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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第十一章 最も危険なピクニック「目的地は魔王城」編
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第258ページ 不昼都市ハイレーン

一日経過を観察し、俺達は人狼の集落を出発した。

特効薬というだけありその効き目はあっという間に表れ、人狼達の持ち前の生命力と合わさって次の日には全員が起き上がり、歩けるようになっていた。


出発の時、ほとんど全ての人狼が一緒に来ようとするのを宥めるのは大変だった。

特に、セルゲイとジルガは我先にと同行を申し出た。

全てを断った時、人形態の筈なのに狼耳が垂れ下がる幻覚を見てしまった程だ。


「モテモテだったわね」

「うるさい」


後ろからからかってくるエシルを無視し、アステールを撫でる。

アステールも一日で回復してくれた。

そのお陰で出発できたというのもある。


なんでもエシルによればそろそろ雪が降り始める季節なんだそうだ。

その前に次の街に辿り着いておきたかった。

急げばどうにか間に合うだろうという。

アステールには少し無理をさせることになり申し訳ないが、頑張ってくれるそうだ。


次の街に着くと残るは魔都ハスペルベのみだ。

今は12月を少し過ぎた辺り、年が変わるまでに辿り着けるか…微妙なところだな。


まずは次の街だ。

魔都に近いこともあり人口も多く、活気に溢れるその街は、不昼都市ハイレーン。

いつも厚い雲がかかり、それが晴れることなく日光の当たることが一年を通して一度あるかないかだそうだ。

そんな場所にずっといたら気が滅入ってしまいそうだが、魔大陸では頻繁に陽が当たる方が珍しい部類。

もっとも、そんな魔大陸でもこの頻度となると早々ないそうだが。


「でもハイレーンは少しでも街を明るくしようと建物全てを白鉱石で作っているわ。別名を白亜の街って言われるくらいに美しい都市よ」

「へぇ?」


人口が多いと聞けばそれだけで行く意味はある。

人が集まるとなればそれだけたくさんの物が集まるからだ。


それに加え、そんな名所となっているのであれば、楽しみは増す。

どんな街なのか何があるのか今から楽しみだな。


---


「と思っていたんだが、なんだこれは?」

「こんなことって…」


雪が降る前になんとか辿り着いた街ハイレーンは、聞いていた話しとは随分違った。

確かに、白い建物が立ち並ぶ大きな都市ではあったが、そこに活気はなく、どころか大通りに人っ子一人も姿が見えない。


美しかったのであろう街並は、所々を破壊され、戦いのあとが見え隠れする。

それも諍い程度ではない。

これは戦争があったと言っても過言ではない程の破壊痕だ。


俺達は辺りを見回しながら街を進んでいく。

エシルによれば街の中心にこの街を治める領主の館があるそうだ。

そこへ行けば何かわかるかもしれない。


「おおっと!ちょっと待て!この道が領主の館へ通じる道と知っているのかぁ?」


そうして進んでいた俺達の前に、一人の男が現れた。

ここに来てようやく出会えた人だ。

俺はその少し馬鹿そうな男に声をかける。


「なぁあんた!ここはハイレーンで間違いないんだよな!?」

「ああん?ははーん!さてはお前、ここに来たばかりの組合員か何かだな?それならばその無知も納得だ!このエルデミルト・ギスターブ様を知らぬとはな!」

「ギスターブ!?」


奴の名乗りを聞いて、エシルが反応する。

俺は小声でエシルに声をかけた。


「知っているのか?」

「え、ええ…でもそんな…まさか…」

「さてさてではでは、この街まで辿り着きし者よ。入領料10万ギル払いたまえ」

「何?」


ギルとは魔大陸で使われる単位であり、1ギルがだいたい銅貨一枚。

つまり100円だ。

10万ギルというと、1000万円になるか。


「馬鹿な、払うわけがないだろう」

「ほほう?払わないと?この街の領主さまが決めた法を守らんと?」

「誰が守るか馬鹿かお前は」


俺の発言に、エルデミルトと名乗った男のこめかみがビキッと音を立てた。

そして、一つ跳躍し、こちらへと跳びかかってくる。


「この私を馬鹿と言ったのか、貴様ぁぁぁぁ!?」


そのスピードは、人族では目でさえ追えぬ程のものだろう。

その爪は鋭く尖り、男が魔族でもないだろうことをはっきりと認識させられる。


だがそれだけだ。

その程度では、俺には届かない。


竹風を取り出し、遠心力を加えながら、男の顔を殴り飛ばす。

「ぐへっ」と変な声を上げながら、男は吹き飛んでいき、民家であろう建物の壁をぶち破って中に入った。


「なんだったんだ…」

「シュウ!一端どこかに隠れましょう。あいつの言っていることが本当ならここはもう私が知っている都市じゃないわ。この街の領主であったビアッジョ・ハイレーン様はそんなお金を請求するような人じゃなかった!」

「ふむ…」


俺が退くことを考えていると、ガラガラと音がし、エルデミルトが家から出てくる。

確実に意識は奪ったと思っていたんだが、思っていたよりも丈夫だったようだ。


「貴様、やったな。私に、私達に手を出すということがどういうことかわかっているのか!」

「知らんな」

「っつぅ!!貴様はもう私達の敵だ!せいぜい覚悟しておくといい。悪夢の夜の始まりだ!!」


エルデミルトが羽織っていた裏地が赤の黒マントをバッと翻し、自分を包むと、もうそこにエルデミルトの姿は無かった。

エシルが「やっぱり…」と呟いている。

どうやら心当たりがあるようだ。


「なぁエシル」

「ちょっと貴方!」


俺がエシルに話しを聞こうとすると、物影から何人かの魔族が出てきた。

いるのはわかっていたが、なかなか出て来ない為放置していたのだ。


その中でリーダーのような白の鎧を付けた少女が俺の腕を掴み、強引に俺を物影へと引っ込ませた。


「ビビ…」


エシルは彼女のことも知っているようで、マップ上も今も敵意は感じられない。

その為、俺は抵抗もせず、彼女達に付いて行った。


「貴方ねぇ!一体どういうつもり!?」

「どういうつもりと言われてもな」

「まさかギスターブの名前を知らないわけじゃないでしょう!?」

「知らんな」


俺がそう言い放つと、少女だけじゃなく他の奴らも絶句した。

まさか本当に知らないとは思っていなかったようだ。


「…いい?ギスターブっていうのはね、ある魔物の頂点に立つ男の名前よ」

「魔物?」

「そう。ウルデルコ・ギスターブ。吸血鬼の始祖にして王。今、この街を支配している男の名よ」

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