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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第九章 荒れる海と幽霊船「曇天の港町」編
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裏話 作戦の結果

「あーーーー!!」


薄暗い城内に、少年の声が響き渡る。

昼過ぎのこの時間、城内にて職務に従事していたほとんどが彼の声を聞き、その内の何人かは何事かと少年の下へと走った。


「クーストス卿、何事ですか!?」

「オクたんがやられちゃった…」


部屋に飛び込んだ男が見たのは膝を抱えてどんよりと座っている少年の姿。

もちろんその少年が自らよりも年上であることは知っているが、それでも保護欲をそそられる姿に男は困ったように眉を下げる。


「オクたんというと例の?」

「そう。クラーケンのオクたん…」


男はクーストスの部下という立場にあるが、クーストスが何をしているのかはほとんど知らない。

彼自身はこの城から出ることが稀であり、彼が自身の能力により従魔としている者たちを操って魔大陸の外でまで活動しているからである。


だがその中で、先日の王国襲撃、その内の南の辺境襲撃をクーストスが担っていたことは知っている。

魔大陸側にいる魔物に南の辺境を襲わせる計画であり、うまくいかなかったと聞いている。


が、彼の計画はそこで終わりではなかった。


襲撃に向かわせた魔物とは別に、密かに自身が契約している中でもかなりの力を持つクラーケンを南の辺境へと向かわせていた。

直接の破壊行動ではなくトウナール付近に待機し、通りかかった船を破壊しろという命令を出して。

これによりトウナールでは漁業ができなくなり、経済が破綻。

王国の首をゆっくりと締めていく計画であった。


考えたのはクーストスではないが、流石のクラーケンには南の辺境の屈強な騎士団も手を出すことはできず、被害は甚大、計画は予定通り進んでいたと言える。


「あのクラーケンが…まさか討伐されたのですか?」

「そうだよ。やったのはまたあの冒険者さ」

「またもや…」


魔王軍の数々の計画を阻んできたあの冒険者。

その存在は魔王軍の一定以上の地位にある者全員に共有されていた。

男は知らず知らず拳を握る。


「あーあ!僕当分何もしないから」


クーストスは自身が可愛がっていた従魔を殺され拗ねているので仕事をしません。

そんな風に断れればどんなにいいか。

そう思いながらも、今は何も言わない方がいいだろうと判断した男は一礼して部屋を出ていく。


---


「クラーケンを討伐か…ますます危険な存在になっているな」

「如何いたしますか、魔王陛下?」


その言葉を聞き、魔王は考える。

この側近はおそらく自分よりよっぽどいい案が既にいくつか浮かんでいるだろう。

しかしそれを言ってきたりはしない。

あくまで魔王主体に事を進めようとしている。


「メーアの奪還計画はどうなっている?」

「……今ここでメーアを救おうと動くなら代わりに誰かを喪う惧れがあります。今はまだ待つときかと」

「わかった。勇者の動向は?」

「現在はまだ教国において力を付けている最中だということです」


いつも無表情なリンレの顔に僅かに動揺が走ったのを魔王は見逃さなかった。

いつの時代も魔王は勇者に斃されるものだ。

この副官はそれが心配なのだろうと察するが、言葉はかけない。

勇者に負けるとは思っていないが無駄な慰めを口にする必要はない。

もしもの時の覚悟は決めておいてもらわねばならないのだ。


「勇者の動向は引き続き監視を。動けば知らせてくれ」

「かしこまりました」


一礼して下がるリンレを見送りながら、魔王の頭にはこれからのことが浮かんでいた。

メーアと勇者の件が優先されることはわかっている。

しかし魔王はそれ以上に(くだん)の冒険者が気になって仕方なかった。


彼が異世界人であることは既に確信している。

召喚か転移かはわからないが間違いなくその力は魔族にとって脅威である。


ただ、魔王はその存在を不快には感じなかった。


「勇者か、冒険者か、はたまた別の何か(・・)か…この場に真っ先に辿り着くのは誰になるか」


そろそろビオの策が動き出す頃だ。

同時に王都の守りは手薄になるだろう。

レンリは口にしなかったがその時がメーア奪還の最大のチャンスになる。


「さてさて、あいつは動いてくれるかね?」


もしかすると魔王軍最強のやる気を引き出すのが一番難しい事案ではないかと、魔王は本気で考えていた。

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