第290ページ 強者たちの演舞
長らくお休みいただきまことに申し訳ありませんでした。
やっと仕事が落ち着きましたので更新再開させていただきます。
王城最上階・星天の間前。
飛び交う聖剣が、空間を圧倒する。
それぞれが尋常ではない力を宿し、輝きながら他を圧倒する聖剣はそのすべてを一人が操っているとは思えない程複雑に動く。
「ぬぅっ!?」
「ぐうっ」
ひっきりなしに襲い掛かる聖剣に、六魔将の二人は翻弄されている…ように見えていた。
「ふんっ」
「はっ!」
二人は、今までどうにか避け防いでいた聖剣を、シュテルクは手で、ビオは足で弾く。
軌道をずらされた聖剣がすぐ近くを舞っていた別の聖剣にあたり、フィオナは焦りを浮かべながら聖剣を回収する。
18本の聖剣が彼女の頭上に円軌道を描いて浮かび上がった。
「舐められたものだ」
「数で紛らわせてはいるが、一本一本の軌道は変わらぬ。見切ることなど容易いわ」
フィオナの頬を一筋汗が伝う。
実際、六魔将の言っていることは正しい。
春よりも同時に操ることができるフランガッハの数は増えているが半年で自由自在にとはいかなかった。
その為、フィオナは同じ軌道を描かせることによりその問題を解決していた。
だがそれは彼らだからこそわかることであり、七星剣、六魔将レベルの実力者でなければ見抜くことは困難なほどのスピードと複雑な軌道であった。
露見した理由はここが密閉空間であることも挙げられる。
大きく開けた空間であれば、更に軌道を広範囲に渡らせることもでき、スピードはより上がるのだ。
七星剣において屋内、閉所での戦闘を最も得意とするのは第三位ローレンスである。
剣技という点においてフィオナ、ベン、そしてアレックスはこの世界有数の実力者ではある。
しかし、彼らが全力を出す時、屋内では狭すぎるのだ。
結論として、二人は今この場で全力を出すわけにはいかなかった。
後ろには守るべき星天の間があるのだからなおさらだ。
一方で、六魔将の二人には守るべきものがここにはない。
むしろ破壊するつもりできているのだから遠慮はいらない。
彼らは更にその魔力で体を満たし始めた。
「そろそろ終わりにしよう」
「残念だな、全力のお前たちと戦ってみたかったぜ」
その時。
「終わりはそっちだ!」
空間魔法を使い一瞬で二人の背後へと転移したベンが精霊剣を振るう。
ベンは考えていた。
今まで使っていなかった空間魔法、どのタイミングで使えば最も相手の虚をつけるかを。
そして、相手が勝負あったと、そう思う瞬間こそがチャンスだと。
実際にその判断は間違っていなかった。
ただし、それは何の誤算もなければの話。
ガキンッと音を立て、精霊剣がシュテルクの手によって受け止める。
「なっ!?」
「愚かな。我々がお前たちのことを調べていないと思っていたのか?七星剣第七位ベンジャミン・フォン・シュレルン。例えこの場で使っていなかったとして、お前が空間魔法の使い手だということは百も承知。警戒していないと思っていたのか?」
「そういうこった」
それは敵対者として当然。
ビオにとって、相手の情報を事前に知ることは最も重要なことであった。
「はっ!」
ならばと、ベンは空間魔法を連続で使い、転移を繰り返しながら剣戟を繰り返す。
これが彼本来の戦い方である。
だがしかし、これさえも密閉空間においては限界があった。
「どっせい!!」
掛け声と共に振りぬかれたシュテルクの拳が、ついにはベンを捉える。
精霊剣で受け止めはしたものの大きく弾かれたベンは、フィオナのところまで後退させられた。
フィオナは険しい顔で敵を見ている。
ベンが攻撃している間、もちろん何もしていなかったわけではない。
しかし彼女は、その聖剣上一体多数を得意としており、連携はあまり得意とは言えなかった。
必死に頭を回転させるものの、この場を切り抜ける手は思い浮かばない。
いいや、あとのことを考えなければ、この場だけを考えれば、どうにかできる手はある。
しかしそれは、王国で現在最も守らなければならない場を離れるという行為になってしまう手だった。
せめてもう一人、この場に誰かいてくれたらと思わずにはいられない。
コツン
頭を悩ますフィオナとベンの元に、一つの音が届く。
それは靴音。
階段を上がってくる誰かの足音。
それに二人は期待をする。
王国最強の守護者か、頼りになる魔導士長が戻ってきてくれたかと。
だが、絶望は加速する。
「まだ、終わってなかったのですね」
「…迎えに来るのが随分早いじゃないか。外はどうした?」
「あの四人がいるのです。大丈夫ですよ」
現れたのはよく知る顔。
しかし今は、敵となっている、死んだはずの顔。
「師匠…」
「やぁベン、久しぶりだね」
そう言って笑う顔は、生前と全く変わらない。
それにベンは泣きそうになってしまう。
それをなんとか持ちこたえて、ベンは剣を構えた。
「私と…戦うかい?」
状況は最悪。
六魔将の二人だけでも厳しい戦いであったのにそこにエイブラハムが加わってしまった。
二人にはもう、成す術がないように思われた。
しかし、絶望が深ければ深いほど、希望は大きくなる。
ビキッ
と大きな音が響く。
「これは…まさか!?」
再度、皹割れるような音が鳴る。
それが連続して鳴り響き、空間が震える。
そしてついに、今まで最も大きな、何かが割れるような音が響き、空間に穴が穿たれた。
「…空間を力技で壊すなんて…相変わらずでたらめだね」
「まさか本気で、この程度で俺を捕らえられると思っていたわけではあるまい?」
その穴から出てきたのは、王国最強の竜人。
「覚悟はいいか?」
目を赤く輝かせたアレキサンダー・テムエ・ドラグニルが殺意を垂れ流しながら、現れた。




