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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第十一章 最も危険なピクニック「目的地は魔王城」編
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魔話① 復讐を誓う日

パチパチと火が燃える音が響いている。


「なんで…どうして…」


僕は歩く。

知っている筈の、知らない村を。


『あら、ヴァンくん。二人でお出かけ?』

『うん!林にお母さんの薬草を採りに行くの!』

『そう、いつも偉いわねー。気をつけてね?』

『はーい!』

『…行ってきます』


今朝、笑顔で話して僕達のことを心配してくれたラーナおばさんが倒れている。

うつぶせのその背中は赤く染まり、倒壊したおばさんの家が、彼女にのしかかっていた。


『よう、ヴァン!今日もお使いか?』

『うん!』

『そうか!なんかあれば呼ぶんだぞ!』

『ありがとう!』

『…ありがとう』


いつも元気に笑ってたビッテラおじさんの顔は目が見開かれ、明るい太い声を出していた喉は斬り裂かれていて、もう二度とその声を聞くことはできない。


そして僕は、何人もの知っている人たちを見て、もう動かない人たちから目を背けて、一番馴染んだ自分の家へと辿り着いた。

けれどそこに家はなく、壊された建物があるばかり。


「父さん…」


父さんは、強くて僕の憧れだった父さんは、家から少し離れた木に寄りかかっていた。

木は折れ、父さんの背には傷がない。

でも、その逆側、お腹や胸にかけて、父さんは何度も何度も刺されたような傷跡があって、大きく優しく僕を抱き締めてくれた腕は斬り落とされていた。


「母さんっ…」


病気がちなお母さんはまだ家の中にいた。

燃えて、軽くなった元家の柱を押しのけると、お母さんは倒れていた。

辛そうに、でも幸せそうに微笑んで僕を撫でてくれた手は、もう動かない。

お父さんとは逆に、その背に大きな火傷を負って、何かを守るように覆いかぶさっていた。


「エシルっ…!」


お母さんの腕の中には、今朝一緒に出て、途中で薬草を持って走って帰った妹の姿。

こんなことになるなら、わかっていたなら、帰さなかったのにっ!


「うっ…ん…」

「エシル!?」


不意に、エシルが呻いた。

エシルはまだ、生きていた。

生きていてくれた。


母さんは、父さんは、子どもを、僕の大事な妹を守ったんだ。


「エシル…」


膝まづいて、この妹だけは絶対に守ろうと()は誓う。

何をしても、どんな手を使っても。


その時、パカパカと蹄の音が聞こえてきた。


またあいつらが戻ってきたのかと警戒する。

思い浮かぶのは、銀の鎧を着た見たことのない男達。


『我等はマジェスタ王国が騎士!邪悪なる魔族よ!正義の鉄槌によって滅びよ!』


村から聞こえてきた戦闘音に、走って戻った俺が聞いた勝鬨。

そのまま走り去った男達の鎧についていたマーク。

太陽を背にした十字架に巻きつく蛇の紋章。


俺は絶対に忘れない。


でも、やってきたのは男達ではなかった。

魔力の波長からそれが同じ魔族だとわかる。


「こりゃひどいね…」

「隊長!生存者が!」

「ほんとかい!」


俺の方に向かってきたその集団は、紅いマントを羽織っていた。

その戦闘にいるのは、甲冑をつけ他の人よりもよさそうな鎧を着ている女の人。


「あんた!大丈夫かい!?」

「い、妹が…」


俺はその人に、どこか懐かしさを感じた。

ああ、前世のお母さんに似ているかもしれない。

だから、俺はその人を信じて見ることにした。


背に庇っていた妹を抱きあげる。

するとその人は、馬から降りて、鎧が汚れるのも気にせず邪魔になっていた家の柱をどけ、俺らの前に膝をつく。


「…大丈夫。怪我と言う怪我はないね、若干酸欠の感があるけど呼吸もきちんとしているし大丈夫だよ」

「そう、ですか…よかった…よかった」


知らず知らず、涙が溢れてくる。


「お母さんが、守ったんだね」

「はいっ…」


女の人は、お母さんに対し瞑目したあとその身体を抱きあげる。


「あっちに…お父さんが…」

「そうかい」


俺が指差した方を見て、お父さんを確認した女の人は、お母さんをお父さんのところまで連れて行ってくれる。


「お父さんも、家族を守ろうとしたんだね」


女の人は、お父さんの足のとこから続くあとをなぞる。

そのあとは、家の前から続いていてお父さんが地面に足を踏ん張って、それでも木の所まで押し込まれてしまったことがわかる。


「父さんっ…母さんっ…!」


寄り添うように横たえられた二人に抱きつく。


『よしよし、いつもありがとうね、ヴァン』

『強く生きろよ、ヴァントゥース』


「うっ…うっー…」


泣く俺を、女の人は背を撫でながら、見ないでくれた。


女の人はステラ・アッカーサーという名前で、魔王軍の将だといった。

そして、これからどうするか聞いてきた。


俺一人では、エシルを守っていくのは難しい。

魔王軍に入れば、妹を養うこともできるかもしれないと。

それができるようになるまで、自分が面倒を見てもいいと。


後ろの人たちが慌ててたから、それがどれほど異常な申し入れかもわかった。


俺は、それを受け入れた。

現実的に自分だけではエシルを守れないことはわかる。

ステラさんは信用できる。


力が欲しい。

エシルを守れるだけの、マジェスタ王国に、人族に復讐できるほどの。


俺は魔王軍へと入り、訓練に明け暮れた。

ステラさんは、人族との融和を目標としているらしい。

けれど、そんなことができるとは思えない。

それだけ、魔王軍の人族に対する敵意は凄い。


でも、親代わりとして面倒を看てくれているステラさんの意見もわからなくない。

元人間としても、人族全てを敵とは思えない。


俺はどうすればいいのかわからなくなっていた。

訓練だけを淡々とこなしていき、力を付けていく。


そして、六魔将の第六席に任じられるほどになる。

第二席のステラさんの推薦効果もあっただろうけれど、着々と俺は魔王軍の中で頭角を現していた。

明日も続きます。

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