第240ページ 顛末
本日は二話更新。今話は二話目です。
吹っ飛んでいったトビーJrを後ろにいた二人が慌てて探しに行った。
それはもうどこのマンガだってくらいの見事な吹っ飛びようだった。
「あれ、やっちまったね。まぁやっちまったもんは仕方ないさね」
「クル…」
ワハハと笑うシスターにアステールは少し引いている。
そして俺もだ。
シスターが強いことはわかっていた。
その身に宿していた魔力は王都を襲撃してきた六魔将とか言うのと比べても遜色なく、むしろシスターの方が多いかもしれない。
只者ではないとは思っていたが、まさか元六魔将とは。
「みんな出てきていいよ!」
シスターの言葉に子どもたちが歓声を上げながら出ていく。
女の子達は泣きそうにしているが、男の子達は目を輝かせている。
「シスターすげー!!」
「やっぱ強ぇぇ!!」
「かっこいい!」
特に男の子たちの勢いがすごいな。
「それ程の強さで何故あんな怪我を?」
「ちょっと油断しちまってね。ざまぁないね」
「違うの!私が付いて行ってたから…シスターは私を守る為に」
泣きそうになるエイミーをシスターが撫でて、苦笑する。
「エイミーのせいじゃないよ。何度も言ってるだろう?」
「でもっ」
「あれは場所が悪かったのさね」
そう言ってシスターは、俺がエイミーと初めて会った林の方を見やる。
どうやらシスターが怪我をしたのはあの中のようだ。
それなら納得だろうか。
さっきの様子、それに二つ名を見る限り、シスターが得意なのは火属性魔法。
林の中でシスターに怪我を負わせられるような大物相手に火属性魔法を行使すれば、林自体が危なくなってしまう。
シスター自身は大丈夫でも、エイミーは熱に耐えられなくなるだろうし、孤児院のこれからにも影響が出ていたかもしれない。
「まぁ、あたしらを襲ってきたやつは倒したんだけどね」
「倒したのかよ!」
聞けばシスターが怪我をしたのは襲ってきた魔物を倒したあと。
いや、倒したと思ったあと。
もう死んだと思っていたが、まだ生きていた魔物は一矢報いようとエイミーを襲った。
そのエイミーを助ける為に、シスターは咄嗟に自身の身を盾としたそうだ。
「まぁ、治ったんだからその話はもういいさね」
「そうだな。それはいいとしても、あれはいいのか?」
俺がトビーJrが飛んで行った方を指すと、シスターは露骨に嫌そうな顔をした。
「まぁ大丈夫さね。あいつらが束になってかかってきてもあたしにゃ敵わないよ」
「それはそうだが…」
「魔王陛下のことかい?それも心配ない、と思うよ。陛下は自分に従わないからって実力行使に出たりしない子さ。あれはどこかで命令がねじ曲がったか、あいつの独断か、もしくは…」
随分魔王のことに詳しそうだ。
俺が魔王に会いに行きたいと言えば教えてくれるのだろうか?
少し急がねばいけないようだしな。
事実がどうあれ、トビーJrがシスターを連れて行こうとした。
シスターという戦力を、確保しようとした。
それはつまり近々戦力が必要な事態が起こるということ。
今この状況でそんな事態は、他種族との全面戦争くらいしか思い浮かばない。
「シスター、少し話がある」
シスターから情報を聞ければ聞き、今日中にでもここを出て次の町へと向かおう。
俺に何ができるかはわからないが、何もしないままは嫌だからな。
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「くっほぉはのババァ!!」
「しかしどうしますか?我々だけではあの人には敵いません」
「あの人がいる限り、ガキを人質に取ることも難しいでしょう」
「それにあそこには何故かブラックヒッポグリフもいました」
「そうですぜ!俺も初めて見やしたが、ありゃ間違いない」
バカ共が何やらわめきたてている。
ブラックヒッポグリフだと?
そういえばババアの後ろになんかいたな。
だが、あいつがそんなに強いのか?
「そしてステラを上回る程の魔力が孤児院の中から」
「ありゃ異常ですぜ!」
そんなものあったか?
ま、まぁ俺様みたいな高貴な者には下々の魔力なぞ低すぎてわからんがな!
「ふぁいほぉうぶだ。しゃくはある」
俺の言葉に二人が目を輝かせる。
まぁ落ち着け、俺様が偉いのはいつものことだ。
ふっふっふっ、ステラめ。
覚悟しろ?
近隣の町ゴベイルの兵士総勢500人!
如何にお前とてただでは済むまい。
ばかばかしい孤児院を守りながらならばなおさらよ!
「ふぁしたがおふぁえのさいぼだ」
俺は自分の顔がにやけるのを止められなかった。




