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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第九章 荒れる海と幽霊船「曇天の港町」編
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第202ページ 絡まれる冒険者

武器屋を出た俺は、アステールと共にこの町を見て歩いた。

港を市場の中心とし、すべての中心は港であることがわかる。


町は港からどのようにすればうまく海産物を運ぶことができるか。

どのように港へのアクセスを良くするか。

港周辺に何があれば便利かに重点を置き作られている。


それは見事なものだった。

港を、海を起点としながらバランスよく民家や商家が作られる。

宿屋やその他のものが。


それだからこそ。


港が使えない今、その不安は何倍も大きく、何倍も速く、町人たちに届く。

このまま港が使えなければ、港町トウナールは衰退していくだと。

緩やかにではなく、加速度的に。


早く解決しなければならない。

だが、町人たちがキャプテンを敬っているのも事実なのだ。


彼はトウナールの守護神であり、町人たちの憧れ。

敬意と憧憬を一身に受け、海を、町を守るもの。


「やっぱり、倒すわけにはいかないよな…」

「クルゥ?」

「いや、なんでもないよ」


キャプテンがクラーケンを倒してくれるのが一番いい。

だが、誰もが口に出さないけれど思っているだろうことがある。


キャプテンは本当にクラーケンを倒すことができるのかどうか。


それは漁師たちでさえそうなのだ。

町人とっては全く信じていない人もいるだろう。

中にはもう移住を考える人も出ているかもしれない。


もう時間はない。


「…最悪の場合は」


俺はある覚悟を決める。

俺の美学に最も沿うならば、結果どうなろうと構わない。


---


ようやく今夜から泊まる宿を見つけた俺は、再度海の様子を見に行くことにした。

頼んだ武器は明日にはできるそうだ。

それまでは待つしかない。


だが待っている間にキャプテンがクラーケンに挑まないとは限らないのだ。

本当にめんどうだな。


「おい!」


海辺を歩く俺たちに後ろから声がかかる。


振り向くと一人の子どもが立っていた。

焼けた小麦色の肌で髪にはバンダナを巻いているが薄紫の髪色。

誰かに似ているような気もする。


キッとこちらを睨んでいるその子に、俺は返答する。


「何か用か?」

「お前、クラーケン倒しに行くのか!?」

「…わからんが、明日様子は見に行くつもりだ」

「俺も連れてけ!」

「……は?」


何を言われたか理解できずフリーズしていた。

視た(・・)ところこの子どもはまだ9歳。

10歳にもなっていない子どもだ。

それにこいつ…


「連れてけって言ってるんだ!」

「断る」

「なっ!?」


子どもはこれでもかというくらいに目を見開いて驚いている。

しかし驚きたいのはこっちだ。

何故連れて行って貰えると思っていた?


「連れていくメリットがない。デメリットなら山ほどあるが」

「なんでだよ!ここは海だぞ!?」

「そういう意味じゃない。だいたいなんで付いてきたいんだ?」


俺が言うと子どもは更にキッと目を釣り上げて睨んでくる。


「誰もクラーケンを倒せないんだ!だから俺が倒すんだ!」

「…は?」


聞き間違いだろうか。

この小さな子どもがクラーケンを倒すって言ったぞ?


「キャプテンだって、クラーケンを倒すことなんてできないんだ!だから俺を連れて行け!」

「いやいやいや、待て待て待て」


どうやらこのくらいの子どもだとまだキャプテンに対する信仰心もあまりないらしい。

それは別にいいんだが、そのせいで自分が倒すと言い出すのは困る。


「俺はカイ!海の()だ!」

「そうか、カイ。俺はシュウだ、こっちはアステール。じゃあな」


胸を張り、親指で自分を指すカイに対し俺は答える。

ステータスを視ていたので自己紹介は必要なかったが、そんなことは言わない。

他のことも言わない。


「お、おい待てよ!」

「なんだ?」


通り過ぎようとした俺の服をカイが掴んでくる。

振りほどくことは簡単だがさすがにできない。


「だ、だから俺を連れて行けって!クラーケンを倒すんだ!」

「はぁ…まずどうやって連れて行けと言うんだ。俺は船を持っていないぞ?」

「そ、その魔物に乗っていくんだろ!?俺も乗せてってくれよ!」

「アステールな。んで、乗せていった所で海に入るのは俺一人だ」

「なんでだよ!?俺だって泳げるぞ!?」

「泳げるだけで戦闘なんてできるわけないだろう」


なんか疲れてきたな。

子ども特有の話の通じなさがある。

だいたいこいつの親はどこだ?


「じゃ、じゃあお前はどうなんだよ!?」

「俺は水中でも戦闘ができる」

「なんだよ、それ!ずるいぞ!!」


ずるいって…


「おいカイリ(・・・)!何やってやがる!」


このうるさい子どもをどうしようかと考えていると、向こうからダンが怖い顔をして走ってくる。

子ども、正式名称カイリは「やべっ」と呟いて俺の後ろに隠れた。おい。


「シュウ!カイリをこっちに渡せ!」

「いや、渡せも何も…ほら、さっさとあっちに行け」

「い、嫌だ!ダンおじさん怖い!」

「なんだと!?」


確かに今のダンは9歳児からすると恐怖の対象だろう。

だからと言って俺を盾にされるのも困る。


「だいたいなんだってカイリがシュウと話しているんだ!」

「クラーケンの討伐に連れて行ってほしいんだと」

「何っ!?それでお前了承したのか!?」

「するわけないだろう…」


勘弁してくれ。


「カイリ!」

「う、うるさい!俺は父ちゃんの仇を討つんだ!」

「ぐっ」


ふーん。なるほどね。

こいつの父親はクラーケンに殺されたわけか。


「だ、だがお前は子どもなんだぞ!?」

「馬鹿にするな!もう子どもじゃないやい!」


いや、子どもだろう。


「お、お前は女の子だろうが!?」

「そんなの関係ねぇよ!」


ステータスの表示でもこいつは女になっていた。

どういった理由で男と言っていたのかは知らないが、確かに今回の場合性別はあまり関係ない。

それ以上が大きすぎるからだ。


「駄目だったら駄目だ!」

「なんでだよ!?」


まだ煩く言い合っている二人を置いて、俺は宿へと戻った。

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