第22ページ 二人
宿屋に戻った俺はギルドから使いが来て「待ち人が到着した」という伝言を受け取った。
マーサが何を勘違いしたのかやけに嬉しそうだったのが印象的だ。
ギルドに行けばいいのかと思い行ってみると、今は辺境伯城にいるとのこと。
それならそうと言っておいてくれればいいものを。
そんなわけで辺境伯城に来ている。
しかしここで問題が起きた。
「待て!ここより先はラッセン辺境伯の居城であらせられる!許可なく立ち入ることは許さん!」
どうやら新入りのようだ。
俺の顔を知らないらしい。
確かに許可は得てないのだが、帰るわけにも行かない。
「許可はないが行く用事があるんだ。どいてくれ」
「どくわけないだろう!お前のような冒険者が辺境伯に何用だというんだ!」
随分な言い草だな。
仕事をしているだけなのだがその言い方に少し腹が立った俺は、押し通ることにした。
「どけ」
覇気を発動する。
すると、まだ若いその騎士は白目を剥いてひっくり返ってしまった。
「は?」
何が何やらわからないがこのままにしておくわけにもいかないのでとりあえずおぶって門のところに行く。
そこに立っていた騎士達は俺の顔を知っていたようで、事情を聞き仕方ないという顔で気絶した騎士を受け取りもうひとりの騎士が俺が来たことを伝えに行った。
その間に騎士を昏倒させてしまったことを謝罪する。
ついカッとなって職務中の騎士を気絶させるなど、罰を食らっても文句を言えない。
力があるからと感情のままに揮っていいわけがない。反省しないとな。
それから少しして、家令の者が騎士と共にやってくる。
いつもの応接室に呼ばれるのかと思っていたが、今日は謁見の間という広間らしい。
豪華な装飾がなされた両開きの扉が開かれる。
中も豪華であり正に謁見の間といった具合で赤いカーペットが敷かれ、柱にもきれいな彫刻がなされている。
部屋にいるのは全部で9人。
辺境伯、ララ、マインス、三人の騎士団長、グラハムギルド長。
それから見慣れない騎士が二人だ。
この二人が調査のために派遣されたものなのだろう。
「よく来たシュウ。紹介しよう、こちらが今回お前と調査に行ってもらう…」
「ベンジャミン・ハイリッヒ・フォン・シュレルン。こっちは私の従者のトマス。よろしくお願いします」
ベンジャミンと名乗った騎士は俺と同い年くらいの年齢。
トマスはそれより少し上といった感じだろうか。
貴族ではあるが、こちらもあまり身分の差など気にしていない感じ。
トマスはそれが少し嫌そうだな。
「シュウ・クロバと申します。よろしくお願いします」
スキル礼儀作法を発動し、礼を取る。
二人以外のガイア組が驚いていたが、俺の敬語はそんなにおかしいだろうか?
顔を上げると、ベンジャミンも何やら驚いていた。
それも驚愕というかんじだ。
なんだ?
「あなたは…いえやめておきましょう」
なんだというんだ?
俺は何かしてしまったのだろうか?
まぁ別にいいが。
それにしてもこのベンジャミンと言う男、強いな。
おそらく俺と同等か、だが何か不思議な気配も感じる。
「ベンジャミン君はこの春から七星剣入りをした期待の新人だ。お前たちなら滅多なことはないと思うが、頼んだぞシュウ」
「かしこまりました」
「うむ」
ラッセン辺境伯が笑いを堪えるようにしている。
なぜだ。
エルーシャにいたっては堪えきれずに吹き出して、顔を背けている。
他のメンツも面白そうにしているし、ララだけが顔を輝かせている。
それはそれでおかしいと思うが。
「お待ちください、ラッセン辺境伯。その言い方ではまるでベンジャミン様がこの者に力で劣ると申しているようではないですか」
「トマス」
「僭越ながらベンジャミン様はあなた様がおっしゃったとおり七星剣となられるほどの腕をお持ちです。地竜を討ったからといってこの者より弱いなどということは有り得ません」
「ほう?」
「いえ、私から見てもシュウさんは私と同等かもしくはそれ以上の力を持っています。従者が失礼を申しました」
「いえ」
「ベンジャミン様!」
この従者の青年はベンジャミンのことをとても慕っているようだ。
主を馬鹿にされて気がたっているのだろう。
辺境伯はその態度を微笑ましく見ているし、ベンは少し恥ずかしそうにしている。
しかしここで口を挟む奴がいた。
「それは面白いな」
「は?」
「ベンジャミン、お前さえよければだが、少しシュウと手合わせしてみたらどうだ?」
「手合わせですか?」
「そうだ。俺も見てみたいと思っていたんだよ。その歳にして七星剣へと上り詰め『天剣』と呼ばれるお前の剣と、地竜を両断したこいつの刀。果たしてどちらが強いのか?」
「「…」」
何やら変なことになってきたぞ。
どうしてこうなった?
やれと言われればやるが、しかしこいつ相手だと…
「グラハム殿、お戯れが過ぎます。ここでシュウとベンジャミン殿が手合わせをしたところで双方にはなんのメリットもありません。あなたが喜ぶだけではないですか」
「うっ」
ラッセン辺境伯が諫めるように眉を寄せると、さすがのグラハムもひるんだようだ。
そんなグラハムに苦笑し、しかし冷静にベンジャミンが言葉を繋ぐ。
「いえ、やめておきましょう」
「ほう?」
「彼と私が本気でやり合うのならそれは、命を賭けた戦いとなりましょう。どちらにも手加減する余裕などなく、どちらかあるいは二人とも命を落とすことになりましょう」
俺もそう感じていた。
だがその言葉に他のメンツは驚いたようだ。
俺も驚いている。ここまで正確に自分と相手の力量を把握するとは。
それにこれほどの力を有していながら、俺と違って天狗になっていない。
目標にせねば。
「残念だが、そういうことならやめておこう。貴重な新芽をそんなことで潰してしまってはいかんからな。さて、それでは本題に入ろうか。調査にはいつ行く?」
「私は明日でも構いませんが…」
「私も大丈夫でございます。しかし、ベンジャミン様はお疲れではないのですか?」
「…ここに来るまでも十分な休養は摂って進みましたので大丈夫ですよ」
「かしこまりました。それではまた明日の朝に伺います」
「ギルドで手続きはしておく。ベンジャミン、よろしく頼むぞ」
「はいグラハムさん」
辺境伯の顔色をうかがいながらグラハムが口を開く。
どうやら顔見知りのようで二人とも親しい者に当てた口調だ。
俺は一礼して退室する。
スキルを発動していたので変に疲れるということはなかったが、どうにもこの部屋の空気は俺と合わない気がする。
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宿に戻った俺はさっきまで会っていた人物を思い出す。
なぜかはわからない。
だが、ベンジャミンからはどこか懐かしい感じがした。
彼とはうまくやっていきたいと思っている自分がいるのに驚いた。
あの時視たステータスを思い出す。
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ベンジャミン・ハイリッヒ・フォン・シュレルン 17歳 男
種族:人族
HP:11000
MP:7500
魔法属性:空間
<スキル>
格闘術、剣術、弓術、
空間属性魔法、精霊魔法
馬術、身体強化、跳躍、並行思考、魔力制御、HP回復速度上昇、MP回復速度上昇
礼儀作法、鷹の目、空間感知
<ユニークスキル>
精霊眼
<称号>
「空間を超えし者」、「精霊を視る者」、「精霊の友」、「妖精の友」、「ゴブリンの天敵」、「暗殺者」、「巨人殺し」、「迷宮踏破者」、「天剣」、「七星剣」
<加護>
「創造神の加護」、「生と娯楽を司る神の加護」、「愛と美を司る神の加護」、「戦と武を司る神の加護」、「精霊王の加護」、「妖精女王の加護」
―・―・―・―・―・―
あいつは自分とやり合えばどちらかが死ぬと言っていたが、死ぬのはおそらく俺だろう。
実際戦ってみなければわからないが、今やって勝てるとは思わない。
ステータスで負け、空間魔法を使う。
調べてみたが空間魔法は個人魔法に分類される。
使えるものはこの大陸に5人もいないということだ。
だが、空間魔法はマジックバッグ製作や、そのほか様々なところで需要があるために空間魔法が使えるというだけで将来に困ることはない。
ただし、どうやら空間魔法を使えると騒ぎになるために隠しているものも多いとのこと。
彼がどちらかはわからないが、言わない方がいいだろう。
―・―・―・―・―・―
トマス・ビヤンネートル 21歳 男
種族:人族
HP:500
MP:300
魔法属性:風
<スキル>
風属性魔法
馬術、跳躍、索敵、看破、危機察知
罠解除、罠設置、
礼儀作法、掃除、料理、洗濯
<称号>
「ベンジャミンの従者」、「絶対服従」、「迷宮踏破者」
<加護>
「愛と美を司る神の加護」
―・―・―・―・―・―
トマスの方は騎士ではなくそのまま従者だったようだ。
魔法が少し使える程度で戦闘能力はなさそうだ。
ただ、戦闘以外はだいたいできるといった感じで家に一人いたら便利だろうな。
今日の感じからすると、貴族と平民の身分にこだわりがあるというよりベンジャミンとそれ以外に差があるという感じだった。
まぁ悪い奴ではなさそうだったし大丈夫だろう。
俺は装備の確認をし、明日に備えて早めに寝ることにした。
もちろん夕食は忘れていない。
第二章が終わりましたらベンジャミンを主人公とした話を投稿し始める予定です。




