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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第十章 海の底の楽園「竜宮城と人魚姫」編
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第208ページ 港町出立

キリが悪くなったので途中できりました。

短めです。

「やっぱ強ぇなぁお前!」

「ぐほっ」


魔法を解除し手を差し出して起こしてやると悔し紛れなのかビクターが言いながら背をはたいてきた。

肋骨が折れたかと思ったぞ。


「二人とも見事じゃった」

「儂は正直何が何だか…」

「私もです」

「もちろん私も」


見学していた四人がそんなことを言いながら近づいてくる。

俺とビクターの模擬戦がここまで遅くなったのはこいつらのせいだ。

是非見学をと言っていたくせにクラーケン討伐後こいつらはそれぞれの事情で大忙しだった。

やっと時間が取れたのが今日。

満月の日だ。


つまり今夜、俺はこの町を立つ。

本当にギリギリだったのだ。


歩いて止めてあった馬車へと向かいながら皆と話す。


「ところでシュウ君、今夜出たらもうこの町には戻らないのかね?」

「そのつもりです。この5日間でこの町は堪能しましたからね。魚だけはよろしく頼みますよ?」

「そうか…いや、それはもちろんわかっているのだがね。君がこのままこの町にいてくれればと思ったんだが…」

「何かあればまた声をおかけください。ポストも届いている筈なので」

「そうか!それは嬉しいの!」


何故あんたが喜ぶんだ爺さん。

暇だからとかいう理由で王都まで呼んだりするんじゃないぞ?


「シュウ、世話になった」

「仕事だ。問題ない」

「それでもだ。感謝する」


オルフォー組長が足を止めて頭を下げてくる。

それに倣うかのように辺境伯とハリマールギルド長も頭を下げる。

その様子を、爺さんが微笑んでビクターがニヤニヤと見ている。


「礼の言葉はもう十分受け取った」


この5日間は毎夜宴のようにどんちゃん騒ぎだったんだからな。

俺はそう言って、くるりと踵を返し歩き始めた。


---


その日の夜。

満月が天辺へと登る前に俺は港へと来ていた。

別れは既に済ませた為見送りは断った筈なのにそこにはダンとカイリの姿が。


「見送りはいらないと言わなかったか?」

「悪いな、こいつが行くと聞かんで」


ダンが傍らに立つカイリを見ながら言う。

俺もそちらに視線を向けると、いつもの元気な様子ではなく俯いて軽く肩が震えているのがわかる。


「クル」

「…時間のようだな」


アステールに促されそちらを見ると、沖合に霧が現れていた。

霧中には幽霊船がいることだろう。


「ほら」


ダンがカイリを軽くこちらに押す。

意を決したように顔を上げたカイリの瞳には大粒の涙が浮かび、顔を赤くしていた。


「父ちゃんの仇を討ってくれてありがとな!」

「ああ」

「ま、また来いよ」

「ああ、わかったよ」


俺が笑って頭を撫でてやると耐えきれなくなったのか涙が瞳からこぼれおちる。

一度こぼれると止められなくなってしまったようで、次から次へと流れおちていく。


「お、俺!ひっく、ぜ、絶対漁師になるから!ひっく、そしたらー!シュウのお嫁さんになってやるから!!」

「はぁ?」

「がっはっはは!そいつはいい!」


泣きながら言われたことに驚いていると、ダンが大笑いして肯定してしまった。


「カイリはあいつの大切な忘れ形見だが、お前ならくれてやる」

「まったく…」


俺は呆れながら膝をつき、カイリと目線を合わせる。

頭にポンと手を置いてやると、泣くのを必死にこらえてこちらを見た。


「ありがとうカイリ。だが、俺は今のところ誰とも結婚するつもりはない。悪いな」


俺がそう言うと、悔しそうに顔を歪めた後俯いてしまう。


「お、おい…子どもの言うことだぞ?何もそんなに真剣に返さなくても」

「子どもだろうとレディだよ。真剣に言われたなら真剣に返すのが俺の美学だ」


ダンは呆れたように首を振るがこればかりは譲れない。

結婚する気もないのに変な約束をしてカイリの恋愛の機会を潰すわけにはいかないだろう。


「またな」

「…また来いよな」


俺が立ち上がりながら声をかけると、少し怒ったような、だがしっかりとした声が返って来た。

二人に見送られながらアステールに乗り沖へと飛び立つ。


ぼろぼろのマストがゆらゆらと揺れ、俺達を待っていた。

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