトスやビオたちも不在。


「どうされますか?」

「…会おう」


心当たりがあるとすれば王国の誰かだろう。

空間魔法が使える者もいるしな。


「では謁見の間に」

「ああ」


俺はリンレを連れ立って謁見の間へと向かった。

使うことなどほとんどないこの部屋を、俺はあまり好きではなかった。


待つことしばし、リンレが客を連れてくる。

フードを被ったその者たちは、疲れ切っているようにみえた。


「何者だ?」

「…僕はヒロフミ・ウツヅギ。魔王、あなたと話しをしに来ました」


そう言って、戦闘に立っていた者がフードを取る。

黒髪に東洋顔、それにその名前で異世界の者だと判断する。


「ふむ…それで話とは?」

「魔王よ!人族に対する戦闘行為をやめてくれ!そうでなければ…」

「そうでなければ?」

「俺は勇者として、あなたと戦わなければならない!」


魔大陸まで来て、話をする意気込みは買おう。

だが、話に脈絡がなさすぎる。

挨拶もそこそこにこの子は何を言っているのだろうか?


何か追い詰められているような顔をしている。

後ろの者たちが一切会話に加わる気配もなければ、動く気配さえないのも気になる。

とりあえずは、休息を取らせるべきだろう。


「まぁ、わかった。見たところ、かなり疲れているようだ。一日、城で休んでくれ。明日、また話をしよう」

「騙されないぞ!?そう言って、夜に俺たちを襲う気だな!?」

「いや、そんな気はさらさらないが…」


この言いようからすると、タバンサの領域を抜けてきたのか?

それならばこの憔悴も、警戒もわかるというもの。

異世界から転移してきて、魔大陸に向かわされるだけでもきついというのに、かわいそうなことをしたものだ。


「とにかく今は休…がふっ」


立ち上がり、勇者一行に声をかけようとした俺の胸を、何かが貫いた。

目の前の勇者は、驚いたようにこちらを見ている。

目線を下すと、気持ち悪い色をした大きな棘のようなものが、後ろ(・・)から俺を刺し貫いていた。


ゆっくりと後ろを振り返る。


「リン…レ?」


俺が魔王になったころより仕えてくれていた女性が、その腕を棘へと変形させて俺を指していた。

その顔は冷静そのもので、その眼は冷たく光っている。


「とてもいいタイミングで来てくださいましたわ勇者様」

「お、お前、何をしているんだ!?」

「王国と停戦をしたと聞いた時は、どうなるかと思っておりましたが、これでまた戦乱の火種をつけることができます」

「戦乱…だと?」

「ええ、人族と魔族の大戦を」


リンレは笑う。冷酷に、笑う。


「あなた方には魔王殺しの栄誉を与えましょう」

「なにを!?」

「今は少し、眠っていなさい」


リンレが勇者たちへと手を向ける。

勇者は、まるで糸の切れた人形のようにその場に倒れた。


「久しぶりですね、グニトラ」

「はぁーい!お久しぶりね、トーラス!」


勇者一行のうちの一人、小さい女の子がフードを脱ぎ、リンレへと話しかける。


「あなたが来たのにはびっくりしました」

「こっちも成り行きでね!」

「あとを任せても?」

「いーよー!!」


状況がわからない。

だが、よくないことであることは確かだ。

そして、今の自分にはこの状況を覆すことができないことも。


「リンレ…」

「すみません、魔王陛下。私、リンレという名ではないのです。トーラスと申します」


リンレはいっそ滑稽であるかのように、一歩下がり恭しく頭を下げた。

その際に、魔王から棘が引き抜かれ、一気に血が流れ始める。


「何故…」

「ずっと狙っておりましたの。あなたが弱る瞬間を。それが勇者が来た時なんて、幸運に感謝致しますわ」


信頼していた魔族の裏切り。

いいや、この気配は魔族ではない。


「魔人…?」

「あら、よくご存じですのね。その通りです。あなたの死により、大戦へのスピードは速まります。お礼を言わなければ」


膝をつく。視界が揺らぐ。


「ポワゾン…」

「ああ、彼なら不在ですわよ。そこも織り込み済みです。他の六魔将も不在ですわ」

「リンレ…」

「トーラスと申しましたわ。あとのことは私に任せて、ゆっくりお休みください、魔王陛下」


それはいつも、寝る前にリンレが言ってくれる言葉。

だが、意味はいつもとはまるで違う言葉。


意識が薄くなる。

今まで出会ったみんなが思い出される。

これが走馬灯か、と冷静に考えながらこれからのことに思いを馳せる。


「ふっ、失敗だったな。トーラス」

「…しぶといですね。何がでしょう?」

「私に固執し、シュウを見逃したことだ」

「…たかが人一人と、魔王では重みが違います」

「いいや、違う。お前はあいつを倒せなかったから、見逃さざるを得なかったんだ」

「…」

「あいつがいれば、お前たちの思う通りにはならないさ」


そこが限界だった。

身体が崩れ落ち、床へと倒れこむ。

自然と瞼が落ちてきて、身体が冷えてきた。


「シュウ…あとは…」


---


「ん?」


何か嫌な気配がして、俺は後ろを振り返る。

だが、特に何もない。


「気のせいか」


意外と俺も、寂しく思っているのかもしれない。

短い付き合いだったが、魔王は友人と呼んでいい相手になったのかもしれない。


俺は再度、獣大陸へ向けて進んでいく。

今度こそ、魔都に背を向け振り返らないように。

これにて十一章は終了となります。

いかがだったでしょうか?

今後は間話を挟まず、十二章獣大陸編へと移ります。


1年以上の休載をしていたにも関わらず、再投稿した際は、暖かいお声かけを頂き誠にありがとうございました。

休載期間中もコメントを頂き、書かなければとは思っていたんですが…

今後もちょくちょく投稿していこうと思います。


いつ終わりを迎えるかはわかりませんが、お付き合い頂ければ幸いです。

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