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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第十一章 最も危険なピクニック「目的地は魔王城」編
333/358

第285ページ 王都防衛戦②

王城最上階・星天の間前。


「ハァっ…ハァっ」


七星剣第七位であるベンジャミンは、膝を突き、肩で息をしていた。


「ハッハ!想像以上にやるな!七星剣ってのは!俺たち二人相手にこれとは!」

「ふんっお前が私の足を引っ張っているからだろう」

「なんだと!?」

「先にお前から消してやろうか!」


ベンの前に立つ二人は、六魔将第三席シュテルクと第四席ビオ。

共に体中に傷を負っているが、その消耗具合はベンの方が上のように見える。


あまり仲のよくない二人は、胸倉をつかみあい、いきなり喧嘩をし始めたが、それは隙になっていないことをベンは今までの戦いから知っていた。


(もっと精霊魔法が使えれば…)


精霊魔法は自身が行使する魔法よりも少ない魔力で使える。

しかしそれは、魔法を行使してくれる精霊がいてこそだ。

自然の中、せめて屋外であれば精霊魔法は絶大な効果を発揮するのだが、屋内となると存在する精霊は限られる。


ここには水場もなく、無論火も存在しない。

地面は土ではなく、使える精霊は風と光くらいであった。

どちらの精霊も自由を好み、戦闘は好まない性質を持つ。


更に、ベンの持つ精霊剣ミスティルテインの通常能力は植物操作。

植物の一切ないこの場では、何の意味もない。


(俺が外に行けばよかった!!)


既に言っても詮無いことではあるがベンは心中で愚痴をこぼす。

だが、ベンはまだ空間魔法を使っていない。

純粋な剣技のみで六魔将の相手をしているこの現状は、知っている者が見れば驚愕に目を見開くであろう。


しかし、それは六魔将とて同じこと。

それぞれが切り札として所有している能力はまだ切っていないのが現状であった。


ベンが空間魔法を使っていないのには理由がある。

それは一つの懸念。


王城内にいきなり現れた六魔将。

そして、魔力が突如として感じられなくなったアレックス。

二つの事実は、一つの事実に結び付く。


(師匠っ…)


アレックスがいないのであれば、師匠であるエイブラハムと戦うのは自分だと、ベンはそう思っている。

その為には魔力を極力温存しておかなければならない。

エイブラハムと死別したあの日から時間が経っているとはいえ、未だに自身が師を超えたとは到底思えていないベンであった。

仮に双方全快全力で当たったところで、勝てるかどうかはわからない程に。


(どうすればっ…)


サラがいてくれればと思うベンであったが、いないものはどうしようもない。


ここは空間魔法を使い、喧嘩している二人のうちどちらか一方だけでも戦闘不能にするしかない。

ベンがそう判断し、行動に移そうとした瞬間、二人はいきなり互いを突き飛ばすようにして距離を取った。


ガキンッ


二人の立っていた場所には、二本の細剣が突き刺さった。

それを知っている者はこう呼ぶ、聖剣フランガッハと。

そしてそれを振るう者は


「争うのならば、他のところでやってもらいたいものです」


星天の間へと続く扉が閉まる音が聞こえる。

彼女は、中で最後の防衛線を務めているはずだったがどうやらでてきてしまったらしい。


「…小娘、怪我では済まぬぞ?」

「国を、大切な人を守る為ならば、私はこの手を汚すにためらいはありませんわ」


銀のドレスをまとい、その細腕に細剣を一本ずつ構える少女。

彼女の頭上では、持っている細剣と全く同じ見た目の剣が16本舞っていた。

床に突き刺さっている二振りを合わせると、計20本(・・)


「マジェスタ王国第二王女フィオナ・ジェンティーレ・マジェスタ・フォン・アッシュフォード。推して参ります」


---


東、西を任された騎士団と冒険者は、それぞれ苦戦を強いられていた。

魔物の軍勢については問題ない。

数が多いだけで所詮知能は普通の魔物と変わらなかった為、騎士団と冒険者は順調に魔物を駆っていた。


だがしばらくして、いきなり現れた魔族が厄介この上なかった。


冒険者の方に現れた魔族、メーアの副官であるダルバインは、自身の力を用いて有力な冒険者、パーティーの要となってい冒険者を的確に見抜き戦闘不能に追いやった。

その為、戦況は瓦解し、冒険者たちは一気に劣勢へと立たされた。


阿鼻叫喚が鳴り響き、これ幸いと魔物たちは食料の確保にいそしむ。


その光景をダルバインは、複雑な目をして見ていた。

彼は自分自身で人族を殺すことにためらいはない。

しかし、このように魔物の餌にするようなやり方はどうにも好きではなかった。


「チッ、命令じゃなかったら…」


苦虫を噛み潰したような顔をしていたダルバインの目が見開くのは、そのすぐあとだった。


突如として魔物たちが動きを止め、そのままドサドサと倒れていく。

その口から泡を吹き、死んでいるのが一目でわかるような状況だった。


「御館様の命により、助太刀させていただきます」


魔物の死体の上に立つ、場違いなほど上質な服を着たその老齢の執事に全員が注目した。


「恨みはございませんが、お覚悟を」


片眼鏡の奥から眼光鋭く、口端を釣り上げて不敵に笑ったシュレルン公爵家執事長ジェームズ・ビヤンネートルに、その場にいた者は言いようのない寒気を感じた。


---


そして西。

騎士団たちは、魔物ごと自分たちを蹂躙する変な見た目の巨大な人形に逃げまどっていた。


「シェシェシェ!魔人巨兵を基に小生が作った魔人人形でやんす!その実験台となっていただきますよ!」


あいかわらず奇妙な物体に乗って空中に浮いているシェンツィアートは、その光景を満足そうに眺めていた。

騎士の槍や剣は、魔人人形に通らず、魔法さえも弾く外装。

持っているのはオリハルコンから作った鈍器であり、振り回す程度しかまだできないが、それでも十分な威力となっていた。


先ほど出てきた軍務卿と名乗る輩も、魔人人形には敵わず、あえなく吹っ飛ばされておりシェンツィアートには自身の作品が成功作となったという確固とした自信があった。

が、その自信は次の瞬間、打ち砕かれることになる。


「なぁっ!?」


突如として出現した闇の刃が、下から魔人人形の胴体を真っ二つに両断した。

今までどんな魔法も弾いていたというのに、その攻撃はなんの抵抗もなく人形の体に入ったように見えた(・・・・・・)


「すみませんね、私も王都に住む者として放っておくわけにはいかないのですよ」


いつの間にかその場にいたその男は、評するのであれば黒の一文字につきた。

全身を黒づくめの衣装で覆った黒髪の30代程度の男。


「お、おいあれって!」

「ああ!六人の偉大な魔導士(アークビッショプ)の一人、闇のイーヴァ・バビュロニカ様だ!」

「国内外問わず有数の大商会の会長が、珍しく本拠地にいたらしい…」

「やったぞ!あの方が味方してくれるならば勝ったも同然だ!」


後ろから聞こえる歓声に、イーヴァは騎士たちには見えないように笑う。

その笑みは、見るものに恐怖を与えかねない悪魔の笑みだった。


「さて、始めましょうか」


先ほどまでの笑みを消し、ニコリと微笑んだイーヴァの影から、闇が噴き出した。

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