勇話 勇者出征
「太陽神アポロシス様の見守るこの日!我らが勇者は魔王討伐の為に出征する!聖王ネテロ・パレステンはこの日が来たことを祝福し、勇者ヒロフミ・ウツロギを誇りに思う!」
教皇様の演説に俺は自身の心が浮き立つのを感じる。
同時にあの日のことを思い出していた。
突然召喚された異世界。
周りを囲むのは煌びやかな装いに身を包んだ人々。
側には怖がる幼馴染の女の子。
「おお、勇者よ!我等が待ち望んだ真なる勇者よ!」
そして俺はこの世界のことを聞かされた。
世界の名はアルファリア。
今この世界は危機に面している。
魔族とそれを統べる魔王の存在。
彼らが人族に対して何を、どんなひどいことをしてきたか。
俺はそれを聞いて、黙っていられるわけがなかった。
けれど魔族も生きている存在。
この地に住む人々には無理でも、勇者として召喚された自分が間に立てば停戦くらいはできるのではないか。
そう考えた。
勇者として召喚された俺は、この世界に住む住人とは桁違いのステータスを有していた。
そして、反則とも言えるようなユニークスキルを。
しかし、元々していた剣道は、実際の戦いではほとんど役に立たなかった。
いや、していなかったよりはだいぶましだったけど、騎士団長バルハーデ・ドゴール様に俺はボコボコにされた。
それからは来る日も来る日も訓練の連続。
正直辛かった。
けれど、一緒に召喚された碧がいたから。
一緒に頑張ってくれたから、俺も頑張れた。
碧も勇者には及ばずながら高いステータスになっていた。
そして碧には魔法の才能があった。
魔法師として、碧も共に訓練をし、魔法団長セリノーテ・アルセンス様にも認められていた。
そして俺は聖女と呼ばれる方にもお会いした。
その方はとても綺麗で、いや美しく、いやいやえっと、そう!儚い人…だった。
何年も外には出ていないという彼女は透き通るような白い肌と輝く白金の髪の持ち主。
全ての病、傷を癒すことができるという彼女は…目が視えなかった。
そんな彼女が言う。
「どうか魔王討伐などおやめ下さい、勇者様。そんなことをする必要はないのです。あなたは…」
俺は答えた。
「大丈夫です。俺は勇者ですから」
彼女はその言葉を聞き、悲しそうに首を振った。
俺のことを心配してくれる彼女の優しさは嬉しいが、俺は止まれない。
彼女とはそれから会えなかった。
どうやら彼女自身の病や怪我は治せないようで、ずっと病と闘い続けているらしい。
そしてその病を持ち込んだのは、やはり魔族だった。
魔族の行いは残虐だ。
子を攫い、村に火を付け、老人を殺し、女性を犯す。
人族と魔族ともう一つの種族、獣族を獣と言い切り、その存在を認めない。
奴隷にもしているそうだ。
そんな行いは許せない。
止めさせなければならない。
魔族と交渉するのは大変かもしれない。
俺が間に立っても、人族側は納得しないだろう。
けれど、俺はやる。
どうしてもダメならその時は…
「では勇者よ!我らが悲願を汝に託す!どうか人族を救って欲しい!」
「必ずや」
教皇様の演説に頷き、その場に跪く。
腰に差す聖剣グラムを触り、その感触をしっかりと確かめる。
俺達はこれから魔族の大陸、ベスペリアに向けて出発する。
メンバーは四人。
俺と、碧。
俺とずっと鍛練してくれ、友になった騎士ラザロ。
そして、聖王の娘であるユリアーダ。
ユリアーダとはベスペリアに行くと決まった時に初めて会った。
あまり感情を見せない子で何を考えているかわからない。
俺はこの子が一緒に行くことに反対したけれど、教皇様が必ず力になるからと強引に仰られた。
自らの娘を死地に送りださないといけない教皇様に胸が痛くなる。
同時にこの子は必ず俺が守ろうと誓った。
「往くがいい!我等が勇者よ!汝らの旅路に幸多からんことを!」
俺達は馬車に乗ってベスペリアを目指す。
まずはデレーゼン帝国へ。
そこから獣族の大陸バリファルファへ。
そのあとはいよいよベスペリアだ。
本当は、人族の大陸からベスペリアに行く道もあるそうだけれど、そこを領土としているマジェスタ王国は協力を拒否したそうだ。
この一大事に人族同士が協力できないなんて、なんてひどい国なんだろうと思う。
けれど、拒否されたものは仕方ない。
遠回りになるけれど、その分俺が見聞を深めるにはいいだろうと教皇様は仰られた。
そして、その過程で仲間を見つけても構わないとも。
一緒に魔王のところへ乗り込んでくれる奇特な相手なんてなかなか探せないとは思うけど。
俺たちは仲間を探しつつベスペリアへと向かう。
この世界の平和の為に。




