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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第九章 荒れる海と幽霊船「曇天の港町」編
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第205ページ 水中戦の結末

「ダメか」


ほぼ無傷と言っていい状態のクラーケン。

むしろ猛烈な怒りによって多少のことでは動じなくなっただろう。


アステールに合図し幽霊船の近くへと向かう。


甘かったな。

水中戦闘というのを舐めていた。

行動ができたところで水があることに変わりはない。

最近では魔法のごり押しによって勝って来たようなところもある。

要反省だが、それは今じゃない。


「おお、友よ!」


いつから友になった。


「どうするキャプテン。自慢の砲撃は効かないようだが」

「うむ。まったく大した強敵よ!わっはっはは!」


笑いごとじゃないだろ…


「随分余裕だな」

「なに、このようなピンチ何度も乗り越えてきた。我はキャプテン。キャプテン・ショーンだ!放てぃ!」

「おい?」


砲撃は効かなかっただろうと言おうとした俺は途中で言葉を止める。

両舷の大砲から放たれたのは鉛玉ではなかった。

黒光りする大きな銛だ。


砲弾のように連発することはできないようだが、それでも十以上の銛がクラーケンへと降り注ぐ。

グォォォォォ!と先程よりも大きな呻き声が聞こえてきた。

クラーケンの身体の各所に銛が突き刺さっているのが見える。

さすがにこれは大打撃だったようだ。


「…似たようなことを考えていたとは」

「うん?なんだ、友よ」

「なんでもない。それより、俺もあいつに攻撃してもいいか?」

「…よかろう。本来ならばこれは我等の戦い。しかし、海の民を守る為に手を貸してくれるというのならば断ることなどできぬ。だが友よ、我等の砲撃は細かい調整など利かぬ。巻き込まれるなよ?」

「問題ない。アステール!」

「グルゥゥ!」


俺の声に答えアステールがクラーケンへと駆けだす。

ブラックヒッポグリフであるアステールが水中を駆けるというのはなんだか妙な光景である。

こんなところまで付いてきてくれる相棒に感謝を込めてその背を撫でるとアステールは気にするなと言わんばかりに更にスピードを上げた。


クラーケンはどこから出しているのか雄叫びをあげながら俺達に向かって巨大な足を延ばしてくる。

さすが水棲生物というべきか水の抵抗などまったく感じさせない勢いで迫る足。

まるで壁が迫ってくるようだ。


「だが残念だったな。そんな直線攻撃でアステールは捉えられん!」

「グル!」


当然だというようにアステールは軽々とそれを避ける。

同時に俺達の後ろから銛の雨が飛んでくるが俺と感覚を共有できるアステールがそれを避けるのは容易い。


俺達に迫っていた触手に深々と突き刺さるが、クラーケンはその足へのダメージは諦めたようで本体に向かっていた銛も被弾した足で全て受け止めた。

中には器用にキャッチした足もあるよだ。


「今度はこっちの番だな!」


俺はシュピーツに作ってもらったばかりの武器を取り出す。


―・―・―・―・―・―


【銛】雷導銛(らいどうせん)

品質A、レア度7、鍛冶師シュピーツの作。

錆びにくく伝導率の高い銀でできた銛。

雷魔法との相性が非常によく、突き刺した相手に電気を流すことを目的として作られた。

投げ槍として用いることもでき、銛の石突部分より水蜘蛛の糸が出る為回収も容易。


―・―・―・―・―・―


「シッ!」


腕を振りかぶり思いっきり投げる。

学校の陸上部の奴らが槍投げしてるとこを見ていてよかったな。


幽霊船から放たれる銛に比べ小さなそれを警戒する必要がないとばかりにクラーケンは無視してくれる。

何の抵抗もされず銛はクラーケンに突き刺さり、あいつにとっては蚊に刺されたようなものでダメージもないのだろう。

バカだな。


俺は石突から伸ばして握っていた水蜘蛛の糸に思いっきり雷撃を流す。

本来の使い方とは違うのかもしれないが、水蜘蛛の糸も伝導性がいいことはウィルに聞いている。


余談になるが現在俺が着ている服は、一夜でウィリアムが仕上げてくれた水蜘蛛の糸を用いた服だ。

さすがの防御性に加え、水耐性が付与されており水の中でも動きが阻害されることのないように配慮されている優れ物だ。


ギシャァァァァァ


クラーケンの叫び声が響く。

水蜘蛛の糸を伝い、銛からモロに雷撃を受けたクラーケンの痛みはどれほどか。

海水も電気を通しやすい為、銛から海中へと通電しないようにするのが苦労したとシュピーツは語っていた。


「よくやった友よ!」


後ろから銛と一緒に言葉を投げかけられる。

キャプテンも慈悲などないようだ。

畳みかけるように銛の雨が降ってくる。


俺もまだ刺さった状態の雷導銛から電撃を再度流してやる。

なんだかいじめているような気になってくるが、ここまで近づいたことでより鮮明に見えるようになったクラーケンの周辺に壊された船が沈んでいるのを見ればこの程度では収まらないという気になってくる。


俺とキャプテンが攻撃を浴びせている内に、アステールは俺から離れて足をどうにかするようだ。

暴れている為俺達に狙いをつけることはできないようだが、それでも当たれば脅威である足に対処してくれるのはありがたい。

特に幽霊船は簡単に避けることはでいないようだからな。


アステールはその身を弾丸のように回転させながら足を一本ずつ抉る。

いくら太いとはいえ、アステール弾丸によって抉られ大穴を空けられた足は切り離されていく。


アステールが全ての足を切断し、切り離された足が海上へと浮き上がった頃。

電撃と銛の雨によりクラーケンはその動きを完全に止めた。

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