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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第十一章 最も危険なピクニック「目的地は魔王城」編
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勇話④ 勇者窮地

「はっ…はっ…」


鬱蒼とした森の中、後ろを振り返りながら、俺たちは走る。

確実追われていることはわかるが、この先がどのくらい続くのかわからない。


「ヒロフミ…俺を置いていけ…」

「馬鹿言うな!できるわけないだろう!?」


肩を貸し、半ば担ぐようにしては知っているラザロが声を振り絞るように言う。

その顔には大粒の汗が浮き上がり、顔は土気色をしている。

自然と視線は下がり、肘から先がなくなってしまた左腕へと目が行く。


「くそっ」


なんで俺たちがこんな目に合わないといけないのか。


先頭を走っているロコも、心配そうにこちらを振り返りながらだ。

あんな小さい子に索敵を任せている自分にも腹が立つ。


「あっちは無事なのか…俺がいながら…!」


この場にいない、碧とフェルミナ、ユリアーダ姫も心配だ。

それに、碧がここにいたらラザロの治療もしてもらえる。

三人との合流は必須だ。


「ロコ!三人のいる場所はわかるか!?」

「っ!?ごめんなさい…」

「そうか…いや、いいんだ」


くそっ。

本当になんでこんなことになったんだ。


---


この森についたのは、獣大陸から魔大陸へと続く橋、「魔断橋」を渡り一週間が経った頃だった。

今まで敷かれていた道は、二手に分かれ、この森へと続く道と大きく森を迂回するのであろう道に分かれていた。


「さて、どうする?」

「そうだな…フェルミナ、頼んでいいかい?」

「わかりました」


フェルミナの使う精霊魔法は、精霊と心を通わせる魔法ということで、

ある程度精霊の言っていることもわかるらしい。

彼女はその能力を使い、風精霊に頼んで上空から索敵なんかもしてくれる。

既に俺たちの旅には欠かせない仲間になっている。


「…わかりました。ありがとうございます」


目を閉じて何かの声に耳を傾けていたフェルミナが呟く。

どうやら精霊との交流は終わったようだ。


「思った通り森を迂回するか直進するかの違いですね。どちらも最終的には同じところにつきます。ただ、森はかなり広く、直進で何もなければ一週間ほど、迂回路ですと半月以上はかかるかと」

「なるほど」

「それともう一つ、森のちょうど中心辺りに集落のようなものがあるようです」

「何!?」


ここは既に魔大陸、そこに集落があるとすればそれは魔族の集落に他ならない。


「どうする?」

「決まっているだろう!行くさ!」

「殲滅ですね?」

「違うぞ!?」


フェルミナの言葉にぎょっとしながら返すと、彼女は不満そうにこちらを見てきた。

そうだ、彼女の目的は復讐。

彼女にとって魔族は全て的なのだ。


「フェルミナ、君の気持ちはわかる。だが、魔族を全て敵とするのか?」

「ええ、そうです。だって」

「なら、人族に家族を殺された人は人族全てを敵にするか?」 

「…それは」

「違うだろう?魔族だって個人個人違いがある。確かに、聞こえてくる魔族のうわさは悪いことばかりだが、それでも魔族の中にもいいやつがいるって俺は信じている」

「…わかりました!」

「そうか!わかってくれたか!」


やはり人同士は話し合うことが重要だな。

この調子で、魔族とも分かり合えるといいのだが。


---


森を進んで数日、俺たちは出てくる魔物を倒しながら前へと進んでいた。

この森の魔物はそれほど強くはない。

だが、問題はそこではなかった。


「食糧になりそうなものが少ないな…」

「ああ」


出てくる魔物はほとんどがその身に毒を持っているものだった。

そのままでは食べれないものもあるし、食べれる個所が少ないものも多い。

ある程度の食糧は時間が止まるタイプのマジックバックに入れてあるが、

何かあった時の為にも自分たちで食糧は確保したかったんだが…


「皆さん、そろそろ集落につきそうです」

「わかった」


一同に緊張が走る。

それはそうだ。

魔族と人族は本来敵対的な立場にいる。

こちらが話し合いを望もうと、向こうにその気がなければ一気に戦闘になる。

だいたいこっちは魔族の領域に侵入しているんだ。

それだけでも向こうとしては戦闘する意味はあるのかもしれない。


「全員、気は緩めるな。だが、戦闘は最後の行為だ」


俺の言葉にみんなが頷いてくれる。

そうして俺たちは、更に慎重に進み始めた。


「!止まって」


後ろを歩いていたロコが声を上げる。

彼女は狼の獣人であり、気配には敏感だ。

俺たちは彼女の言葉に従い、その場で止まると気配を探る。


彼女の言葉通り、集中すれば俺たちにもその存在はわかった。

静かに、俺たちを囲むようにして近づいてくる生物が4。

今までの魔物とは違う気配だ。

これはおそらく…


「警戒態勢。まだ攻撃はするなよ」


俺のその指示が聞こえたのか、正面から気配を隠しながら近づいていた一人が姿を見せる。

茶色い肌に、赤い腰巻。手には木製の槍を持ち、骨でできたネックレスをつけている。

頭に髪はなく、顔は何らかの入れ墨を入れているようだ。


「何用だ、他大陸の者たちよ」


男が口を開く。

その声音に警戒の色はあるが、すぐに襲い掛かってきそうにはない。

そのことにひとまず安堵し、俺も口を開いた。


「戦う意思はない。俺たちは魔王に会いに来ただけだ」

「魔王に?」


その言葉に一瞬引っ掛かりを覚える。

魔族が全員魔王を崇拝しているというわけではないのか。

魔王を説得できればいいという問題ではなさそうだ。


「…魔王はここにはいない。この集落に来た理由はなんだ」

「魔族と話しをしてみたかっただけだ」

「話しだと?…わかった。着いてこい」


そう言って男は背を向ける。

囲んでいた他の魔族も、姿を見せて歩き始めた。

俺はホッと息をついて、そのあとに続く。

だが、俺以外の全員はまだ警戒しているようだった。

無理はない。


---


「ようこそいらっしゃいました!歓迎しますぞ、皆様!」


集落についた俺たちを待っていたのは、この集落の長だというボバイさん。

他の集落の人も、遠巻きにだがこちらを見ており、歓迎という雰囲気はボバイさんだけだが、嫌がられているわけではなさそうだ。


「長旅ご苦労様です!ささ、まずは食事といきましょう!」


そう言ってボバイさんが、手を叩く。

集落の中心は広場となっており、そこに様々な料理が運ばれてきた。


「宴会です!」


これほどの歓待を受ける意味はよくわからなかったが、俺たちはありがたくもてなしを受けた。


「ありがとうございます!魔族の中にもあなたがたのような人がいるとわかっただけでもうれしく思います!おいしいですね、このお肉!」


宴会では多くの肉も提供されていた。

この森の生態を思えば、これだけの肉は貴重に違いないのに惜しげもなくふるまってくれている。

それにしてもこれは何の肉なんだろうか?

今まで食べた魔物の肉とは違う気がする。


「ええ、それは特別な味付けをしていました。その肉も特別な肉でしてね、そのままだとあまり美味しくない肉なのですが、試行錯誤をして今や集落で一番のご馳走です」

「へーそうなんですか!」


ラザロとフェルミナはまだ疑っているようだが、俺にはそう思えない。

食事を終えた俺たちは、俺、ラザロ、ロコの三人と、碧、フェルミナ、ユリアーダ姫に分かれて家に案内された。

今は使っている人がいない家をあてがってくれたということで、二つの家は少し距離が離れていたが、俺たちなら何かあればすぐに駆け付けられる距離だ。

問題ないだろう。


普段は男二人と女性陣で分かれるのだが、何故か今日はロコが俺から離れようとしなかった。

仕方ないので、こういう分け方になったのだ。


---


しかし夜、事件は起きた。


「ん?なんだ?」


俺が目を覚ますと、隣に寝ていたはずのラザロとロコがいない。

気配を探ると、先ほど宴会のあった中心広場にいるようだ。

あの二人が一緒にとは珍しい。


気になった俺は、装備を整えると家を出ようとした。


「ん?」

「な!?」


扉を開けた俺は、ちょうどこちらへ入ろうとしていた男と鉢合わせた。

その手にはロープと、こん棒を持っており、客を訪ねる格好ではない。


「なぜ薬が効いていない!?」

「薬だと?」


その言葉を聞いた瞬間、俺の中で嫌な予感が駆け抜けた。


「どけ!」


走り出し、すれ違いざまに鞘をつけたまままの剣で男の首裏を殴打する。

どうやらうまく意識を奪えたようだ。


すぐに広場へとたどり着いた俺の目に映ったのは、ちょうど斧を振り下ろされ、左腕を切断されるラザロの姿だった。


「ぐわぁぁぁぁ!?」


ラザロの悲鳴が響き渡る。

近くには、ロコも縛られ転がされており、ラザロの悲鳴にびくりと身体を振るわせた。


「貴様ら!何をしている!?」


俺は走り、一足飛びにラザロの元へとたどり着くと、再度振り下ろされそうとしていた斧を聖剣で受け止める。

そのまま、振りぬき、斧を切断。振り下ろさんとした男も吹き飛ばした。


「これはこれは、ヒロフミ様。起きてなさったんですね」


ボバイさんが笑いながら声をかけてくる。

その雰囲気が、今の状況と全然合っておらず逆に恐怖を覚えた。


「これは、どういうことですか」

「どうとは?ただの食糧確保ですよ?」

「食糧…?」


切断されたラザロの腕が目に入る。

あれを、食糧と言ったのか。

なら、宴会で食べたの肉は…まさか…


「うえっ」


吐き気がこみ上げてきて、我慢できず俺は胃の中のものをそこに吐き出した。

その様子を、集落の連中は面白そうに見ている。


「おやおや、どうされました?美味しそうに食べてらっしゃったじゃありませんか」

「なんてことを…」


とにかくここから逃げなければならない。

目の前にいるというのに、今もまったく気配を感じない。

森で会った時にも、少しは感じたというのに。


一人一人戦えば勝てるだろうが、気配のしない相手に囲まれて戦うこの状況はまずい。

人の視覚には限界がある。

だからこそ、視界を塞いでも戦えるようにする為の訓練はしてきた。

だが、逆に視覚だけで戦うとなると…


無理だ。

俺一人なら大丈夫だが、ラザロとロコをかばいながらでは…


ドゴォォォン!


俺が逡巡していると、後ろから轟音が響き渡った。


「なんだ!?」


集落の連中が驚いている。

俺は、フェルミナの魔力だと感じることができ、一瞬のスキを付ける。


「行くぞ!」


ラザロの縄を斬り、ロコを奪い返す。


「止めろ!!」


ボバイの指示で、俺に襲い掛かってくる魔族を払いのけ、ロコの縄を斬ると、ロコは俊敏に動きながら集落の者が持っていた鉈のような物を奪って反撃し始めた。

その間にラザロを担ぎ、俺は森へと向け走り出す。


---


「くそっ」


気配がわからない。

薬を盛られていたとはいえ、あのロコでさえ寝所への侵入に気づけなかった。

奴らはそういうのが得意な者と見て間違いないだろう。

一瞬も油断はできない。


「俺を…置いていけ…」

「何度も言わせるな!そんなことできるか!」


いつにもなく弱弱しいラザロを叱咤する。


「お前は俺が守る」

「…はっ、敵を斬れもしないのにか」


ラザロの言葉に、俺は黙るしかできなかった。

いざ魔族と出会ってみると、彼らは人と何も変わらなかった。

人肉を食しているのであろう言動は、人とは全く違うが、見目形はまるで一緒だ。


そんな魔族を斬ることに、俺は抵抗があった。


「お前は甘いな」

「よく言われる。だが、そこで迷わず人を斬れるようなやつに、俺は成り下がりたくないんだ」


ラザロを担ぎ直し、前へと急ぐ。

と、横合いから気配がした。

気配がすることに安心するとはおかしな話だ。


「碧!フェルミナ!姫!」

「ヒロフミ!」


碧が声を上げる。

その顔は真っ青で、恐怖に震えているようだった。


「大丈夫だったか!?」

「うん…フェルミナさんのおかげで…」


フェルミナは彼らを警戒し、宴会の料理に手を付けるフリをしていたそうだ。

集落の連中が動いた瞬間に、碧を起こし、自身に解呪の魔法をかけさせた。

それで碧も正気に戻ったが、全ては抜けきれなかったようで、フェルミナに肩を貸してもらいながら脱出したようだ。


「集落の人らは…」

「あ、その、フェルミナさんが…」

「殺したのか!?」

「殺されそうになったんです。当然ではありませんか」


フェルミナは何を言っているのかわからないというようにこちらを見てくる。

この世界での命の軽さを、改めて実感した気分だった。


「俺は…」

「あぶない?!」


フェルミナの言葉に何も言えずにいると、急に碧が叫んだ。

俺が振り向くのと、集落の男が襲い掛かってくるのは同時だった。


「なっ!?」

「がうっ」


その男に、横からロコがとびかかる。

ロコはそのまま男の喉笛に噛みつき、噛みちぎった。


「ロコ!?」


俺はその光景に言葉が出ない。

ロコはちらっとこちらを見ると、悲しそうにまた前を向いた。


「いけませんね~」


そこに、声が響く。


「我々タバンサは、誰も逃がさないことをポリシーにしていましてね」


ボバイの声が、軽快に響く。


「死のディナーへご招待しましょう」

「そうなってたまるか!!必ずこの森から抜け出してやる!」


---


そのあとのことは、あまり覚えていない。

俺たちは必死に森を走り出し、なんとか森を脱出した。


憔悴しきった俺たちは、無言のまま歩き続けている。

ただ、魔王城を目指して。


「くすっ」


誰かが笑ったような気がして後ろを振り返る。

そこにはユリアーダ姫が、いつも通り無表情で無感情に歩いているだけだった。

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