第284ページ 王都防衛戦
西と東、双方に招集された冒険者と騎士は眼前に広がる魔物の大群に様々な感情を抱いていた。
高揚する者、恐れを抱く者、緊張する者、笑みを浮かべる者。
ただし、その中で全員が共通して思っていることがあった。
何故、魔物たちは動かないのか。
身動きをしているものも見える為、あれがハリボテなどという落ちは断じてない。
それにも関わらず、魔物たちは王都を囲んだまま一切動こうとはしなかった。
それはまるで、何かの合図を待っているかのようで。
その光景に、歴戦の猛者たちも背筋が寒くなるものを感じた。
しかし、ところ変わって北と南。
こちらは、そんなことなどお構いなしの二人であった。
動かないならば好都合、今のうちに殲滅すると言わんばかりに、魔法が躍る。
北では氷が、南では炎が魔物たちを覆いその命を終わらせていく。
魔物の大群は、主によって合図あるまで待機を命じられていた。
だがここにきて、主の命令よりも本能が上回った。
すなわち、生存本能。
目の前の相手は自分たちが全力で相手をしたところで敵う存在ではない。
そう判断した瞬間、一匹が踵を返す。
主の命令と本能との間で揺れ動いていた魔物たち全員がその瞬間、本能を優先し逃走へと移った。
しかし
「逃げる相手を追う行為は、あまりしたくないが」
「突如として出現したあなたたちが逃げてしまうと、周辺一帯が大混乱となってしまいます」
「ここで」
「死んでください」
二人の超人たちは、魔物たちの逃走を見逃す気はなく、南はさらに高温となり、北はさらに低温となった。
後日、二人の戦闘跡を見た国王は頭を抱えたという。
それほど、二人は環境に一切の容赦なく、炎と氷の世界を作り出していた。
二人が担当している方角の魔物があと少しで殲滅されるかといったとき、突如としてその異変は起きた。
「なんだ!?」
「結界が!?」
王都を守っていた結界が、消滅していく。
その光景は、王都のどこからでも確認することができた。
破壊されたのではなく、まるで機能を停止したように消滅していく結界。
それを合図として今まで待機していた魔物たちが進軍を始めた。
「全員構えろ!!来るぞっ!!!」
騎士たちと、冒険者たちは、各々の武器を掲げ、戦闘準備を固める。
少しでも王都より離れて迎え撃つ為に、突撃の合図を待っていた。
「進めぇぇぇ!!」
「離せ!儂も行かせろぉぉ!!」
騎士団では、強引に出ようとする軍務卿を、部下が必死になって取り押さえながら号令を発す。
槍を突き出した騎士たちが、突撃を敢行し、後ろからは魔物の軍勢に対して魔法や矢による集中砲火がなされていた。
一方、東を任されていた冒険者たちは、パーティー単位で固まっていた。
普段はソロで活動している者たちも、パーティーに編入されたりソロ同士でパーティーを組んだりしている。
理由は簡単、一人でも多くの死者を減らす為だ。
だが、絶対に犠牲は出る。
そのことを彼らはわかっていた。
少しでも士気を上げる為、自身が討伐した魔物の権利はすべて本人に帰属すること、特別報酬を弾むことをギルドは約束しているが、命がかかっている以上素直に喜べる者は少数であった。
それでも彼らがこの場に立っているのは、ここが自分の街だからだ。
愛着のある町、愛する人、友人、家族。
それらすべてを守るために、彼らはここに立っている。
「今だぁぁぁ!!」
号令が響く。
冒険者たちは一斉に駆け出した。
そして、北と南。
二人は結界が消滅するを確認すると、すぐに行動へと移した。
すなわち、広域殲滅魔法による魔物の即時殺傷。
結果、二人の眼前に、生きた魔物はいなくなっていた。
けれど二人は他の方角へ援護へ行こうとは思っていなかった。
それはそちらを任されている者に対する侮辱であるし、二人には他にやることがあった。
ポラリスは、結界が消滅した原因を調べるべくすぐに研究所へ向かおうと動く。
しかし、その足は王都に入る前に止まることになった。
「…あなたは氷漬けにして王城地下へ幽閉されていたはずでは?」
「部下が助け出してくれてねー。あなたはここでストップよ、借りは返さないとね?」
「僕のかわいい部下たちをよくもやってくれたね」
ポラリスの前には二人の魔族。
六魔将という幹部の席に座る二人の存在に、顔色を変えないポラリスの顔を汗が滑り落ちた。
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アレックスは、王の下へと急いでいた。
結界を外から解除することは不可能。
そうであるならば、敵が王都内部へ侵入していることは明白であり、エイブラムが敵に協力している以上、既に王城へと侵入されている可能性もある。
実際にその想像は正しかったが、彼が王城へとつくことはできなかった。
「ちっ!?」
眼前に突如として開いたゲート。
危うくそれに突っ込むところだった彼は、すぐさま方向を転換。
だがそれを読んでいたかのように転換した先にもゲートが展開されていた。
「エイブっ!!」
「ごめんね、アレックス。君を遠ざけるのが、私の仕事なんだ」
全方位をゲートに囲まれていたことにアレックスが気づいたとき、既に彼は異次元へと飲み込まれた後だった。
それを確認し、エイブラハムはゲートを閉じる。
ゲートはどこへも繋げていなかった。
新たにゲートを開かない限り、アレックスは永遠に異次元へと幽閉されることになる。
「まさか君にこれを使うことになるなんて、思いもしなかったよ」
エイブは悲しげに微笑み、歩いて王城へと向かった。
結局土曜月曜もお休みしてしまい申し訳ありませんでした。
最近気づいたら日付が変わっています…




