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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第十一章 最も危険なピクニック「目的地は魔王城」編
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第294ページ 魂の呪縛

大変遅くなってしまい申し訳ありません。

忙しいのもあるのですが、この先を書くのが不安だったということもあります。

なので一気にそこまで投稿してしまいますね。

こちらが本日一話目です。

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あらすじ

魔族の襲撃を受けている王都へと向かおうとするシュウ。

だがそこに魔神の邪魔が入り、魔神に操られた魔王が立ちふさがる。

時は遡り魔王城、王の間。

魔神の力に飲み込まれた魔王の前に立ち向かうは勇者、ではなかった。


「俺は冒険者なんだがな」


冒険者シュウは愛刀である神刀天々羽斬を抜き放ちながら呟く。

その横に、従魔であり友人のジャックが並ぶ。


「破壊神の欠片は二つ。ルベルベンはより力を発現できているはずだよ」

「問題はそれだけじゃない。今までのように何も考えず破壊すれば、寄生されている魔王が死ぬ」


胸に埋められた二つの欠片は、そこからまるで根を伸ばすかのように魔王の体を侵食している。

そのまま壊せばどうなるかは考えるまでもない。


「どうにかできるか?」

「残念だけど僕には…」

「そうか」


さて、どうするか。

魔王ごと殺すことは恐らく簡単にできる。

だがそれをやってしまえば人族と魔族の対立は確定的になり、もはや何があろうとも取り返しがつかないだろう。


<全知>の知識にも、死者蘇生の法はなかった。

魔王を今の状態のまま救う方法も見つけられない。


だがそれは、今のままならばだ。


「エシル」

「…なに?」

「最後に、一つ頼まれてくれるか」

「…ええ、もちろん」


エシルの体は、夢殿から戻ってきてから揺らいでいる。

いいや、これがエシルの本来。


元々エシルは、兄に対する想いだけでこの世に留まっていた。

それが八咫鏡の力によって存在を固定され、兄に会うという目的を達成し鏡からも解放された今、彼女の存在は非常に希薄となっている。


それだけでなく、霊の状態で魔法を使ったりしていた彼女は、このまま現世に留まり続ければ魔物化してしまう危険性があるそうだ。

しかし、この役目はエシルにしかできない。


「呼びかけてくれ、魔王に。内側から魔神の呪縛を破れるように」


エシルが真剣な顔で頷くのを確認し、俺は天々羽斬を構える。

同時にジャックが、その手に闇を揺らめかせた。


「…僕も手伝うよ」

「私も」


タナトスと女魔族が俺たちに並ぶ。


「裏切れば斬る」

「そんなことしないよ」

「あのような陛下を見ていられません」


二人はこちらを見ずに、魔王のことだけを見ている。

純粋に彼を慕っているのだろう。

あの戦うことにしか興味がなさそうだった、タナトスですらそうなのだ。


「ふっ、足を引っ張るなよ」

「誰に言ってるんだよ」


タナトスもまた、その顔に笑みを浮かべる。


「さぁ、魔王。第二ラウンドだ!」


俺たちは一斉に動き出した。


「はぁっ!」


女魔族の魔力が、闇の鞭となって魔王へと迫る。

魔王はそれを魔剣で軽々と切り裂いた。

だがそこにタナトスと俺が迫っている。


「はっ!」

「しっ!」


左右から迫る剣戟に、魔王は魔剣と腕で対処した。

天々羽斬を魔剣で受け止め、タナトスが作り出した闇の剣を素手で掴み取った。


「相変わらずでたらめな!」

「おいおい、デフォルトかよそれ」

「Guruaaaaaa」


魔王が唸りをあげながらこちらを見る。

その目は黒く染まり、光を宿していない。

背中をゾクリと悪寒が走る。


「Groaaaa!!」


魔王の体から魔力が噴出し、黒き鎧が魔王の体を覆っていく。

漆黒の鎧騎士となった魔王はその膂力だけで俺たちを吹き飛ばした。


「ぐっ」


そんな俺たちの頭上を飛び越し、ジャックが魔王に迫る。

その手からは輝きが漏れ、強大な魔力が集まっている。


「フレアストライク!」


ジャックの手から放たれた弾丸は、隕石さながらの速度で魔王へと迫る。

特級魔法に分類されるそれを、魔王も同じく魔法で迎え撃つ。

魔王の手から放たれた無数の火の玉が、ジャックの魔法へと衝突する。


だが、魔の神とまで呼ばれたジャックの特級魔法がその程度で中和できるわけもない。

火の玉を蹴散らしながら迫る魔法に、魔王は魔剣を振り上げる。


「なっ!?」

「『Slurp』Dáinsleif」


ダインスレイブが怪しく光り、打ち合わされた魔法から何かを吸収し始める。

するとだんだん魔法が小さくなり、ついには火が消えるようにして消滅した。


「魔力を吸ったのか…」

「一発の質は関係ないね、量でいくよ」


そう言う、ジャックの背後に蒼く揺らめく火の玉が浮かぶ。

両手を広げ、まるで指揮者のようにジャックがそれらを操る。


ダインスレイブは一度火の玉に触れてしまえば、魔力を吸いそれを消し去ることができるようだが、消した先から増えていく火の玉に、対応が追い付けていない。


「シュウ!」

「ああ!『断ち切れ』!」


ジャックの合図と同時、俺は魔王目がけて天々羽斬を振るう。

刀身が伸びた天々羽斬が魔王へと迫り、


「『Rasing』Gram」


同じく長大化した魔剣グラムによって防がれた。

しかし、グラムは神剣の一撃には耐えられなかったようで、その刀身から真っ二つに叩き折れる。


「自慢の剣の一本が折れたな!」

「Guruooo!!」


怒りの咆哮を上げる魔王に対し、俺は駆け出す。

ダインスレイブはジャックの操る火の玉を対処するので精一杯。

魔王の意識のほとんどもそちらに割かれている。

今が好機!


「気を付けろ冒険者!!」


だが、走り出した俺にすぐタナトスの声がかかり、その言葉の意味を察する頃には既に遅かった。


「ぐっ…はっ…!」

「シュウ!?」

「…大…丈夫だ」


咄嗟に発動した血の鎧と竜の鱗の上から、先ほど折れたはずのグラムが突き刺さっていた。

もしもスキルを発動していなかったら、この剣は俺の左胸を貫通し、心臓を突き刺していただろう。


「魔剣グラムの強度は高くない。けど、決して折ってはいけない剣なんだ」


折れば折るほど強くなり、その剣は敵の心臓へと向かう。

まるで自身を折った相手に復讐するかのように。


「そういうことはもっと早く教えて欲しかったもんだ」


自身に刺さっているグラムを抜き捨てながら言う。

意識を失っていながらこの強さ。

恐れ入るな。


「兄さん!」


エシルは必死で呼びかけている。

既にその力は限界を迎えているようで、その姿は揺らめきぼやけ始めている。

にもかかわらず、そんなことはまるで気にもせず、気づいてすらいないように。


「はっ、あれだけ妹のことを思っていた割りに、その声すら聴けなくて…お前何やってんだよ?」


俺の言葉に、気のせいか魔王がピクリと反応する。

それに俺は、一縷の望みを託した。


「『映せ』八咫鏡!!」


再び取り出した神器をエシルに向け、その姿を映し出す。

その場に急に投影されたエシルの姿に、俺と魔王以外の全員が驚きを露にした。


魔王はエシルの姿をその目で捉え、目に見えて動きが鈍くなる。


「兄さん!!」


エシルが声を発す度、魔王の動きはぎこちなくなり、身体を無理に動かしているかのように先ほどまでの精錬された動きとは比べるまでもない。


『ぐっ、何をやっておるか!そんな小娘一人に揺れおって!』

「黙って見ていろ、ルベルベン!!」


響いた声に怒鳴りを返し、俺は更に八咫鏡へ魔力を込める。

それは鏡は魔王をも映し出し、その魂を顕わにさせた。


『ぐ、ぐぉ…』

「ずい、ぶん…好き放題、やって、くれたな」


魔王の腕が、自身の胸へと伸びていく。


「俺の妹を…小娘だと…?」

『ぐっ、や、やめろ!そんなことをすればお前も!』

「五月蠅い!!」


魔王の両腕が、魔王自身の胸へと突き刺さる。

そして、胸を開くようにして魔王は自分の身体から魔神の欠片を取り出した。

その胸から、大量の血を流して。


『魔王!魔王よ!我を壊せばお前の望みは叶わぬぞ!?強大な力を喪うことになるのだぞ!?』

「あの時の俺が間違えていたんだ…お前の力など、俺はもう…いらない!!」


魔王がガクリと膝をつく。

そんな状態でありながら、顔を上げ、俺のことを見る眼は、力強かった。


「さらばだ、魔神よ!!」

「そういうことだ。今回もお前は、ただの邪魔ものだったな」


魔王が宙へと二つの欠片を放る。

俺はそれに向け天々羽斬を振るい、寸分たがわず両断した。


『おのれ、おのれぇぇ!!』


魔神の気配が消失し、ドサリと魔王が倒れこむ。


「ヴァン!」

「陛下っ!」

「お兄ちゃん!」


タナトスと女魔族がそれに駆け寄り、エシルも心配そうに近づいた。


「ああ、エシル…すまなかった…」


魔王はエシルに向かって手を伸ばし、パタリと力なく手を下した。

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