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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第二章 友との出会い「深淵の森」編
30/358

第25ページ 深淵の森・二日目

朝霧が出ている湖の畔。

幸いにして俺の目では視界が少し曇り見えづらいという程でしかなく、まったく見えないわけではない。


今夜は別段問題はなかった。

何匹か魔物が来たが、ベンも俺も特に戦闘などしていない。

トマスに起こされてもいないのだが、あいつはどうやってランクBの魔物を追い払ったのだろうか。

謎だ。


早朝の今、日差しはまだ出ていない。

そんな時間に湖の対岸に一つの影が現れた。


四足の影は水を飲みに来たのかゆっくりと湖へと近づく。

その二対の瞳がこちらを見た。

敵意もなく、それどころか興味もないと言わんばかりにすぐに逸らされたその視線。


鳥のような頭と漆黒の羽毛を持ち、下半身は馬のよう。

だが前足は鋭い爪を持った鳥の足であり、後ろ足は力強さを感じる馬の脚。

その中にありながらしっかりとした存在感を放つ瞳はまるで夜空に浮かぶ星のよう。


「美しいな…」


相手を鑑定することも忘れ、その魔物が水を飲むというただそれだけの行為を見入る。

やがて満足したのか一度こちらを見たあと、その身を返す。

美しい黒翼を広げ、空へと駆け上がっていく。

俺はその幻想的な光景を眺めていることしかできなかった。


---


「へーそんなことが」

「ああ。またあいつには会いたいもんだ」

「そんなに綺麗なんだったら起こしてくれてもよかったのに」

「言っただろ。ただ見ていることしかできないくらいに綺麗だったんだよ」

「なんか意外だねー。シュウってそういうタイプだったんだ」


ベンが色々と言っているが、俺はそういうタイプの人だ。

美しいものは素直に美しいと思うぞ。

ただ、本当に見入るしかできなくて写真を撮ることする忘れていたのは残念だ。

まぁ忘れられない光景だったが。


朝食を食べ終えた俺たちは、湖を迂回するように奥へと進む。

その間襲撃はあったが、基本夜行性の魔物が多いのか動きは遅かった。

ベンが余裕で斬っている。

どう考えても俺より強いなこいつ。

Bランクモンスターを瞬殺しているぞ。


「その剣…」

「ああ、これ?精霊王に依頼の報酬でもらった剣だよ」


こいつは爆弾を平気な顔で投下してきやがるな。


―・―・―・―・―・―


【神剣】精霊剣・ミスティルテイル

品質X、レア度10+、精霊王メルウェノフィルーの作。

精霊王が鍛えし神剣。

ミスリル、オリハルコン、世界樹の頂上枝、ヤドリギの若枝を組み合わせ、精霊王の魔力を練り合わせながら作られた神さえ屠る剣。

精霊への指揮権も同時に有する。

解句「滅」


―・―・―・―・―・―


「…」


もう言葉もない。

見なかったことにしよう、そうしよう。

いやいや神も殺せる剣ってなんだよ。

物騒なもん作るなよ精霊王…。


「解句ってのは…?」

「神授の神器は本来の力を封印されていて、その力を引き出すための言葉らしいよ」


まだ使ったことないけどね。と笑うベン。

できれば一生使わないでいて欲しい。

滅って…悪い予感しかしないんだが。


「お二人とも、話はそこまでに。何か見えてきました」


前を歩くトマスから声がかかる。

前方には確かに洞窟のようなものが口を開けていた。


「あれは…」

「嫌な感じだね」


洞窟からは黒く蠢く魔力が視覚できるほどに溢れている。

そのせいで洞窟の奥を見ることができない。

俺の目でさえも視れない。

あそこは異常だ。

今わかるのはそれだけ。


「周りの精霊も怖がっている。あれは異常だよ」


ベンも同じ意見のようだ。


ベンのユニークスキル「精霊眼」。

これは精霊を視、精霊と言葉を交わすことのできるスキル。


俺のユニークスキル「全知眼」。

これは文字通りの全てを知るスキル。

魔眼系スキルの総括であるこれはもちろん精霊を視ることもできる。


俺は一度目を閉じ、精霊眼を発動させる。

目の前の景色が一変した。

地面や空中に光体あり、ベンの周りに漂っていたりする。

あれが精霊なんだろう。


その中で一体だけはっきりとした輪郭を持った精霊がいる。

ベンの背後に浮き、等身大の女性サイズ。

黄緑色の洋服をまとい、栗色の髪をしているその女性は俺が見ていることに気づいたのかこちらを向き、ヒラヒラと手を振る。


「ほんと便利だね、その目。彼女は風精霊(シルフ)のサラ。僕と契約してくれてる精霊だよ」

『初めまして、人の子』


ベンは呆れ顔で俺にサラを紹介してくれる。

サラは恭しく礼をしたあとに柔らかく微笑んだ。

うん、美しいな。


精霊魔法を使うには大きく分けて二つの方法があるらしい。

一つ目は自然に存在する下級の精霊に呼びかけ力を行使させる方法。

もう一つが精霊契約で、自らの魔力を精霊に与え続け、契約した中級以上の精霊が代わりに魔法を使ってくれる方法。


精霊は生み出た地より遠く離れることはできないが、契約すると契約主に付いて行動することが可能となるらしい。

ただ、どちらにしても精霊と心を通わせることができないといけないので俺にはまだ使えないだろうという話。

残念だな。


精霊には固有スキル「真実の瞳(スピリチュアル・アイ)」が備わっていて、嘘や隠蔽の効果はなく、相手のステータスを読み取れたりもする。

ベンが俺のことを異世界人だと知っていたのはラッセン辺境伯に聞いていたというわけではなく、それに気づいたサラに教えてもらったからだそうだ。

それも便利だと思うがな。


閑話休題。

ここにいる精霊たちはあの洞窟を怖がっている。

精霊たちは自然の精気を吸い生まれた存在なので、自然由来のものに怖がったりする存在ではない。

つまり、あれは人工もしくはそれに準ずる洞窟だということ。


「どうする?」

「…入るのは危険じゃないか?」

「私もそう思います」


俺たちはそこで少し様子を見ることにした。

あれがなんであるにしろいいものではないだろう。


『愛しき子、あれは迷宮(ダンジョン)よ』

「迷宮?」

「なるほど…でも前に入った迷宮はこんなに禍々しい感じではなかったけど?」

『おそらく迷宮主(ダンジョンマスター)の性質の違いね。ここのマスターは闇属性のかなり高位なものね』


迷宮(ダンジョン)

世界各地に存在するそれは、迷宮核と呼ばれる謎の物質が生み出し、時を経るごとに成長させていく。

その実態は未だ謎に包まれているが、迷宮内に無数の魔物が配備され、マジックアイテムなど希少な物資が発見されたりもする。

それ故に、迷宮都市といったものも存在し、人々に恩恵と恐怖を同時に与えるもの。

その難易度は千差万別であり、簡単なものでは全5層からなるものも発見されているが、現在未攻略されており、立ち入り制限がなされているものもいくつかある。

あれはおそらく後者。それも最難関レベルのものだろうということだ。


「3人で入るのは無謀だね」

「そうだな」

「じゃマーキングだけしておきますかね」

「マーキング?」

「僕の魔力を地になじませるんだ。それによって自在に空間を飛び越えれるようになるんだよ」

「へー」


空間魔法も便利だな。

これは是非見なければ。


「…ん?」

「どうした?」

「いやなんか…変な魔力の残滓が…」

『この魔力…』

「サラ?」

『魔族の魔力だわ』


その言葉に俺以外の表情が強ばる。

魔族か。

今回の魔物の群れ襲来の第一容疑者という話だったな。

となれば


「方針変更だね」

「入らないとダメですか…」


ベンとトマスはどこか疲れた感じに。

サラは静かに目を伏せたがこちらもどこか疲れた印象を受けた。


俺はというと、まぁおそらくだが俺は…笑っていたんだと思う。

2015/4/5:精霊剣の品質を変更しました。

2015/4/11:アイテムの表記を一部変更し、作者名を追記しました。

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