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「それで、話ってのは?」
シスターの部屋に通され、現在は俺とシスターの二人だけ。
俺が真剣だったこともあり、話が重大なことだと判断してくれたのか。
ちなみにアステールは外でさっきの奴らが戻ってくることを警戒しててくれる。
俺もシスターも奴らがそのまま戻ってくるとは思えないから、保険の意味合いが強いが。
「俺は人族の大陸から来た。魔王に会いに行くつもりだ。場所を教えてくれ」
単刀直入、俺が言うとシスターは少し驚いたようだが、いきなりキレるようなことはなかった。
よかった。言葉次第ではここでシスターと戦闘になってもおかしくないからな。
「…あんたが魔族でないことはわかってた。けど、じゃあ結局何者かってのはわからず仕舞いさ。魔族でない、魔力の波長から人族でもない。もちろん、獣族でもないし、他の種族とも違う気がする。一番近いのは、そう竜だね。だが、そんなことはどうでもいい。あんたは魔族の敵なのかい?陛下に会って何をする?」
シスターの身体から静かに魔力が漂う。
すぐに動けるようにシスターが身体を強化していくのがわかる。
「俺は魔族の敵ではないつもりだ。何度か敵対はしたが、種族全体を敵とみなしているわけではない。だが、こちらとしても困るんだよ。人族の大陸には、仲のいい奴らがいる。魔族と人族がこのまま争うならば、俺は魔族の敵になるだろう」
「…争うなら、ね」
「そう。争うなら、だ。その意思を確認したい。魔王本人に話しを聞いてだ」
そう言うと、シスターの目が点になる。
次いで声をあげて笑い始めた。
「アッハッハハ!魔王陛下と話合いで解決するつもりかい?!他の種族が最も畏怖する魔族の頂点に君臨する男と!アッハッハ!そりゃいいね!そんなこと言うやつ初めて見たよ!」
「もし、そこで魔王が俺と相容れないとなれば、俺はその時点で魔王の敵になるだろう。それも承知の上で教えて欲しい。魔王はどこにいる?」
笑っていたシスターの目がスッと細められ、その顔が真剣なものになる。
そしてフッと力を抜いて苦笑気味に肩をすくめた。
「やれやれ、あたしも馬鹿だね。こんな馬鹿正直に陛下の敵になるなんて言っている男に陛下の居場所を教えようとしてるなんて。まぁ、あんたが魔大陸で動くならいずれ知ることさ。陛下は別に隠れていない。いいだろう、教えてあげるよ」
魔大陸は三大陸のうちで最も小さい大陸。
けれどその環境の過酷さは群を抜く。
そんな中で唯一。
環境による影響がまったくない場所がある。
その地は神より賜った地と呼ばれ、代々魔大陸の首都として機能してきた。
破壊神が、その劣悪な環境を破壊した地。
再生という意味の名を持つそこは、魔都「ハスペルベ」。
ルビアンナ魔国首都である。
「ルビアンナ魔国?他にも国が?」
「国と言える程じゃないかもしれないけどね、魔大陸も一枚岩じゃない。魔王陛下のご意向が届かぬ場所も確かに存在している」
そこは凶暴な魔物ひしめく森。
そこには黒き肌を持つ人喰いの先住民「ダバンサ」が住む。
広大な大草原。
豊富な生物が存在するそこには、人狼の群れが。
他にも多種多様な者が魔王の覇権の外にいる。
共通するのはただ一つ。
例外なく、全ての者は凶者であり、強者である。
「だけどやっぱり、ルビアンナ魔国が大陸で一番大きいよ。ここもそうだしね、まぁ魔国の領主たちはそれぞれに一定の権利を有しているからね、独立性も高いけれど」
領主はそれぞれの領地においては王として君臨し得るだけの権限は持っているそうだ。
つまりは絶対王政ではなく、封建領主といった感じか。
「それで、本題に戻すとだね。魔王陛下がいるのはハスペルベ。そこは魔大陸のちょうど中心に位置する都市さ。ここからは北東の方角にある」
「北東…わかった。ありがとう」
「陛下に会ったらよろしく伝えといてくれよ。会いに行けなくてすまない、とも」
「いきなり戦闘にならなかったらな」
俺達は笑って部屋を出る。
行先はわかった。
あとは行くだけだ。
俺はシスターからクッキーを貰い、子どもたちに別れを告げる。
泣きそうになるエイミーの頭を撫で、アステールに跨った。
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「トビーJr様…あの申し上げにくいんですが…」
「ふぁんだ!」
「ゴベイルから援軍は来ないと…」
「ふぁにぃぃぃ!?」
「それが…ゴベイル領主グラビール伯がそんなことに使う兵はないと…」
「ふぁのジジィ!!ほれがはおうふぇいかのひょうだいだってわふぁってんのか!?」
「そ、そう言われましても…」
「ふぃくしょーどうしてひゃろうか…」
「ん?!な、何かが高速で近づいてきやすぜ!?」
「なんだ!?」
次の瞬間。
彼らは何かに跳ね飛ばされた。
それは黒い色の何か。
そして、そのまま彼らは林へと突っ込んだ。
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一方、跳ねた何かの方はというと。
「アステール、お前今わざと跳ねたろ」
「クルッ!」
「まぁいいがな…」
陽が沈む前に近くのゴベイルに辿り着きたいと、速足で飛んでいた。
そしてその光景を林の中から見ていた影が、一つ。
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