勇話② 勇者憤怒
本日は勇者(笑)のお話。
不快に思う方もいるかもしれませんので、読まなくても大丈夫です。
作者は書きながら笑ってました。
デレーゼン帝国へと着いた俺達は、そこで信じられない物を目にした。
檻に入れられ、首輪を付けられた人だ。
獣族である彼らはここでは人として扱われていないようだ。
檻に入れられていない人たちも、一様に首輪は付けられている。
「この国は奴隷制らしいからな」
ラザロが嫌そうに顔をしかめながら言う。
碧は口を押さえ、青い顔をしている。
俺も怒りでどうにかなりそうだ。
さっさとこの国を出てしまいたいが、俺には勇者としての債務があるそうだ。
これから魔大陸へと渡るにあたって勇者であることを宣伝し、人族の希望として振舞う必要があると。
その為に、皇帝と謁見し、パレードに演説まで行わないといけないらしい。
そんなことをするよりも早く魔王の元へ行った方がいいと思うんだが、そういうわけにもいかないようだ。
人族の心の支えにと言われたら断れない。
俺達は馬車に乗ったまま、帝国の城へと入城。
皇帝陛下と謁見を行った。
「よく来た、勇者よ。俺がデレーゼン帝国皇帝、アイザック・ヴァン・デレーゼンだ」
教皇聖下とは印象が全く違う。
ライオンを従え、引き締まった体躯に褐色の肌、精悍な顔つきと金の髪。強者の風格。
地球でならば思わず跪いてしまっただろうと思うほどの威圧感。
いや、現に俺以外の皆は跪いてしまっている。
同じ人のくくりである筈の獣族を奴隷にして従わせているような奴に、本能で、実力差をわからされてしまったのだ。
ニヤリと、皇帝の口端が上がる。
「異世界より召喚され、この世界の為にその力を振るってくれることに感謝する。今日は休み、明日のパレードに備えてくれ。パレードはこの城から門まで続く。そのまま獣大陸へと繋ぐ道を行くといい」
「多大な心遣いにこちらこそ感謝いたします」
俺は下げたくない頭を無理矢理下げる。
この男の顔を見るのももう嫌だった。
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謁見が終わり、俺達には自由時間が与えられた。
城内を見てもいいし、城下町に出てもいいと。
こんな城にいても苛立ちが募るばかり。
俺達は全員で町へ出ることにした。
だが、結局。
その判断も誤りだったかもしれない。
奴隷市が普通に行われているのにはまったく意味がわからなかった。
人をなんだと思っているんだ。
そんな中で、俺は一つの光景を目にする。
一人の太った中年男が、小さな獣族の女の子に対し鞭を振るっていた。
「おい!何してる!」
「何って…教育ですが?何か用ですかな坊ちゃん?」
男は悪びれもせずこちらを見返してくる。
女の子を鞭で打ち、教育だと?
女の子へ目をやるとその目は生気が見えない。
この世に絶望しているような顔。
「女の子に鞭を打つなんて!」
「はぁ?言っておきますが、これは私の物です。どう扱おうと自由でしょう?」
「なっ!?」
耳を疑った。
まさかこんなことを言う奴がいるなんて。
「お前にその子は任せられない!」
「何を言ってるんですかい?任せるも何も私の物だと」
「どうすればその子を手放す!?」
「はい??まぁそりゃ金を払ってくれるのでしたら坊ちゃん方にお譲りしてもいいですが…」
こいつはどこまで腐っているのか!
女の子を解放するのに金を払えだと!?
何故これが犯罪じゃないんだ!
女の子を物扱いするようで気は進まないが、背に腹は代えられない。
「わかった。払おう」
「おい、ヒロフミ!そんな奴を買ってどうするつもりだ!?魔大陸まで連れていくのか!?」
「そんな奴!?見そこなったぞ、ラザロ!女の子が苦しんでいる!それを俺達はどうにかできる!ならばやらないわけにはいかないだろう!」
「だがっ!」
「安心しろ。魔大陸へは連れて行かない。獣大陸へ行けば同じ獣族同士だ、引き取り手もいるだろう。それまでは俺が守る。それならいいだろう?」
この勇者の力があれば、女の子一人守るくらいは簡単だ。
「…獣大陸までならな。自分で責任持つんだぞ」
「ああ、わかっている。ありがとう。そういうわけだ。その子は私が引き取る」
「はぁ…まぁいいですがね、忠告しておきやすが、奴隷の首輪は外さない方がいいですぜ?」
男が何か言っていたが俺は聞かずに金を払った。
高いのか安いのかわからないが、小さい家なら帰る値段とラザロが言っていた。
「君、名前は?」
見て回る気分でもなくなってしまった為、女の子を連れて馬車で城へと戻る。
その途中、俺は女の子に名を尋ねた。
「…ない」
女の子は感情の篭もっていない声で答える。
碧は泣きそうになりながら、女の子を抱き締めた。
「そうか、それなら俺が名前をつけよう。いいかな?」
女の子はコクリと頷く。
赤みがかった茶髪に、同じく茶色い犬耳。
先端だけ少し白い尻尾。
「今日から君の名前はロコだ」
女の子はもう一度コクリと頷いた。
「ねぇ、ヒロフミ。この子の服とかも買ってあげないと」
「ああ、そうだな」
碧が買いに行ってくれると言うので、ラザロと二人で買い物に行ってもらい、俺とユリアーダは城へと戻った。
ユリアーダはロコのことをジッと見つめていた。
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勇者のパレードが終わり、町を出る姿を見送る。
「どうでしたか、皇帝陛下?」
「ダメだな。実力はあるようだが、真っ直ぐすぎる。あれはダメだ」
勇者が町に行き、奴隷を買ってきたことには驚いた。
それもあれは狼種。
通常の獣族よりも力、速さ共に倍は違い、何よりも狼種の子どもは自身の力を制御できない。
親が側にいなければ暴走してしまうこともよくあるのだ。
あの奴隷の首輪は、赤と黄の色をしていた。
赤は犯罪奴隷を、黄は奴隷同士が生んだ子を指す。
おそらくは親の奴隷に何かあり、暴走してしまった際に罪を犯してしまったのだろう。
だが、赤の首輪は強制的に従わせることができる魔術が組まれている。
外さなければいいが、外すだろうな。
そうなった場合、無傷で抑えることが果してできるかどうか。
「我が国の奴隷制度を嫌煙しておられましたな」
「ふん、怒気を隠しもせずバレておらぬと思っておったのかな?」
奴隷制度が何だと言うのだ。
確かに王国のように奴隷制を廃止している国もあるが、王国程広大な領土を持たず、周りを大砂漠グランに囲まれた我が国は決して裕福ではない。
民全てを養えるわけではなく、食い詰めて身を売ることで家族を守る者もいる。
そういった者は青の首輪を与えられ、人材紹介とあまり変わらぬ扱いだ。
犯罪奴隷を使わない理由はないし、檻に入れるのは犯罪奴隷くらい。
それも人族、獣族関係なくだ。
全ての奴隷を一貫して檻に入れ、人とも思えぬ扱いをしているのは教国ではないか。
あそこは異教徒は人ではないという考え方で、犯罪を犯した者も異教徒だという暴論を振るっているからな。
「さて、あの勇者は生きて帰れるのかね?」
まぁ俺にはどうでもいい。
端から若造に期待などしていない。
目下頭が痛いのは、自分の息子たちのことだけだ。
やれやれ、あのバカ息子ども。
玉座を巡って争いおって、今のままだとどちらにも譲らぬぞ。




