第280ページ 魂の協奏曲
ガシャガシャと音を立てながら、俺の視界を埋め尽くさんばかりに広がる鎧騎士たち。
その威圧感は、魔物の軍勢の比ではない。
規則正しく、感情を感じさせず、その騎士団はただ対象を殺める為だけに行進する。
「だが、これは終わりが見えている。終わりがあるというのは、余程楽だな」
俺は魔法を展開する。
氷の槍が、風の矢が、炎の剣が、雷の矛が頭上を舞い、一斉に鎧騎士たちへと放たれる。
が、そこで俺にとっては誤算と言える行動を、鎧騎士たちは一斉に取った。
それまでただ行進しているだけだった鎧騎士が立ち止まり、その先頭付近にいた者たちが手を掲げる。
『『『『『アイスプロテクト』』』』』
多重な氷壁が生みだされ、俺が放った魔法群を全て防ぎきる。
もちろん氷壁もただでは済まず、崩壊しているが、問題はそこではない。
「こいつら、魔法が使えるのか?」
この全てが魔法を使えるとなると、その難易度は跳ねあがる。
全力ではなく、いくつかの同時発動とはいえこいつらは俺の魔法を防ぎきったんだからな。
「言った筈だ。俺の魂が憑依していると。つまりそいつらは俺の分身と言ってもいい。俺自身には及ばないが…強いぞ?」
鎧の影に隠れ姿が見えなくなった魔王の声が響く。
鎧騎士たちは、次々に短剣を抜き放つ。
その見た目とは不釣り合いな武器だが、この狭い空間での連携を考慮しているのだろう。
よく見れば腰には一般的な両刃剣も提げられているのがわかる。
場所によって武器を変える知性も有しているということか。
「シュウ、手伝おう」
「さすがにね」
「グル」
俺の側に、仲間たちが並ぶ。
それぞれ戦っていたのかと思ったが、エリュトロスはその身に傷を負いながらも相手を倒したようだ。
仰向けに倒れている水色髪の魔族が見える。
アステールとジャックの相手は、ジャックの力によって拘束されているようだ。
必死に解こうとしているようだが、あの拘束は魔法を使えないようにする効果もある。
深淵の森であの魔族に俺達がやられた方法をジャックなりに改良した特別製だそうだ。
その付与効果を解かない限り、抜け出すことはできないだろう。
「ああ、頼む」
俺は仲間たちに声をかける。
さすがにこの数、これだけの質の者を一人では辛いところだ。
だが、四人ならば。
俺達はそれぞれの力を全開にして背中を任せあい、鎧騎士へと飛びこんだ。
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「これで、最後だっ!」
神刀が鎧騎士最後の一体を斬る。
総勢で何体いたかはわからないが、アステールは既に体力の限界がきているし、エリュトロスも連戦と言うこともありかろうじて立ってはいるが辛そうだ。
ジャックは余裕がありそうにも見えるが、未だ二人の魔族を拘束中。
あの拘束、それもタナトスレベルの相手となるとかなりの魔力を消費していることだろう。
「だがこれであとは、お前を倒すだけだな」
天羽々斬の切っ先を魔王に向ける。
魔王も自身の魂を斬られたことで辛そうにしているが、それでもなお不敵に笑った。
「できるならな」
魔王から魔力が溢れだす。
それは先程までの比ではなく、圧倒的な魔力に思わず動きが止まる。
俺達は数十体の鎧騎士を全て殺した。
魔王のユニークスキルは、殺される度強くなる。
殺した鎧騎士は、魔王の魂。
「そういうことだ」
魔王の姿が、一瞬にして俺の視界から消える。
「ぐっ!?」
「エリュトロス!?」
エリュトロスの呻き声が、聞こえたかと思うとそのまま前のめりに倒れた。
「わっ!?」
「ジャック!」
ジャックの身体を剣が一閃、ジャックはその身を粒子に変えることでなんとかその斬撃を逃れるが、その一瞬、魔法の集中が解けた。
「ふんっ!」
「はっ!」
拘束がはじけ飛び、二人の魔族が解放される。
「形勢逆転というやつだな」
魔王が二振りの魔剣を引き抜き、両目を赤く光らせながらこちらを見てくる。
確かに、状況は絶体絶命。
こちらも奥の手を切るしか方法はない。
俺はディメンションキーから、ある神器を取り出した。




