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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第十一章 最も危険なピクニック「目的地は魔王城」編
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第237ページ シスター

孤児院に近付くとわらわらと子どもたちが集まって来た。

孤児院の中と周辺(林には入らず)を手分けして探していたようだ。


男女問わず様々な年齢の子どもが見受けられるが、ミーアよりも年上の子はいないようだ。

どの子もまだ、10歳前後に見える。


「タァっ!」

「?」


いきなり俺の足を蹴ってきた魔族の少年が、自分の足を押さえてピョンピョン飛び跳ねる。

すまない、少年。

魔族の少年と今の俺だと、俺の身体の方が強度が上だったようだ。


「大丈夫か?」

「だ、大丈夫に決まっているだろう!?わ、わかってるんだぞっ!お前、悪者だな!?」


目尻に涙を浮かべ、顔を歪ませながら、それでもビシッと音が立つくらいに俺を指差してくる少年。

さて、どう答えようかと思っているうちに少年の頭を拳骨が襲った。


「痛ぁっ!?」

「なにやってんのロブ!その人はエイミーを助けてくれたのよっ!」

「だ、だってミーア姉ちゃん!こいつが!」

「だってじゃありません!ちゃんと謝りなさい!」

「う…うーーーー…ふんっ!」

「あっこら!」


ロブと呼ばれた少年は悔しそうにこちらを睨んだあと、顔を背け走っていってしまった。


「すみません…」

「いや、いいさ。エイミーのことが大事なんだろう」

「ロブは優しい子で、子どもたちのリーダーなんです。誰のことも気にかけてますけど、中でもエイミーは特別ですから」


ミーアが笑って言う。

そのままこちらへと案内して孤児院へと入っていく。俺達がそれについていくと、その後ろを子どもたちがぞろぞろ付いてきた。

エイミーは仲の良いんだろう女の子たちと手を繋いでいたりしている。

間に合って本当によかった。


「こちらへ、どうぞ」


客が来た時用の部屋に通され、隣には当然のようにエイミーが座る。

アステールは流石に中に入れれないので、外で子どもたちと遊んでいる。


「どうぞ、クッキーです」


よく見る何の変哲もないクッキー。

だが、それは何やら抗いがたい魅力を醸し出していた。


サクッとした食感と、これは何らかのドライフルーツだろうか?

甘さ控えめの生地が甘酸っぱいフルーツの味をより際立たせる。

そしてどうやら、クッキーの種類はそれだけではない。


チョコッチップが混ぜられた物や、プレーンなもの。

生地自体に何らかの野菜が練り込まれたもの。


全てに共通するのは美味だということだ。


「あの、それで…エイミーを助けてくれたこと、本当にお礼を言います。けど…私たちにはお金なんて…」

「いや、いい。報酬はもう貰った。少し貰いすぎたくらいだ」


俺の視線の先には空になった二枚の大皿。

おかしいな、山もりに盛ってくれてたはずなんだが…


「貰いすぎた分の仕事はしないとは。シスターはどこに?」

「え?あの…?」

「こう見えて回復魔法が使えてな。怪我を視てみよう」

「ほんとですか!?」

「こっちです!」


ミーアが身を乗り出し、エイミーが俺の手を引っ張って駆けだした。

いきなりで慌てたがどうにかエイミーを転ばせずに付いて行く。


「ここです!シスター!!」


余程嬉しかったのかエイミーがノックもせずに扉を開け放つ。

中は狭い部屋でベッドに横たわった女性が一人。

そのベッドに子どもたちが群がっている。


「エイミー!!」


空間がビリビリと音を立てるような怒声が響く。

思わず耳を覆ってしまうが、子どもたちは慣れているようだ。

ただうるさそうに笑っているが、唯一怒鳴られたエイミーだけがビクッと震える。


「林に入ったそうだね?入るなと言ったよね?」

「ご、ごめんなさい…」

「無事だったからよかったもの!一歩間違えれば死んでたんだよ!?」

「で、でも…」

「でもじゃない!!罰として一ヶ月クッキー抜き!!」

「「そんな!?」」


俺とエイミーの声が重なる。

全員の視線がこちらを向いた。


「そ、それは少し厳しいんじゃないか?」

「あんたがエイミーを助けてくれた冒険者だね。そのことは礼を言うよ。どうもありがとう。けれど躾は必要さね」


そう言われてしまうと何も言えない…

確かに俺が口を出すことではない。

ないが…


「あのクッキーを一ヶ月も自分だけ食べれないなど…拷問だ…」


思わず漏れた言葉にシスターが呆気に取られた顔をし、次いで笑いだした。


「アハハハ!面白い奴さね。いいだろう、あんたに免じて一週間にしておくよ。それであんた何しに来たんだい?」

「たまたま寄っただけだが、クッキーの礼はしないとな」


隣りで飛び跳ねて喜ぶエイミーを落ち着かせて俺はベッドに近付く。


「《エクストラ・ヒール》」


癒しの光りが、シスターを包む。

彼女の足の怪我を、そこから化膿した脚部全体を癒していく。


青く変色していた足は肌色を取り戻し、またたく間に元へと戻った。

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