第217ページ 海底食事
人魚姫との夕食は特に問題なく終了した。
公式な謁見とは違い、人魚姫が失言をしてもそこまで責められることもなく、俺としても別に他国からの正式な使者というわけでもないただの冒険者だ。
あまり緊張されても困る為、そちらの方がいい。
夕食は終始人魚姫からの質問攻めだった。
ほとんどキャプテンが話してくれたが、俺達がクラーケンを倒した話をすると興奮して身を乗り出していた。
それに対し後ろに控えていた魚人や人魚たちが微笑んでいたことを見るに、女王として振舞って貰わなければならないと思いつつ、家臣たちもまだ姫として見ているのだろう。
彼女が見ているところではそんな空気を出さないが、内心では姫としての振る舞いを無理もないと思っていそうだ。
彼らにもいきなり女王となってしまった人魚姫に思うところがあるのだろう。
キャプテンの壮大な冒険話が終わると当然話はこちらに移った。
ここ最近の話をしていったのだが、自分で話していて何故こうもトラブルばかりなのか疑問だ。
俺が異世界人であることまで話してしまうと地球の話まで聞かれそうなのでそこには触れず、しかし王国の内情もどこまで話していいのか分からない為ぼかしながらとなかなか難しい作業ではあった。
だがしかし、この夕食で俺の一番の興味はもちろん料理だった。
深海という環境で一体どんなものがでてくるのか。
正解は絶品の魚介料理であった。
貝や海藻をふんだん使ったスープとサラダ。
向こうが透けて見える程薄く切られた白身魚の刺身。
牛肉を食べているかのような肉厚と油を持った深海魚のステーキ。
デザートは何かの卵なのか甘味が強くとろりとした触感をしたものだった。
まさに至福の時間だったと言えるだろう。
あ、キャプテンも問題なく食べていたぞ。
ところでこの国、宿屋がないそうだ。
外部から訪れる者などほとんどおらず、需要がないからな。
その為、一般には誰かの家に泊めてやるそうだが、俺の場合はこの城で世話になることになった。
いつのまにかそういうことになっていた。
「それでキャプテン、俺達はいつまでここにいるんだ?」
「さて、その時が来るまでさ」
「その時?…なぁ、どうして俺をここに連れてきた?」
「今にわかる。我が友ならやってくれると信じているよ」
夕食を終え自室へと戻る際、キャプテンとそんな言葉を交わす。
この言葉の意味を知ることになるのは、これから三日後であった。
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翌日。
目覚めた俺が自室から出るとちょうど呼びに来ていたメイドに朝食の準備ができていることを知らされた。
人魚姫は既に朝食を終えたそうで、キャプテンと二人だ。
アステールにも量多めで準備されておりとても喜んでいた。
アステールは基本的に俺に与えられた部屋で待機なのだが、食事の時は一緒にとなっている。
ヒッポカンポス用の厩舎では落ち着かないだろうという配慮だった。
「それでクロバ殿、本日はどうなされますか?」
「うん?ああ、少しこの国を見てみたいのですが構いませんか?」
「勿論ですとも。案内をお付けしましょうか?」
「いいえ、適当に見て周りますのでお気になさらず」
「左様ですか」
人魚姫の代わりに俺らの相手をしてくれたのは宰相のトルーマン。
最初の謁見で発言していた初老の男性だ。
案内というのがそのままの意味か俺の見張りも兼ねているのか。
それはわからなかったが俺は自由に見てみたいし、この城は国の丁度中心。
迷うこともないので案内は不要と言った。
朝食を終え、宣言通り俺は国を見る為に城を出る。
一日で周り切れるかは微妙なところだが、まぁ別に何日かに分けても構わない。
適当に見て周るとしよう。




