第278ページ 戦闘激化
シュウと魔王の頭上で魔法が踊る。
彼らは、魔法を使用しながら刀と剣で斬り結んでいる。
一つでもミスをすれば、それで勝負がつくような、そんな綱渡りの闘い。
でも、今のままでは不利なのはシュウだ。
シュウを殺す気の魔王に対してシュウにその気はない。
あくまで、エシルと話をさせたいだけのよう。
そのエシルは、閉じ込められた結界をバンバンと叩いて何やら叫んでいる。
霊体であるエシルは、物理的な力を持たない。
けれど、あの結界は妖精女王が作った神器をシュウが調整したもの。
精霊であろうと妖精であろうと逃れることはできない仕様となっている。
もちろん、手伝わされたのは精霊である僕だ。
「ねぇ、戦わないの?」
「君がその拘束を解けるなら戦ってもいいよ」
チラリと声のかかった方を見ると、闇によって空中に磔にされているタナトスの姿が見える。
六魔将第一位タナトス。
その能力は確かに高いけれど、僕から言わせればまだまだだ。
「ふんぬぅ!!」
「無理無理」
力任せに拘束を解こうとする少年に、クスと笑う。
膨大な魔力とセンスによって大抵の者には一方的に勝ってきたのであろう少年。
だから、僕には勝てない。
不本意ながら、魔神とまで呼ばれた僕には戦い方がたくさんある。
これもその一つ。
というか、これは先に魔族が使った手を応用したものだ。
タナトスが方法に気付かない限り、解けることはないだろう。
これを力任せに解ける人なんて…
まぁいなくはないかもしれないけどね。
僕は視線を横にずらす。
アステールと女魔族が向かい合っていた。
「…通してはくれませんか?」
「グル」
アステールは、戦う気のなさそうな女魔族に対して戸惑ったようだが、シュウの所へ行かせる気はないとその身で道を塞いでいる。
この場にいる中で、女魔族はそれほど強いわけではない。
一般的にみれば十分強者ではあるが、アステールよりは弱いだろう。
彼女があそこを通ろうと思えば言葉による説得しかない。
けれどアステールは絶対に、シュウが危機に陥りそうなことはしないだろう。
なのにどうしてだろう。
あの女魔族には何か違和感がある。
この不安はなんだ?
その時、後ろ側から熱波と寒波が同時に襲いかかってきた。
そちらを見ると、エリュトロスと水色髪の魔族が激しく戦っていた。
現状きちんと戦っているのは、あそことシュウたちのところだけだ。
エリュトロスの炎が床を焼き、魔族の氷が宙を舞う。
炎に焼かれた氷が溶け、水となった雫が鋭く尖りエリュトロスを襲う。
その雫は、エリュトロスに触れる前に、彼が放つ熱波によって蒸発した。
火竜に対し、水系魔法は効果が薄い。
その理由がこれで、戦闘中火竜は常に身体から熱を放出している。
今、エリュトロスは人型であり、場所のことも考慮して制御しているようだけど、それでも水の沸点なんて一瞬で超えてしまうんだろう。
「相性は最悪ですか」
「その通りだ、我らも見学にせんか?シュウからは其方らを殺せとは言われておらん。決着はつかんぞ?」
「しかし、私は魔王様に仕える者。黙って見ていることなどできません」
「…忠義に篤い者は嫌いではないぞ」
魔族から魔力が吹きだし、空気中の水分を氷へと変える。
エリュトロスの身体から吹きだした熱が炎へと変換され、空間が歪む。
「手加減できぬぞ」
「お手柔らかに」
魔法戦となっていた二人が同時に飛びだし、その身を氷と炎が包んでいく。
二人の衝突の瞬間、水が一気に蒸発し水蒸気が爆発、白い煙と大きな音を立てた。
そして、両陣営の大将戦も、激しさを増していた。
人族の魔法師が使えば一瞬で魔力が枯渇するような魔法が飛び交い、その下では人族トップクラスの剣豪たちもかくやという剣戟戦が繰り広げられている。
そのような状況にもかかわらず、両者共に傷一つ見受けられない。
けれど、その均衡が崩れた。
「ヴァン!」
「陛下!!」
シュウの神刀が、袈裟切りに魔王へ振り下ろされた。
魔王の身体から勢いよく、血が噴き出した。




