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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第十一章 最も危険なピクニック「目的地は魔王城」編
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第252ページ 病の正体

案内されたのはセルゲイのゲルの隣り。

一番大きなゲルに、病人は集められているようだ。


中には、横たえられている病人と、看病している人が何人かいるだけ。

病人たちは本当にまだ生きているのかと疑問になるくらい身動き一つしない。


「これは…」


エシルが目を瞠って口を覆う。


看病していた女性の一人がこちらへと近づいてくる。

不安そうに俺達を見た後、説明を求めるようにセルゲイを向いた。


「あなた…」

「心配ない。助けてくれるかもしれない人だ」

「本当に?」


セルゲイの妻であるらしいその女性は艶のある赤毛を腰辺りで結んでおり、その装いは着物のようだ。

たすきを巻き、手を動かせ易いようにしている。


俺はそれに答えず、病人たちを視る。

微かに息はしているようだが、熱があるわけでもなさそう。

だが、顔色は薄紫になっており何らかの影響が出ていることはわかる。


「…魔弱病よ」

「魔弱病?」

「わかったのか!?」


―・―・―・―・―・―


[名]ウメル

魔力の少ない者がかかる病。別名魔弱病。

ウメルウイルスに感染すると、魔力を体内で吸収され魔力枯渇に陥る。

その状態から更に魔力を吸われる為、生命力にも影響を及ぼし、最終的に死に至る。

応急処置として魔力量を増やす方法が効果的。

特効薬は月無花(つきなばな)の花弁。


―・―・―・―・―・―


「月無花というものを知ってるか?」

「知っているには知っているが…まさかそれが薬になると?」

「その花弁がな」

「そんなっ!?」


驚き口を押さえたのはセルゲイの妻。

セルゲイは苦々しく顔を振りながら拳を握りしめる。

その拳からは血が滴っている。


「月無花はお主たちが抜けてきた森に生えている」


それならば薬は手に入れることができるだろう。

何がそんなに衝撃だったのだろうか?


「だが、月無花の花弁となると…」

「月無花はその名の通り月の無い夜、朔の夜にしか咲かないのです」

「我等人狼の力は月齢と共に増大する」

「月が無い夜では、あの森の魔物達を突破する力は…」


あの森には強力な魔物が蠢いている。

俺達も空を通過してきた為にあの程度、飛行能力を持つ魔物だけで済んだが森の中を抜けるとなると簡単には行かないだろう。


「朔はいつだ?」

「…今夜です」


どうするか考える時間もない、か。

ここを逃せば次の朔は当分先になってしまう。


「…わかった。俺が行こう」

「なんと!?だが、それはっ!」

「それ以外に方法があるのか?」

「っ!」


セルゲイは悔しげに表情を歪めたが、理性ではそれしか方法のないことをわかっているんだろう。

俺もこんな状況の人狼達を見捨てていけるほど冷酷には徹せない。


「頼むっ…!礼はいくらでもする。我等を救ってくれ!」


セルゲイはまた、俺へと頭を下げる。

一拍遅れてセルゲイの妻も頭を下げた。

こちらを窺いながら看病していた他の者も頭を下げてくるのがわかる。


「親父!人を中に入れてどういうつもりだっ!?」


そこへ一人の若い人狼が飛びこんできた。

見覚えのある銀の毛並みは、アステールに傷を与え俺が吹き飛ばした人狼のはずだ。

本当に傷一つなく戻ってきたようだな。


「なんで親父が人に頭なんか下げてるんだよっ!?わかってるのか!?親父はこの群れの長なんだぞ!?」

「黙れ、バカが!!この人が群れを救ってくれるかもしれないんだ!」

「何をわけのわかんねぇことを!!」


ジルガと言われていた人狼は、どうやらセルゲイの息子であったようだ。


こちらをキッと睨んだあと、中へと入ってきて喚き散らしセルゲイに掴みかかった。

セルゲイはその手を払い、逆にジルガの頭をはたく。

かなり強めにいったと思うがジルガは特に気にした様子もなくまたセルゲイに詰め寄っていた。


セルゲイは今ここで起きたことを説明し、俺が単身森へと入ることも言った。


「そんなことを信じるのか!?」

「我々を騙す理由がない。何もしなければ我が群れは終わりだ」

「ぐっ」


ジルガも理解はできているようだ。

だがそれでも、俺という人を信用することはできないらしい。

まぁ信用されたいとも思ってないからいいけどな。


「なら俺も行く」

「足手まといだろう?」

「何っ!?」

「いや。ジルガならば大丈夫かもしれん」

「どういうことだ?」

「ジルガは月の加護を授けられた群れの長の血を継ぐもの。力の揺れ幅は通常の人狼よりも少ない。私も行きたいところだが、私はここを離れられない」


群れの一大事であってもこの場を離れられない理由がセルゲイにはあるようだ。

だが、ジルガを連れていけば後ろから襲われることも気をつけねばならなくなる。


「ジルガ、シュウ殿に手を出すことは許さない。血に誓えるか?」

「…ああ。血に誓う」


セルゲイはこれで大丈夫だというようにこちらを見てくるが、俺は何が大丈夫なのか今のやり取りになんの意味があったのかよくわからない。

まぁ信じることにしよう。

既に陽は沈みかけている。

急ぐとしよう。

300部記念SSリクエストは本日中で締め切りとさせていただきます。

逆に言えば本日はまだ受け付けておりますのでどうぞよろしくお願いします。

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