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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第九章 荒れる海と幽霊船「曇天の港町」編
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第199ページ 海賊王物語

話を聞き終えた俺は、結局どうすればいいのかわからなかった。

キャプテン・ショーンが普通の魔物なのであれば、クラーケンを討伐した後キャプテンンを討伐ということでよかったかもしれない。


しかし、この町に住む人にとってキャプテン・ショーンは英雄であり、守り神にも等しい存在なのだという。

そんな存在を勝手に討伐するわけにもいかないだろう。


とりあえず俺はこの町のもう一人の顔役、トウナール漁業組合組合長オルフォーに会うべく港に向かっていた。

オルフォーは港に隣接された集会所にだいたいいるらしい。


「こんちはー」


あまり大きくない木造平屋。

トウナール漁業組合と達筆な字で書かれた立て看板が置いてあるそこに入り声をかけると、強面の男達が一斉にこちらを向いた。

思わず一歩後ずさる。


「何だ、小僧?」

「オルフォー組合長はいるか?」


そう言った途端、男達の空気が更に鋭くなる。

浅黒い肌をした逞しい体つきの男達が揃ってこちらを睨みつける。


「親父に何の用だ!?」

「見たとこ冒険者か。ふん、役立たずがまた増えたのか!」

「お前みたいな小僧に何ができる!?」


海に出れず漁師たちが荒れているのは聞いていたが、ここまで罵声を浴びせられるとは思っていなかった。

俺はいいんだが、ここがまだ入り口だった為に後ろで聞こえていたアステールの空気が剣呑なものになる。


どうしたものかと溜息をついた時、男達の奥から野太い声が轟く。


「どけガキ共!仮にも儂の客に対してそんな口聞いてんじゃねぇ!」


男達をかきわけるようにして、一人の男が現れた。

歳は60を越えているだろう、だがその挙動と筋肉はまるで老いを感じさせない。

他の男達同様の浅黒い肌。

銀色の短髪に碧い瞳。


「け、けどよ親父…」

「親父!」

「うるせぇ!ほら、どっか行ってろバカ共が!」


親父と呼ばれた男がしっしと言うように手を振るとしぶしぶといった感じで男達が散っていく。

一睨み俺を睨むのを忘れずに。


アステールは納得できないといった感じだったが、どうにか宥め外で待っててもらう。

俺が男に向き直ると、アステールと俺を興味深そうに見ていた。


「お前が、ユースの言っていた冒険者だな?」

「シュウ・クロバだ。あんたがオルフォー組合長か?」

「そうだ。ふん、良い目をしているな。来い、話をしよう」


顎をくいっとして奥を示す。

頷いて付いて行くと、小さな部屋へ通された。


「話は聞いたか?」

「ああ。めんどくさいことになっているようだな」


俺がそう言うと、オルフォーは苦い顔で頷く。

本来守り神的なキャプテンのせいでクラーケンの討伐ができないというのは複雑な思いなのだろう。


「キャプテンの話を詳しく聞いてもいいか?」

「ああ」


辺境伯はあまり詳しく知らないようだった。

生存していた頃のキャプテンの話は漁業組合の方が詳しいということで聞きにきたのだ。


オルフォーは古い本のような物を開き読んでくれる。

それは辺境伯のところで聞いたようなお伽噺ではなく、実際の航海日誌であるようだった。


当時の状況そのままに、俺の頭に入ってくる。

それは悲劇から始まり、スリルとロマン溢れる冒険譚であり、哀しい恋物語でもあった。


キャプテン・ショーンはこの町で生まれた男だった。

漁師だった父に憧れ、ショーンは当然のように漁師となる夢を追っていた。


そんなある日、町に一隻の商船が訪れる。

商船は食糧等必要物資の補充の為に立ち寄ったのだ。


しかし、その商船は商船ではなかった。

商船に偽装した海賊たちであったのだ。


町人たちが寝静まった頃、海賊は本性を現した。

夜の帳が包む中、町に惨劇の幕が開く。


悲鳴が響き、血の匂いが充満する中でショーンは自分と母、幼い弟を逃がす為に立ち止まった父が斬られるのを見た。

弟を抱いた母が後ろから撃たれるのを見た。

幼い弟の泣き声が止まった。


ショーンは震える体を無理矢理押さえつけ、生ごみが捨てられる臭い穴倉で一夜を過ごした。

やがて町からは何も聞こえなくなる。


海賊たちは、漁師たちの逆襲を受け、更に立ち寄っていた冒険者によって返り討ちにあっていた。

しかし、町の被害は甚大であった。


ショーンは自分に力がなかったことを嘆く。

そして、みんなを守れるようになりたいと思う。


ショーンの冒険はそこから始まった。


いくつもの冒険を経て、ショーンは海に出る。

海賊となり、海の平和を守る為。

海から、自分の故郷を守る為。

自分の町に起こったことを、他の町に起こさないようにする為に。


ショーンは海の上にあって天才だった。

その船は誰も寄せ付けず、誰も追うことができず。

風を味方につけ、鳥の声を聞き、ショーンは海の平和を守り続けた。


そうしている内に、ショーンは一人の女性と出会う。

誰もいない筈の島に、女性は一人でいた。


ショーンは女性と恋に落ちる。


だが、ショーンが船から降りることはできなかった。

彼がいなければ、海の秩序は保たれない。


ショーンは約束する。


『年に一度、必ず君に会いに来る』


女は答える。


『お待ちしています。いつまでも』


ショーンはその後、年に一度必ず女の待つ島へと向かった。


そんな時、ショーンが過去打ち果した海賊たちが、ショーンへの復讐を目的に結集する。

だがショーンの敵ではなかった。


あっさり打ち破られた海賊連合は、ショーンが年に一度だけ女に会いに島へ現れると聞く。

ショーンに正攻法で勝てぬ彼らは、女を人質に取ることを思う。


そして、その作戦は見事成功した。

愛しい女を人質に取られたショーンは、何もできず仲間と共に殺された。


何年も、何十年も共に旅した仲間と、船と共に、海へ沈められる。


女は嘆き悲しんだ、私のせいで愛しい人が死んでしまったことを。


しかし女には希望があった。

ショーンの子どもを身ごもっていたのだ。

しかし、女の不幸は終わらない。


海賊たちは、ショーンを殺した後、当然のように女に乱暴をする。

何人もの男に犯され、女はこの世を呪った。


そして女は、ショーンに思いを馳せながら、恨みのままにこの世を去る。


ただし、海賊達は知らなかった。


何故、女が一人この島にいたのか。

女の役割が何なのか。


女は人柱であった。

海の神に捧げられた、海の神の怒りを鎮めることのできる唯一の存在。


海の神は怒り狂う。

自らの友を殺されたことを。


その怒りに海は割れ、海底から一隻の船が浮かび上がった。


不死者となったその船乗りたちは、自らを、最愛の女性を殺した者達を殺し尽くす。

そして、海の平和を取り戻さんと、男達は悲しみの中、再度海へと漕ぎ出した。

あけましておめでとうございます!

昨年はお世話になりました。

今年もよろしくお願いします!

この物語は果して今年中に完結できるのか?笑

これ以外のこの世界のお話もぼちぼち進めますし、VRMMO物なども書いてみたい…

頑張ります!

皆さまもどうかよい一年をお送りください!

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