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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第十一章 最も危険なピクニック「目的地は魔王城」編
311/358

第266ページ 空間

ギッリギリセーフ!!!

「そういえばシュウ、空間魔法使えなくなったんだってね」

「ああ、そうだ」


S級昇格試験の為に王都へ滞在していた時、ベンが突然話しを振ってきた。


「なんで?」

「さてな」


本当はわかっている。

人が努力しても手に入らないような力を、俺が好きに使えてたことの方がおかしいのだと。

あの時、<魔法>を習得した時、だからこそ使えなくなったのだろうと。


俺には空間魔法を使う前提条件がなかったのだから。

イザベラは魔法に対する理解があれば使えると言った。

俺には空間に対する理解なんてなかったのだから。


「ふーん?まっ、でもシュウだからすぐにまた使えるようになりそうだね」

「ん?」

「だって、一度使えてたし。それに、俺からコピーしたのは、空間魔法だけじゃないでしょ?」


---


ベンからコピーしていたのは、<空間魔法>と…<空間把握>。

能力自体は既に<識図展開(オートマッピング)>に統合されてしまったが、空間把握能力は継続していた。

それ故に、俺には辺りの地図を頭に思い浮かべることができる。


そして<天は我が手に(グラスプウェザー)>によって俺はこの場の天候を支配している。

魔力を辺りに満たすことで、更にその支配は物理的に作用し、<全知>を全開にすることで俺に対しこの辺りの空間にある全ての情報が入ってくる。


陸も(そら)も今は俺の意思の支配下であり管理下。

「空間」という概念を理解できたわけではない。

ただし、「空間内」の全てを既知にした。


そして、俺の中の<空間魔法>を使ったという経験が<魔法>、世界に俺の「空間」に対する理解を誤認させた。

その結果、俺はもう一度<空間魔法>を発動することができるようになる。


いや、要因はもう一つ。


「来い、オピス」


呟く俺に答える声が響く。


『ようやっと妾を呼んだのぉ』


どこか愉しげに、声は輪郭を帯び、俺の身体を巻くつくように水が舞いあがった。

その水は実態を持っていき、やがって一匹の大きな白蛇となる。


「しばらくぶりよの、我が契約者様よ」


クスクスと笑いながら言うオピスはの声にはどこか皮肉も含んでいた。

俺が今まで呼ばなかったことを拗ねているようだ。


「悪かったよ。だが、ずっと見ていてくれたんだろう?」

「ふふふ、知っておったか」

「ああ、そして手を貸してくれていた」

「ふふ、然り。妾が司るは水、その権能は天候なれば」


オピスは蛇であり、その属性は水。

権能は天候と癒しだが、もちろん自身の属性に近い程その力が震える範囲は広い。

具体的に言えば雨を降らすことは容易いが、晴れにすることは難しい。

やるにしても雨雲を動かすなどしてやるそうだ。


雨は地に降り、川となり海へと流れる。

流れた水は蒸発し空へと昇りまた雨として降る。

水は世界を巡っている。


故に彼女は世界中のあらゆる場所に自身の知覚を広げることができる。

だからこその知の精霊獣。


そんな彼女と契約し、その力の一端を握っている俺は空間認識力が以前よりも尚上がっている。

それが俺の<空間魔法>習得への最後の一助となった。


だが、それでもまだウルデルコに勝てる確率は低いだろう。


ウルデルコは俺の変化を興味深そうに見ており、オピスの登場で口端を釣り上げている。


「いやはや、精霊獣とはな。お前は本当に私を飽きさせないな」

「吸血鬼の王とは…また厄介な者と戦っておるのぉ」

「知っているのか?」

「直接は知らぬ。じゃが、火のが一度戦ったことがあると言っておったな」


「火の」と言えば火の精霊獣か。


「結果は?」

「勝負はつかんかったと言っておったの」

「精霊獣に勝てるのは竜王か神獣かとか言ってなかったか?」

「だから負けてはおらんじゃろう?」


…まぁ間違ってはいないのか。

だがやはり、ウルデルコは精霊獣と同格の力を持っていると…


「じゃが…火のは精霊獣の中でも最も強い。なんせその象徴は力じゃからの。その奴と引き分け、更に言えばその後火のは養生が必要じゃったそうじゃ。奴も本気でなかったらしいぞ」

「つまり?」

「竜王以上の力の持ち主かもしれぬな」

「はっ、上等!」


元より高い壁ならば、それがより高ければ高い程乗り越えた時の興奮も一層強くなるというものだ。


「頼む、オピス」

「妾が直接戦えば勝ち目はないじゃろうが、お主に宿って戦うても一緒じゃと思うぞ?」


その言葉には言わなかっただけで、後者の場合の方が勝率が悪いと思っていることは明らかだった。


「それでも、だ」

「ふふ、よかろう。それでこそ妾の契約者様じゃ」


オピスの身体が崩れ、光の粒子となって俺へと重なる。


精霊獣の力の使い方は二通り。

一つは精霊獣がそのまま闘う方法。

そしてもう一つが、精霊獣と契約者が一体となって戦う方法だ。


今、オピスと同調している俺の景色は全く違って見えている。

特に何かを発動したわけではないが、魔力をはっきりと視認できる。

五感の全てが研ぎ澄まされている。


「さて、待たせたな」

「いつなりと来い、挑戦者よ」

「行くぞっ!」


俺は空を蹴り、魔力を練り上げながらウルデルコへと走った。

次回からようやく戦闘に戻ります。

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