第223ページ アステールvsセーズ
「これは早く終わらせないといけないな」
一瞬にして炭にされたサーペントを見やり呟く。
あの攻撃を見る限り手加減が苦手だというのは本当なのだろう。
あの精度で魔法を使い威力まで調整するのはなかなか難しそうだ。
「さて、やるか」
「ひっ!?セ、セーズ!」
ムーレミアの呼びかけに応えるように俺達の背後から攻撃が降ってくる。
だが、アステールも気付いていたようで問題なく回避。
後ろを振り向いてもそこには何も見えないがいることはわかっている。
視界を換え、温度を見ても見えない。
「見事だな」
「グル」
確実に何かがいる。
しかしそこには何もいない。
おそらくはイカの類だろう見事な擬態能力だ。
身体を背景に溶け込ませるだけでなく自らの体温まで同化させている。
これを見破るのは至難の業だろう。
ただし、俺を除いて。
魔力も完全に抑えているようでもはや目だけではお手上げだ。
俺の能力が目だけだったならば。
残念ながら初めから俺の脳内マップには赤の光点が表示されている。
更に言えば、動いていない時は完璧に見えないのだが動く時はどうしても水が揺らめく。
どこにいるのか、どう動いたのか、それがわかれば攻撃を避けることは容易い。
「アステール頼んでいいか?」
「グル」
力強く頷いたアステールに後を任せ俺はムーレミアへと向き合う。
従魔契約により俺のスキルの恩恵を受けることのできるアステールには、完全なマップとはいかないまでも相手の居所くらいは把握できているのだろう。
それさえわかっているならばアステールにとって姿が見えないだけの相手など敵には成りえない。
後ろを気にする必要はない。
「始めようか」
深海の昏さと合わさり刀身が見えづらくなっている斬鬼の切っ先をムーレミアへと向ける。
殺すなと言われているが、足の一本や二本や八本は切断させてもらおう。
蛸なら生えてくるだろ。
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シュウから正体不明の見えない敵を任されたアステールであったが、実はシュウが思っている程余裕があったわけではなかった。
通常敵の姿が見えず気配も感じられないというのはそれだけで脅威なのだ。
ある程度の居場所がわかっているとはいえ、今現在相手の姿もわかっていない。
迂闊に攻撃する事で相手の挙動を悟る術を失うわけにもいかない。
故にアステールは待つことにした。
敵が攻撃してくるその瞬間を待ちカウンターを入れる。
それだけに全神経を集中する。
それは狩りを行う際に獣が息を潜めその時をじっと待つ行為に似ていた。
ただしアステールにとって息を潜め機会を待つという行為は初めてであった。
ブラックヒッポグリフという神の馬車を牽くとまで呼ばれる生態系における最高位、成体となれば生物の頂点ドラゴンとも対等に渡り合うという種族であったが故に、アステールは狩りで困るようなこともなく自らが持つ力だけで解決できていた。
しかし、深淵の森にて自らが敵わない存在と出会い、シュウに助け合いその戦いを見ていくうちに、自分が力を正しく使えていないことに気付いた。
シュウは基本的に力押しの戦法ではあるが、その真価は技の記憶と昇華、そしてそれすらにも囚われない最適化にある。
そのとき最も適している行動を。
言葉にすれば簡単であるが、戦闘においてそれを一つのミスもなく行うことがどれほど難しいか。
ましてや相手が強敵になればなるほど尚更だ。
だがシュウは、それを行う。
自らの美学に合う最も適した行動を。
それは速さを追求したものか、楽さを追求したものか、享楽を追求したものか。
一番近くでシュウの戦い方を見ていたアステールは、自身の力を効率的に使う方法を学んだ。
その結果として、今のアステールは戦い方にこだわらない。
王者として堂々と戦うだけでなく、最も効率の良い戦い方を選択する。
今回の場合はその人に並ぶ程の頭脳すべてを遮断し、己の感覚のみを研ぎ澄ませること。
アステールは目を閉じ、体が感じる水流のみに意識を乗せる。
もしアステールがユニークスキル<天の声>を習得していたなら声を聴いただろう。
《ユニークスキル「超感覚」を習得しました》と。
極限まで集中したアステールは、自らを攻撃しようとする意志を感知した。
次いで、感じたのは不自然に動く水流。
集中する前でさえ、避けることなら可能であった攻撃。
集中し、<超感覚>を覚えた今となっては目を閉じてなお相手が見えていた。
いや、目を閉じているからこそ見えていたというべきか。
敵の攻撃を難なく回避したアステールは、その触手を自らの爪で切り裂く。
触手の一本を切ったところでダメージとならぬことがわかっていたアステールはその触手が伸びてきている本体に向け、翼をはためかせ風を起こす。
水中で起こされた風はアステールの魔力が乗った風魔法となり、周囲の水をまきこみ竜巻となってセーズを閉じ込めた。
場所を固定してしまえば集中する必要もないと、目を開いたアステールは風によって一つところにじっとしていられなくなったセーズの擬態が解けていく様を見た。
インビジブルスクイッドと呼ばれこの世界で最高の擬態能力を持つと呼ばれる魔物を視界に収め、このまま倒していいのかと少し疑問に思ったが、シュウの視線がこちらに向いていることに気付き、この魔物は既に用済みであると判断した。
海底を蹴り、自らに風を纏わせ一本の槍となったアステールがセージを貫き、その魔石を咬み砕いた。
くぐもった音を立てながらセージの意識は喪われていきやがてその命が消えたあとに残ったのは巨大なイカの死体であった。
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《スキル「集中」を習得しました》
《ユニークスキル「超感覚」を習得しました》
《条件を満たしましたのでユニークスキル「全知眼」、ユニークスキル「超感覚」が統合されオリジンスキル「全知」を習得しました》
《称号「全てを………エラーが発生しました》
《条件を満たしていません。オリジンスキル「全知」がロックされました》
《称号「逸脱者」が変質します》
《称号「我が道を往く」を獲得しました》
《ログを確認。オリジンスキル「全知」のロックが部分的に解除されました》
《スキル「擬態」を習得しました》
《スキル「気配遮断」を習得しました》
《スキル「光線反射」を習得しました》
《条件を満たしましたのでスキル「擬態」「気配遮断」「光線反射」が統合されユニークスキル「存在消去」を習得しました》
《称号「存在しない存在」を獲得しました》
「ぐっ」
頭に響く声と同時に自分の中の何かが変わるような感覚を味わい一瞬の激痛が走る。
「魔法」を習得したときもそうであったからオリジンスキルの習得とはこういうことなのかもしれない。
痛みに耐えムーレミアに向き直ると、茫然とした様子でアステールが戦っていた場所を見ていた。
と、ふいに勝鬨が聞こえ、そちらを見るともう一体いたサーペントも兵たちの手により無事討伐されたようだ。
ムーレミアは理解できない、いやしたくないといった様子で頭を振り、蛇と化している髪をぐしゃぐしゃと乱暴に掻き毟る。
「あり得ないあり得ないあり得ない!そんなことあるわけない!私が女王なのよ!」
悲痛さを感じさせる叫びに哀れみを抱き、せめて一瞬で終わらせるべきではないかと俺は斬鬼を鞘に納める。
「お待ちください!」
後ろから聞こえてきた声に振り向けば、この国の現女王とその側近たちが勢いよく泳いでくるところだった。
黒葉周 19歳 男
種族:半?半?人
冒険者ランク:S
HP:11200
MP:∞
魔法属性:全
<スキル>
格闘術、剣術、槍術、棒術、弓術、刀術、棍術、投躑術、暗器術、斧術
身体強化、完全回復
馬術、水中行動、天足、解体、覇気、看破、隠形、危機察知、魅了、罠解除、指揮、並列思考、変則剣技、四足機動
耐魅了、耐誘惑、耐幻惑、恒温体
礼儀作法、料理、舞踊
<ユニークスキル>
天衣模倣、完全なる完結、識図展開、天の声、竜の化身、万有力引、千変万化、優しき死者達、天は我が手に、存在消去(new)
<オリジンスキル>
魔法、全知(new)
<称号>
「知を盗む者」、「異世界からの来訪者」、「武を極めし者」、「竜殺し」、「下克上」、「解体人」、「誘惑を乗り越えし者」、「美学に殉ず者」、「魔の源を納めし者」、「全能へと至る者」、「人馬一体」、「無比なる測量士」、「翼無き飛行者」、「竜の友」、「破壊神の敵」、「半竜」、「湯治場の守護者」、「妖精の友」、「底なしの動力源」、「戦闘狂」、「深淵へ至りし者」、「神の???」、「人を辞めし者」、「奔放不羈」、「千の貌」、「憤怒を乗り越えし者」、「死者を悼む者」、「魔工匠」、「蛸殺し」、「海賊王の友」、「南港の救世主」、「水蛇の契約者」、「天を統べし者」、「全てを…???」(new)、「我が道を往く」(new)、「存在しない存在」(new)
<加護>
「??神の加護」、「創造神の加護」、「破壊神の興味」、「戦と武を司る神の加護」、「知と魔を司る神の加護」、「生と娯楽を司る神の加護」、「死と眠りを司る神の加護」、「大海と天候の神の加護」、「鍛冶と酒の神の加護」、「炎竜王の加護」、「妖精女王の加護」




