第218ページ 海底国遊覧
深海の王国アトランティカは、元々きちんとした国ではなかった為に区画整理などはできていないようだ。
というよりもほぼ全ての建物が住居兼何かとなっている。
店だったり工房だったりいろいろではあるが、よく需要と供給が成り立っているな。
「適当に回るかアステール」
「クルゥ」
キャプテンは竜宮城で過ごすそうなので今日は俺達二人だけだ。
随分と久しぶりな気がするが、アステールと二人ということは食べ歩きだな。
食べ物以外でも海上にはない掘り出し物なんかがあるといいんだが。
「おう兄ちゃん見ない顔だな!こりゃ珍しい!人族か!?」
「一応そのつもりだ。親父さんこれはなんだ?」
「これか?ははぁ地上にはねぇのかな?これはムシュシュフさ」
魚人の男が売っていたのは見たことのない巻貝。
ただ、中身は違っており貝ごとに様々な色のクリームが入っている。
「ほらよ。一個サービスしてやるから食べてみな」
「いいのか?」
「いいさ。外からの客なんて初めてだからな!」
礼を言い一緒に渡されたスプーンのようなものでクリームを口に含む。
舌が冷たさを感じ、口の中に甘味が広がる。
「これはソフトクリームみたいだな…」
「おお!さすが地上人!ソフトクリームを知っているのか!ムシュシュフは前に来た人族が作ってくれたっていうソフトクリームを再現して作られたもんさ」
ソフトクリームというよりは液体に近いと思うが、確かに似ていると感じた。
例の錬金術師は色んなものを広めているな。
それを再現しようと頑張ったこの国の人たちも凄いと思うが。
色によって味が違うというそれを全色4つずつ買い、俺達はその店を後にする。
その後も色んな店を見て回るが、地上とは違った店ばかりで飽きない。
俺の知っているものに似ているものもあれば全く知らない未知な物もあった。
お馴染みの水蜘蛛糸製の服。というよりは水着か。
この国できちんとした服を着ているのは竜宮城にいた人々くらいだ。
それも極薄の肌が透けて見える衣裳ではあった。
ただ城以外の人々は下半身に布を纏っているだけで男性は上半身裸。
女性はそれにプラスして胸を隠している程度だ。
人魚種は下半身が魚である為何も着けていない。
偶に装飾品を着けている人もいるが、サンゴや貝で作られたアクセサリーではなく金属製のアクセサリーは値が張るようでほとんど見られない。
それに比べ海産物を用いて作られた物は安い。
既に出回っている物が多いということもあるがこれでいいのかというくらいに安い。
城を出る前に地上の金をアトランティカ貨幣に換えてもらったんだが少し換えすぎたかもしれない。
アトランティカの貨幣は金属ではなく鱗を加工したものだ。
何の鱗か気になり鑑定したところ水竜の鱗であることがわかり驚いた。
この鱗自体が地上ではかなりの金額になるのではないだろうか。
ここと地上との価値観の差はどうしようもないな。
俺は知り合いのお土産にと海産物製のアクセサリーや食材を買っていく。
海中で作られた酒などは武具屋の親父さんやグラハムなんかにはいい土産になるだろう。
どうやって作られたのかは全く分からないが。
と昼過ぎになりそろそろ昼飯にしようと店を探しているところ。
俺の視界に見覚えのある姿が映しこまれた。
「おばさん、これとこれとこれ一つずつください!」
「あら姫様、また抜け出してきたのかい?怒られるよ~?」
「えへへ、だから内緒にしておいてくださいね!」
「しょうがない姫様だねぇ。はいよ、おまけにこれも付けとくからなるべく早く帰るんだよ」
「やった!ありがとうおばさん!」
店員から商品を受け取った人魚がこちらを向く。
目が合った瞬間、彼女は面白い程狼狽し始めた。
「こ、こんにちは、クロバ殿」
「はいこんにちは。それで何をなさっているのですか、女王陛下?」
この国の女王はおろおろと周囲を見回し肩を落としたあと困り顔でにへらと笑った。




