第239ページ 招かれざる客
本日は二話更新。
こちらが一話目になります。
アステールにも夕食を出してもらったようで、礼を言ってから俺は宛がわれた客間で床に着いた。
魔大陸という何があってもおかしくない土地にいるにもかかわらずぐっすり眠れる自分に驚いた。
翌朝、俺はカンカンカンというけたたましい音で目が覚める。
その後、大音量の起床を告げる声が響いた。
俺は何事かと思ったが、ここではこれが通常らしい。
いや、いつもに戻ったと言うべきか。
子どもたちも嬉しそうにしている。
さて、俺はこれからのことを考える必要があるな。
とりあえず魔王城に行くことは決定しているが、魔王城の場所もわからない。
情報収集をしながら進む必要があるが、俺の存在は魔大陸にとって異質だ。
シスターは見逃してくれている雰囲気があるが、他の者にとってどう働くのかわからない。
慎重に行動する必要がありそうだ。
---
アステールや子どもたちと外で遊んだり、俺の話、魔大陸の話などをして過ごす穏やかな時間が流れた。
だが、穏やかな時間は終わるものだ。
「全員中へ入れ」
「え?」
「どうして?」
「お客さんだ」
近づいてくる魔力。
それは子どもたちとは比べられない大きさ。
今まで出会ってきた魔族よりは少ないが、人族よりは大きい。
問題は魔力ではなくマップに示された光点の色。
魔大陸に来てからは常時展開しているそれには赤い3つの光りが近づいてくるのが映っていた。
「シュウ、あんたも中へ。子どもたちを頼むよ」
「…わかった」
魔力に気付いたのかシスターが出てくる。
その雰囲気から相手は知り合いなのだと察せれた。
俺が孤児院の中へと入ると、エイミーが不安そうに俺に捕まってくる。
見れば他の子どもたちもそこに集まっていた。
怖がる子どもも、泣きそうになっている子どもも、全員が心配そうに外を見ている。
ロブは今にも走って行きそうでミーアに捕まっており、他の子どもたちに手足口をふさがれながらも暴れている。
俺は安心するように子どもたちへ精神安定の魔法をかけた。
神聖魔法は魔族にもそのまま機能するようでよかった。
近づいてくる気配が強くなり、俺はエイミーの手を握り返しながら外を窺う。
おっと、アステールが外にいるままだ。
アステールはシスターの側にいてくれることにしたようで、彼女の後ろへと回る。
シスターがフッと笑ってアステールを撫でた。
そこでようやく、気配の正体が姿を見せた。
一人、派手な服装のまだ若い男を先頭にし、その後ろに並んで二人。
衣裳は全然違うが、後ろの二人は前のやつのボディーガードのような者らしく俺にSPの黒服を連想させた。
「これはこれは、出迎えありがとうございます」
若い男が口を開く。
肩まである金の髪と、下卑た笑いが特徴だ。
「久しぶりだね、トビーJr」
「Jrは止めて下さい。愚かな父はもう死にました。今は私がトビーです」
「そうかい。それは失礼したね、トビー、Jr」
トビーJrと呼ばれた男のこめかみがピクリと動く。
今ので、シスターが彼を嫌っていることと、彼の沸点が低く煽り耐性がないこともわかった。
「それで何しに来たんだい?」
「貴女へ召喚命令が出ましたのでね、面識のある私がお任せいただきました」
わざとらしくトビーJrが胸に手を当て一礼。
それはシスターへの敬意ではなく、命令を下した相手に対する敬意。
「断るよ。あたしはもう関係ないはずだ」
「私もそう思うのですがね、我等が王はそう思っていないようなのですよ。我等が魔王陛下はね」
魔王という名が出た時、少しだけシスターの気配が変わった。
その背が丸く小さくなった気がした。
「あの子が…」
「ええ。あのお方も貴女が戻ってくることを願っていますよ」
「…それでも断るよ。あの子は変わってしまった」
「手段は選ぶな、と言われております」
そこでもう一度シスターの雰囲気が激変した。
それはまるで烈火のごとく。
「あんたが私を?どうするつもりだい?泣き虫トビー!!」
トビーはビクリと震え、一歩下がる。
その身が恐怖に震え始めた。
「あ、貴女自身には何もしません?できるとは思いませんし?ですが、今の貴女のことは調べさせていただきました。こんな大陸の端で孤児院をしているとは。元六魔将が一角、煌炎聖母とまで謳われたマザー・ステラが!」
「あたしの子どもたちに手を出したらタダじゃおかないよ!」
沸点を越えたシスターの拳が、炎を纏いトビーJrの顎を撃ち抜いた。




