第237ページ シスター
孤児院に近付くとわらわらと子どもたちが集まって来た。
孤児院の中と周辺(林には入らず)を手分けして探していたようだ。
男女問わず様々な年齢の子どもが見受けられるが、ミーアよりも年上の子はいないようだ。
どの子もまだ、10歳前後に見える。
「タァっ!」
「?」
いきなり俺の足を蹴ってきた魔族の少年が、自分の足を押さえてピョンピョン飛び跳ねる。
すまない、少年。
魔族の少年と今の俺だと、俺の身体の方が強度が上だったようだ。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫に決まっているだろう!?わ、わかってるんだぞっ!お前、悪者だな!?」
目尻に涙を浮かべ、顔を歪ませながら、それでもビシッと音が立つくらいに俺を指差してくる少年。
さて、どう答えようかと思っているうちに少年の頭を拳骨が襲った。
「痛ぁっ!?」
「なにやってんのロブ!その人はエイミーを助けてくれたのよっ!」
「だ、だってミーア姉ちゃん!こいつが!」
「だってじゃありません!ちゃんと謝りなさい!」
「う…うーーーー…ふんっ!」
「あっこら!」
ロブと呼ばれた少年は悔しそうにこちらを睨んだあと、顔を背け走っていってしまった。
「すみません…」
「いや、いいさ。エイミーのことが大事なんだろう」
「ロブは優しい子で、子どもたちのリーダーなんです。誰のことも気にかけてますけど、中でもエイミーは特別ですから」
ミーアが笑って言う。
そのままこちらへと案内して孤児院へと入っていく。俺達がそれについていくと、その後ろを子どもたちがぞろぞろ付いてきた。
エイミーは仲の良いんだろう女の子たちと手を繋いでいたりしている。
間に合って本当によかった。
「こちらへ、どうぞ」
客が来た時用の部屋に通され、隣には当然のようにエイミーが座る。
アステールは流石に中に入れれないので、外で子どもたちと遊んでいる。
「どうぞ、クッキーです」
よく見る何の変哲もないクッキー。
だが、それは何やら抗いがたい魅力を醸し出していた。
サクッとした食感と、これは何らかのドライフルーツだろうか?
甘さ控えめの生地が甘酸っぱいフルーツの味をより際立たせる。
そしてどうやら、クッキーの種類はそれだけではない。
チョコッチップが混ぜられた物や、プレーンなもの。
生地自体に何らかの野菜が練り込まれたもの。
全てに共通するのは美味だということだ。
「あの、それで…エイミーを助けてくれたこと、本当にお礼を言います。けど…私たちにはお金なんて…」
「いや、いい。報酬はもう貰った。少し貰いすぎたくらいだ」
俺の視線の先には空になった二枚の大皿。
おかしいな、山もりに盛ってくれてたはずなんだが…
「貰いすぎた分の仕事はしないとは。シスターはどこに?」
「え?あの…?」
「こう見えて回復魔法が使えてな。怪我を視てみよう」
「ほんとですか!?」
「こっちです!」
ミーアが身を乗り出し、エイミーが俺の手を引っ張って駆けだした。
いきなりで慌てたがどうにかエイミーを転ばせずに付いて行く。
「ここです!シスター!!」
余程嬉しかったのかエイミーがノックもせずに扉を開け放つ。
中は狭い部屋でベッドに横たわった女性が一人。
そのベッドに子どもたちが群がっている。
「エイミー!!」
空間がビリビリと音を立てるような怒声が響く。
思わず耳を覆ってしまうが、子どもたちは慣れているようだ。
ただうるさそうに笑っているが、唯一怒鳴られたエイミーだけがビクッと震える。
「林に入ったそうだね?入るなと言ったよね?」
「ご、ごめんなさい…」
「無事だったからよかったもの!一歩間違えれば死んでたんだよ!?」
「で、でも…」
「でもじゃない!!罰として一ヶ月クッキー抜き!!」
「「そんな!?」」
俺とエイミーの声が重なる。
全員の視線がこちらを向いた。
「そ、それは少し厳しいんじゃないか?」
「あんたがエイミーを助けてくれた冒険者だね。そのことは礼を言うよ。どうもありがとう。けれど躾は必要さね」
そう言われてしまうと何も言えない…
確かに俺が口を出すことではない。
ないが…
「あのクッキーを一ヶ月も自分だけ食べれないなど…拷問だ…」
思わず漏れた言葉にシスターが呆気に取られた顔をし、次いで笑いだした。
「アハハハ!面白い奴さね。いいだろう、あんたに免じて一週間にしておくよ。それであんた何しに来たんだい?」
「たまたま寄っただけだが、クッキーの礼はしないとな」
隣りで飛び跳ねて喜ぶエイミーを落ち着かせて俺はベッドに近付く。
「《エクストラ・ヒール》」
癒しの光りが、シスターを包む。
彼女の足の怪我を、そこから化膿した脚部全体を癒していく。
青く変色していた足は肌色を取り戻し、またたく間に元へと戻った。




