第274ページ 従魔たちの心配
「さて、では妾もそろそろ帰るとするかの」
「ああ、悪いなオピス」
召喚術で呼んだ魔物は、俺が「送還」で元の場所へ戻すか、自身で帰ろうと思わなければ呼び出されたままだ。
従魔法の「召喚」だと召喚中は魔力を消費し続けないといけない為、俺は魔法陣を使っての召喚術でいつも呼んでいる。
ただし、オピスの召喚は召喚術ではなく、何やら特別な方法が取られた。
精霊ならではの方法であり、詳しいことは今の俺の<全知>では知ることができなかったが、とにかく召喚中魔力を消費し続ける必要があった。
それが今はしていない。
これは、オピスが自身の魔力を用いてこの場に顕現し続けているからのようだ。
聞けば俺は丸一日眠っていたらしいから、いくら精霊獣とはいえそろそろきついだろう。
「それと、今回は助かった」
オピスは戦闘中俺との同調率を上げ、その「癒し」の権能を持って体力回復を極限まで上げることに集中してくれていた。
あれがなければ俺はウルデルコとの戦闘中に力尽きていただろう。
「ふっ、シュウよ。汝は妾の約300年ぶりの契約者よ。みすみす殺されるなどできるわけなかろう」
「初耳だぞ?」
「精霊獣との契約なぞ早々できるものではないのじゃよ」
確かに、あの島は無人島で、人工物はあの祠くらいだった。
ああ、そうだ。
「オピス、一つ聞いていいか?」
「うん?なんじゃ?」
オピスに聞きたいことを聞き彼女を見送る。
魔王戦の際には絶対に呼ぶようにと言われ、確約した。
ウルデルコ並の激戦になることは目に見えているからだ。
「我も一度帰ろう。長に報告せねばならぬ。シュウ、我からも言っておくが、必ず呼べ」
「ああ、わかってるよ。エリュトロスもありがとう」
フッと頬笑みエリュトロスの姿が消えていく。
キラヴェイアへと戻ったことを確認し、ジャックへと目を向ける。
「僕はこのまま君と行くよ。魔王にあの少年。強者が二人だけとは限らないしね」
「ああ、そうだな」
「…本当に魔王陛下に会うの?」
ビビアーナが心配そうにこちらを見てくる。
「ああ。その為にここまで来たんだ」
「そう…あのね、シュウ。魔族じゃない貴方にこんなことを言っても意味ないかもしれないけれど…魔王陛下は魔族に必要な方なの…だから」
「安心しろ、話をするだけだ」
俺の身体を診察した結果を聞いたのだろう、ビビアーナには俺が魔族でないことがばれていた。
特に隠してもいないが。
「そう…わかったわ。貴方を信じる」
「…魔王とは知りあいなのか?」
「ええ、魔王になる前からね。一緒に暮らしていたこともあるわ」
「一緒に?」
「か、勘違いしないでね!?お父様が連れて来たのよ!」
ビビアーナの父親は一時期魔王になる前の魔王の教育係をしていたそうだ。
魔王を育てたのはシスターテレサ。
彼女が六魔将の一人として武を担当し、知識をビアッジョ・ハイレーンが担当していたらしい。
「そうか…」
魔王の過去について色々と聞いた俺は、魔王と話さなくてはならないという気持ちが増していった。
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「おいおい、よくもここまで…」
「あはは」
ハイレーンを出て少し。
ジャックとタナトスが闘った場所は、荒れ果てていた。
「直すか…」
「うん、でもその前に」
ジャックの魔力がいきなり凝縮されたのを感じた瞬間、俺はその場を飛びのいた。
先程まで俺がいた場所を、闇の棘が貫いた。
「…どういうつもりだ、ジャック?」
「シュウ、君のスキルは強い。ただし、君には魔法戦闘の経験が足りてないみたいだ。だから、僕と戦おう。魔法での戦闘法を教えてあげる」
「なるほど」
確かに、<魔法>と<完全なる完結>があれば基本的に何でもできる。
だがそれは、結局俺がしようと思わなければできない。
それをするという発想が俺に無ければできないのだ。
「ああ、教えてもらおうか。魔神、魔法の神とまで呼ばれたお前に」
ジャックはニヤリと笑い、更にその魔力を濃縮していった。




