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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第十一章 最も危険なピクニック「目的地は魔王城」編
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第257ページ 草原の報酬

「無事だったか!」


帰った俺達を、セルゲイが迎えてくれる。

俺達が出てからずっと外で待っていたようだ。

その身は既に銀の人狼へと変貌しており、何かあった時にはすぐ対応できるようにしてくれていたのだろう。


「月無花は採ってきた。あとはこれを飲ませるだけだ」

「っつ!ありがとうっ…!!」


セルゲイは震える狼の手で、花を受け取った。

バッと身を翻し、人形態へと戻りながら病人の集まるゲルへと入っていく。


月無花の花弁を煎じることでその薬効成分が生まれる。

そもそも月無花には魔力を一時的に増幅させる効果があるんだが、ウメルウイルスはその魔力増幅時に一気に負荷を受け死滅するそうだ。


セルゲイやアナ、他の人狼たちの手によって一人一人に煎じられた月無花。

ムーンドロップと名の付く薬が処方されていく。


処方された病人たちは、数瞬後には顔色が戻り、ゆっくりとだが確かに安定した呼吸をし始めた。

<全知>を使って確認すると順調にウイルスが駆除されていくのがわかる。


「シュウ」

「クル」

「ああ、もう大丈夫だ」


心配そうに入り口から顔を入れたアステールとエシルに答え、俺達はゲルの外へと出る。

ゲルの中からは感涙にむせび泣く人狼達の声が響いてきた。


---


「本当に、なんとお礼を言っていいかもわからない。シュウ、この恩は一生忘れない」

「気にするな、報酬は貰う。仕事だ」

「ふっ、ああそうだな。それから、ジルガを守ってくれてありがとう」


後ろでジルガが神妙な顔をし、軽く頭を下げてくる。

あれほど反発していたのが嘘のようだ。


「では約束の報酬を渡そう。こっちだ」


セルゲイに案内されてきたのはこの群れの予備食糧を備蓄しているゲル。

そこには魔物由来のものもそうでないものも保管されているそうだ。

俺が所望したのはその中の二つ。


「これが、この草原の草を利用した茶葉だ」


ここに来た時にセルゲイが出してくれたお茶。

あれは紅茶に近い味わいがし、緑茶のように身体に染みわたっていくような感覚があった。

事実滋養強壮効果があり、疲れを取る作用もあるあのお茶を報酬として頼んだ。


だが、危険な森へ単身で突入させるのにそれだけでは足りないと言い張ったセルゲイに、何か珍しい物はあるかと聞くと、群れで作っている食品があると答えた。

それが二つ目。


「これだ」


袋から取り出されたのは、燻製肉。

鑑定してみると、それは確かに飛竜肉の燻製であった。


「ワイバーンは、身体を軽くする為に肉がほとんどない。ある肉も筋張ったものでとてもそのまま食べられる物ではないが、燻製にするとその噛み応えが癖になるぞ」


人狼達にとってもワイバーンというのはあまりいい食材ではないらしい。

だが、空を飛ぶフォレストワイバーンはしばしば森を出てくる。

狩ること自体は簡単だが、狩った物をどうするかとなり試しに作ってみたら好評であったそうだ。


人狼の顎でさえ噛みごたえがあるならば、人の俺が食べれるだろうか?


「お前は人の域を越えてるから大丈夫だろう」

「そうだな」

「あんたそれでいいのね…」


食えればなんでもいい。

試しに齧り付いてみたが、噛み切れないということはなかった。

確かに、<竜の化身(ドラゴンフォース)>を変身しない程度に発動し咬合力(こうごうりょく)をあげる必要はあったが。


「うん、美味い」


なんとか食べられるというわけではない。

噛めば噛むほど深みの出る味。

言いようのない満足感が生まれる。


アステールにもあげたら、普通に噛みちぎって食べていた。

様子を見るにかなり気に入ったようだ。


「いくらでも持っていってくれ」


セルゲイがそう言ってくれたので、ストックされていたもの全てを仕舞ったら、後ろのジルガが物凄く悲しそうに表情を歪めたので何袋か戻す。

ジルガはセルゲイに頭をはたかれていた。


「報酬は貰った。良い仕事だった」

「クル!」


美味い物にありつけた俺達は気分よくそう言う。

エシルがどこか呆れたようにこちらを見ていた。


「何かあったら言ってくれ。我らが恩に報いる為、どこへなりと馳せ参じよう」

明日はSSの投稿です。

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