第238ページ 快復
「わー!!」
「お兄ちゃんすごいすごい!!」
「すっげー!」
「シスターお足大丈夫!?もう痛くない!?」
シスターの足を治す光景を見ていた子どもたちが騒ぎだす。
もちろんシスターは化膿部分を子どもたちに見えないように隠していたから、それほどひどいことになっていたとは思っていないんだろうが、足を切断する瀬戸際だった。
もう少し遅かったら手遅れだったろう。
神聖魔法には切断された四肢をくっつける魔法もあったりするが、足が腐っているならもう一度くっつけたところで無意味だ。
流石に新しく生やしたりといったことはできないようだしな。
シスターが布団を取りベッドから慎重に降りる。
足を踏みしめ、しっかりと立ち、信じられないというようにこちらを見てくる。
「シスターが立った!」
「皆に知らせないと!」
「お兄ちゃんありがとう!!」
子どもたちは口々にそう言うと部屋を飛び出して行った。
「驚いたね…あんた聖職者だったのかい?」
「冒険者だよ」
今俺が使った魔法は神聖魔法最上級。
本来であれば司教クラスでようやく使えるかどうかといった魔法だ。
当然それが使えれば敬虔な神の信者だと思われても仕方ないが、生憎どの神にも仕えているつもりはない。
敵対しているやつはいるが。
「それでなんだってそんな怪我をしたんだ?」
「ちょっとドジっちまってね。あんたは…」
そこに「「シスター!!」」と大合唱が響く。
「おやおや、このままだと全員揃ってこっちに来ちまうね。この部屋には入りきらないし、私らから行こうか」
シスターは何のためらいもなく足を踏み出す。
普通に歩けることに、少しの笑顔を浮かべながら。
喜んでくれる子どもたちに嬉しさを隠しきれず。
部屋を出ると子どもたちはもうそこまで来ていた。
おそらく勢ぞろいだ。
それぞれが歓声を上げている。
「こらこら!喜んでくれるのは嬉しいけどね!少し落ち着きな!」
そう言っても子どもたちが落ち着くわけがない。
シスターに飛びつく子どもたちもでてきて、始めは受け止めていたシスターだったが最終的に押し倒されていた。
そして次の矛先は俺だ。
「ほっよっふっうわ!?おお!?おおーー!?」
俺も抱きとめては受け流していたんだが、同時にこられると流石に無理だった。
あえなく押し倒される。
シスターを含めた皆の笑い声が聞こえる。
その楽しそうな笑い声に、良い仕事をしたと改めて思えた。
---
「それであんた、何の用でここに来たんだい?」
「特に用はない。流されてきただけだ」
「流されて?変な奴だね、まったく。まぁいいさ!足を治してくれた礼もしないとね。こんなところでよかったら泊まっていきな」
「それはありがたい」
別にアステールなら近くの町まで行けるとは思うが、今から行くのも面倒だし今日はお言葉に甘えよう。
シスターは孤児院内を歩き回り、子どもだけでは終わらせられない仕事をささっと終わらせていく。
更には同時並行で子どもたちに指示を出し、日常業務も終わらせ、夕食作りにも取りかかっていった。
その手腕はお見事というしかなく、動き回る子どもたちがまるでどこかの兵隊のようだ。
あっという間に夕食の時間になり、規則正しく子どもたちが席に着く。
「食材と、新たね出会いに感謝を込めて。いただきます」
「「「いただきます!!!」」」
シスターの声に合唱が響く。
俺も言ったが、こちらの世界に来てそれを聞いたのは初めてだったな。
夕食のメニューは質素な物だったが、身体に沁みるような美味しい食事だった。




