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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第十章 海の底の楽園「竜宮城と人魚姫」編
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第226ページ vsオルケアニス号

目の前に浮かぶ幽霊船。

俺も乗ったことのあるその甲板には、やはり見覚えのある骸骨がいつもの笑みを浮かべていた。

実際は、笑っていると感じるだけだが。


「やぁ、友よ」

「ああ、キャプテン」


いつもと変わらない言葉。


「一応聞いておこうか、何故だ?」

「友よ、わかっているだろう?」

「…馬鹿が」


苛立ち混じりの呟きに返って来たのはやはりいつもの笑み。

ただし、そこには自嘲と悔恨が含まれていた。


「どうにもならないのか?」

「我らは既に摂理より離れた存在。どうにもならぬよ」


話は終わりだと言うように、キャプテンは右腕を振る。

細剣型の義手についていた鞘が外れ、その曇りのない刀身が姿を見せる。

マントを払い、腰に差していた物を抜いた。

それはフリントロック式のピストル。

大砲を扱っていることから持っているとは思っていたが、やはりあったようだ。


「我らは海の覇者!世界の海を制覇し!女神にその身を捧げし者!」


義手を振り上げ、宣言するかのように言う。

背後のスケルトン達が各々の武器を取り出した。


「眼前に在るは稀代の英雄!海魔を屠り、我らと友誼を結びし強敵(とも)!されど我等が道はここに違えた!故に!彼の英雄は我らが乗り越える荒波である!進めよ同志!今ここに我らが生き様を示せ!」


声帯の存在しないスケルトンの雄たけびが聞こえるようだった。

それぞれの武器を高く掲げ、戦意を表すその様子はなんとも言えぬ感情を俺の胸に湧きあがらせる。


「砲門用意!!」


キャプテンの号令に従い、甲板の大砲がこちらを向く。


「放てぇぇぇ!!」

「アステール!」

「グルゥ!」


矢継ぎ早に放たれる砲弾を大きく回避する。

船の横に回れば今度は両舷の大砲に照準を合わされるため回避方向は上だ。


だが、俺たちに当たらなかったからと砲弾はそこで止まるわけではない。

回避された砲弾がアトランティカへと飛んでいく。


「チッ!!」


マーリンさんがあの女の相手をしている以上、あれを防げるだけの力量を持った者はあの国にいない。

放置することなどできるわけもなく、一度は回避した砲弾の前に俺たちは再度回り込む。


「ウォーターウォール!」

「アイスコフィン!」


海水を固め、壁とするがそれだけで受け止めきれるほど柔い攻撃ではなく、壁に当たり砲弾が停止した一瞬で、回りの海水ごと氷の棺に閉じ込める。


「手を休ませるな!次弾装填急げ!」


甲板からの指示に応え、スケルトンたちが忙しなく動き回る。


「撃たせると思うな!アステール!!」

「グルルルゥ!」


俺の言葉を受け、アステールがその身を縮め、まるで弾丸のように水を切って進む。

一瞬後には幽霊船へと辿り着いた俺たちは、船の上で二手に分かれ甲板へと降り立つ。

同時に、甲板で大砲の準備をしていたスケルトン達を切り捨てる。

頭だけが転がってもカタカタと顎を鳴らしている様子はなかなかホラーだ。


斬鬼を抜き放ち、大砲を切断する。

俺たちが船上にいる今、この船に乗っている者たちがアトランティカに砲撃をするとは思わないが、念の為と水の刃を飛ばし俺が降り立った方の大砲は潰しておく。もう一方と船内はアステールに任せよう。


「シッ」


後ろから飛びかかってきたスケルトン三体を切り捨てる。

と、スケルトン達の隙間を通り、赤い色が突撃してきた。


ガキンと音が鳴る。

斬鬼と細剣が打ち合わされる音だ。


「同志よ、下がれ!我が相手をする!」


キャプテンの言葉に従い、周りを囲んでいたスケルトン達はぞろぞろと後ろへ向かった。

おそらくはアステールの方へ行ったのだろう。

そっちは任せたぞ。


「一騎打ちといこう、友よ」

「…ああ」


清々しさを感じるキャプテンの声にうなずく。

ここで断るという選択肢は持てない。


キャプテンが走り出す。

俺も同時に前へ出る。

剣と刀が打ち合わされ、キャプテンの短銃が火を噴く。

銃弾を避け、返す刃でキャプテンの手を狙う。


ただし、そこで想定外のことが起こった。


「急浮上!オルケアニス号、全速前進!!」


突然キャプテンが指示を出したかと思えば、幽霊船が勝手に海上へと進んでいく。


「ぐっ!?」


急激な水圧の変化に内臓が悲鳴を上げる。

加護とスキルの力があるからこの程度で済んでいるが、なかったら即死だろう。


「すまない、友よ」


悔しそうにキャプテンが言う。

その言葉から、この指示がキャプテンの意に沿わないものだとわかった。


「グルッ!?」


後方からアステールの悲鳴が聞こえる。

俺のスキルの恩恵を受けているとはいえ、その効果は俺よりも少ない。

何か悪影響があったのだろう。

それがわかっていても、俺は動くことができなかった。


俺自身にかかる負荷もある。

そして何より、目の前の男が俺をここに留める。


先ほどまでとは違う、深く昏い眼窩がこちらを見ていた。

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