第209ページ 女神の泣く島
満月の灯りに照らされた甲板へと降り立つ。
スケルトン達がカタカタと顎を鳴らし歓迎の意を表してくれるのに苦笑していると、いつも通りの赤マントを付けたキャプテンが現れた。
「少し早かったか、友よ?」
「いや、いいさ」
あれ以上いたら別れが寂しくなってしまう。
ちょうどよかったと言えるだろう。
ちらりと後ろを見ると二つの影がまだ見えた。
船が去るまで見送ってくれるつもりなのか。
俺は頭を振って話を変える。
「それでこれからどこに連れて行ってくれるんだ?」
「生前の我等の本拠地である島。現在もそこの入江にいることが多い。無人島だ」
「ほう?」
「それでは行くぞ友よ。取舵いっぱーい!!」
船が旋回し動き出す。
霧に包まれ、船はゆっくりと北に向かって進み始めた。
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一瞬の後、霧が晴れると風景が一新していた。
後ろを振り向いてもそこに港は見えず、目の前には島がある。
おそらくここが目的の島だったんだろうがなんか納得いかない。
「キャプテン、この船は転移ができるのか?」
「我も詳しくはわからぬがあの霧の能力だな。女神の恩恵だ」
あの霧はスケルトンとして生き返った時に女神がくれた力ということか…
便利な力ではあるがどうだろうな。
蘇らされた恩恵と言えるのかどうか。
本人が良いみたいだから何も言わないが。
船はそのまま進み島の裏に回ると海から水流が続き島内部へと入れるようになっていた。
おそらくここら辺は海水であろうから川と呼んでいいのかは知らない。
その水流を進んでいくと、洞窟のようになっていた。
大型帆船が余裕で入れる広さである為かなり広い。
そして最終到達地。
そこは洞窟の上部が吹き抜けとなりそこから月明かりが射しこんでいた。
エメラルド色の水が反射した湖のような幻想的な美しい場所。
「ようこそ、我らが秘密の場所。女神の泣く島へ」
女神の泣く島…ということはここが、キャプテン・ショーンがその一度目の人生を終えた島か。
そこを未だにアジトとして使っているのか…
だがこの神秘的な光景を見てしまうと、その気持ちもわからなくない。
試しに眼を変えると、水の精霊達が踊るようにしているのが視えた。
ここは魔力が豊富で、彼女らにとってとても心地よい場所なのだろう。
「友よ、あそこが見えるか?」
キャプテンが指す場所は陸地へとつながっているのだろう洞窟の出口。
いや入り口と言うべきなのか。
本来ここは裏口のはずだ。
「あれが?」
「あそこから外へ出て山の頂上に行くと良い。そこにいいものがあるだろう」
「いいもの?」
聞き返してみたがキャプテンは笑うだけで答えてくれなかった。
どうでもいいが笑う骸骨というのは怖いな。
ジャックの時にも思ったが。
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「邪魔だ!」
「キキッ」
洞窟をアステールと遡っている俺達だが、住処を荒らされたと思っている魔物達が襲ってくる。
ブルーバットとかいうランクEの雑魚だが、こうも数が多いとめんどくさい。
洞窟が以外と狭くなっていっている為にアステールが自在に動けないというのも大きい。
双月でぶった切るのもそろそろめんどくさくなった為焼き払おうかと思ったが、そんなことすれば臭くなりそうだ。
「空間魔法が使えれば楽だったんだが…仕方ないな。押し流そう」
下手をすれば自分も巻き込まれそうだが、まぁ問題ないだろう。
そう考えて双月を両手で振るいながら魔法を構築する。
思い描くは水流。
ただの流れだ。
ただし、激流だが。
「外まで流れろ!」
俺の前方から激流が現れブルーバット達を押し流す。
あいつらは水属性の魔物だから大した攻撃にはならないが、問題はそこではない。
バット達が押し流された間にこの洞窟を抜ければいいのだ。
ブルブルブルッ
「…おいアステール」
「クル?」
「…いやいい」
さて、とりあえず走るか。
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「ふぅ。ようやく抜けたな」
「クル」
洞窟を抜けた俺達は案の定ダメージをあまりくらっていなかったバット達に囲まれたが、アステールに乗って飛翔。
全力で飛ぶアステールにただのブルーバットが追いつけるはずもない。
「アステール、このまま頂上まで飛んでくれ」
「クルゥ」
といってもそこまで高い山というわけではない。
すぐに頂上へと辿り着くと、そこには何やら祭壇のようなものがあった。
「これがキャプテンの言っていたいいものか?」
一瞬女神の祭壇かと思ったがどうやらそうではない。
これは女神ではなく水の精霊を祀ったもののようだ。
「これは…」
祭壇に置かれている水晶に触れる。
『汝、契約を望む者なりや?』
静寂を裂くように声が響いた。




